エンカウント/ミスティ 《56-4占い師からの忠告》
「ミスティちゃん、大丈夫? 変なことされなかった!?」
なんでこの記者は、どこにでも湧いて出てくるんだろう。
そう思いながら誰もいない夜の庭園を、占い師とフェデリコと歩く。
「別になにも。飲み物持ってきたフットマンが、最低最悪だったこと以外は。ねえ占い師さん、あのアパルトマンどう思う?」
急に話を振ったので、キョトンとする占い師。
「どう……って」
「なんか不吉なものとか、いない? 実はギャラクスさんの部屋で、変なもの見ちゃって。もしできたら、その正体を占ってほしいの」
占い師とフェデリコが一瞬顔を見合わせ、占い師の方が訊いて来る。
「ちなみにどんな?」
「女の人の絵が飾ってあるんだけど。目が動いた……って言ったら信じる?」
単刀直入に言えば、私は分厚い壁の中に隠し空間があって、そこに彼らが潜んでいたのではないかと思っていた。
動いていた目は、どちらかが部屋の中を覗いていたから。
もし私の想像が当てっていれば、どちらかが何かしらの反応を見せると思った。
占い師は額に二本の指を当てて沈黙し、目を閉じる。
「その絵が関係あるかは分かりませんが、あのアパルトマンには国王様の重大な秘密が、隠れている気配を感じます。
もう一度忠告しますが、二度とあのアパルトマン、いえ、この城に近付いてはいけません」
「できれば二度と、近付きたくないわね。あー、もう腹立つ!」
気が抜けたせいもあり、文句が口からこぼれる。
「すごい荒れてるねぇ、何があったのさ?」
フェデリコは若干引いているが、私と同じ目に遭って怒らない人がいるだろうか。
ギャラクスさんの部屋での嫌な応対のことから、ベリオットの部屋へ行こうとした時の話を簡単に話した。
「それ、ベリオット君に言った方が良かったんじゃない? それかさっき、宰相さんに言えばよかったじゃん。主人の客にそんな態度取るとか、あり得ん」
フェデリコの言うことは、まったくもってその通りだと思う。遠慮して言えなかったけど。
「本当はベリオットの部屋に行って、慰めてもらいたかったけど。絶対に彼がドン引きするくらいに、悪口と苦情言いまくる予感しかしないから行くのやめたの」
それでベリオットの前で醜態を晒してしまったら、あいつらの思うつぼ。
だから我慢したのだが、フェデリコが別の提案をした。
「部屋は目と鼻の先だったんでしょ? 帰るにしても一度ベリオット君に会って、当てつけに奴らの目の前でチューでもしてやりゃよかったのに」
「やればよかったかも」
ベリオットには一目も会えず、罵倒だけされに行ってしまった形になるのが、今更だけど悔しい。
「訪ねてきた彼女追い返すとか、俺がベリオット君だったら怒るしクビにするね」
すると占い師が言った。
「災難でしたね。ところで僕、呪いも扱っていますが」
ちょっとだけ考えてしまった。本当に彼らの意見のせいで別れることになったら、やってもらおうかな。
心の中で誘惑と戦っていると、フェデリコがギャラクスさんとの用事の話に言及する。
「ところで宰相の部屋に、何の用事だったの?」
「ヒミツ」
返事はNo寄りの保留なのもあって、あんまりペラペラ話したくない。
「えー、怪しい」
やっぱりフェデリコは「言いたくない」及び、それと同じ意味の返事は許してくれない。
「だってあなた、宮廷の人のネタを狙ってここに来たんでしょ? ギャラクスさん怒ってるっぽかったから、強引に連れ出したのよ」
どちらかというと占い師に対して矛先が向いていた感じだし、こう言うのはちょっと変かもしれないけど。
一緒にいた以上、フェデリコも良く思われてはいなさそうだし、まあいいか。
「そうだったの!? あ、ありがと。でも俺改心したんだからさ。嘘書いたり、知られたくない話をばら撒いたりなんかしないって。信じてよ」
必死そうに言い募るフェデリコだったが、いまいち信用できない。現にアムレートさんも、疑うようなジト目で彼を凝視している。
でも、下手に隠して変な邪推をされるのも嫌かも。
「じゃあ言うけど、養子縁組の打診があったの。ギャラクスさん、亡くなった父親の親友だったらしくてね」
出て来たのが私一人だったのを変に思ったのか、アムレートさんが言った。
「ルベオルスは、縁組してないんですよね?」
「兄はギャラクスさんと出会った頃には、別の人の籍に入ってたから断ったみたい。その人も、亡くなったみたいだけど」
話し終えるとフェデリコが「宰相と盗賊狩りのサフォーが養子縁組、ねえ。それまた売れそうな」と呟いている。
ここに来る前に、道で受け取ったビラを取り出し、ある光景を思い浮かべて裏の部分に念を送る。
「もし勝手にネタにしたら、この偽写真いっぱい作って大量にばら撒くからね」
ビラの裏に念写で作ったフェイク写真をフェデリコに見せると、彼は凍り付いた。
私が作った偽写真。
それは雑誌の表紙を飾る王様の顔写真に、彼が煙草の火を押し付けるという、とんでもない内容だ。
そんな事実はもちろんないが、私の悪意と念写を知らない人からすれば、立派な「真実を写した」映像になってしまう。
この偽写真も、けっこうクオリティ高くできたので、信じる人は信じてしまうんじゃないだろうか。
アムレートさんが偽写真を覗き込んで笑う。
「これはこれは。バラ撒きでもしたら処刑待ったなしですね」
フェデリコは映像の内容が内容なだけに、顔を青くしている。
「おいおいおい、そりゃ困るって……念写の悪用しちゃダメだよ」
「あなただって、カメラとペンを悪用してたじゃない」
手の平の上に小さな炎を召喚し、偽写真を燃やした。




