エンカウント/アルフィード《55-3城門通過許可証》
無事丘陵の政兵の署に盗賊を送り届けると、まずフェデリコからイルゼへの謝罪があった。
「……すんませんでした。俺よりハンサムがこの世にいたと勘違いして、八つ当たりしてました」
いったい自分をどれだけ高く見積もっているんだと言いたくなるが、真面目に相手をするだけ労力の無駄である。
謝罪されているイルゼも、すでに怒る気すら失くしている模様。
「別にいいんだけどさ……あたし、あんたがモデルとか俳優とかみたいな、イケメンで当然の人達相手に犯罪しないか他人事ながら心配だよ。記者だったら近付く機会はいくらでもあるだろーし」
「体に爆弾巻きつけて、宰相の所に殴り込みに行ったりして」
本当に顔だけを見るのであれば、奴より美しい男を俺は知らない(あとは死んでしまっているが、ミスティの父親とか)。
だが、それに賛成するほどフェデリコも馬鹿ではなかったようだ。
「やだよ、俺別にテロがしたいわけじゃねえし。あのスカした宰相はいけ好かないけどさ。絶対国王とあいつ、ヅラだよ。あのわざとらしい不自然な髪形は絶対偽造だ!」
表向きは宰相ではあっても、本性は世界を滅ぼさんとする魔王。
本当に奴だけを巻き込んで自爆してくれたら俺は、星になったフェデリコを惜しみなく称えるであろう。
ところで宰相で思い出したのだが、あの店の女性の言葉が気になっていた。
「そういえば『今日ギャラクスさんに会ったら言っておいとくれ』って、聞こえたんだけど」
詳しく訊きたかったけど、ハンターとして動いている最中なので、盗賊団の護送を優先しなければならなかったのが悔やまれる。
「その話なら、アンタらが来る前に、ちょっとだけ聴けたよ」
店にいる時にイルゼは、約束を取り付ける他に、ちょっとした雑談もしてきたらしい。
「来てもらうの、今日にしてもらおうと思ったらさ『今朝城から、急に呼び出しの手紙が来たから、今日は無理』ってなったんだよね」
「具体的な用事とかまでは、訊けなかった?」
「何の用か手紙には書いてなくて、ただ『宰相専用のアパルトマンに来い』って指定があっただけなんだって」
イルゼの話を一緒にここまで聴いていたフェデリコが、心底気持ち悪そうに顔を歪める。
「……うっげぇ、気色わるっ。行かない方がいいよ。ナニ考えてんだよあのオッサン」
考えていることは違うだろうけど「行かない方がいい」というのは賛成できる。
「なんでも郵送便じゃなくて、使者が直接渡しに来て『手が空き次第すぐに読ませろ』って、あの店のおかみさんに言付けしたらしいって言ってた。トイレ掃除が終わるや否や、手紙渡されたって」
郵送便ではなく使者をという所が、武道大会の後、ユングや俺達を罠にはめた時のことを彷彿とさせる。
ミスティのことも帰すつもりなんてなく、拉致して殺そうとするかもしれないという疑いが深まる。
「俺も城に入れる手段があれば」
兵士の応募用の書簡を持って、直接応募しに来た体でも装うか……と考えていると、フェデリコが親指で自らを指して言う。
「城、行って来ようか? 手放しであんたらの味方はできないけど、ミスティちゃんは心配だし」
「ありがたいけど、やめておくよ。これ以上関わるのは本当に危ないし、ましてや城への侵入だなんて」
俺が断ろうとすると、彼は途中で首を振った。
「違う違う。俺、城門の通行許可証あるから、正面から入れるんだよ」
「えっ、本当に入れるの!?」
胸ポケットから革ケースに入ったパスが取り出される。
右下には「ルートヴィグ=フィドエリオ」と、国王のフルネームでのサインも入っていた(一瞬『偽造じゃないか?』と、疑ったけど)。
「顔に似合わずすごいじゃん、相当信用されてんだね。見直したよ」
「グレナちゃん……だっけ? 俺が男と間違えてたの、怒ってるよね?」
グレナというのは、イルゼの偽名である。
それはさておき、フェデリコは王族から信頼を得られるような、特別な働きでもしていたのだろうか。
記者の肩書を提げた、チンピラもどきだと思っていたのに、ちょっと見直した。
それなら、お願いしちゃおうかなと思っていると、彼は許可証を得るに至った経緯を語った。
「……実は何回も侵入してる内に、『そのたびに兵士をそっちに取られたら迷惑だ』って、ルベオルス君が王様に頼み込んでくれてさ、許可証もらえた。おかげで城の敷地には、ほぼ全部入れるよ」
非常に危険な入手方法を知って、背筋が寒くなる。
そしてルベオルスの苦い顔が、容易に目に浮かんだ。
「……処されなくてよかったな」
とはいえこの行動力は、見習いたいかと言えば微妙だが素直に凄いと思う。
「『もし俺を処刑するなら、わざとニセ情報掴ませて嘘記事書かせたのバラす』って言ったからかなー?」
嘘記事の内容については知りたくもないが、それ、絶対に王様、復讐の機会伺ってるぞ。
(多分サインも、渋々書いたんだろうな)
やっぱり兵士志願を口実に、と考えを改めていると、声が掛けられた。
「許可証なら僕も持ってますよ」
「ま……アムレート」
つい「マクベス」と言いかけ、偽名を言い直す。彼もフェデリコと同じパスを見せたが、右下のサインは国王ではなかった。
「王廷騎士ベリオット=シュットガイスト」
「えええ!? ベリオット君ナニしてんの!!?」
フェデリコの目が「こんなうさん臭い奴に」とでも言うように、マクベスと許可証のサインを交互に見ている。
そんな彼に対して脳内で「お前が言うな」と毒づいていたら、おかしなことに気付いた。
「王廷騎士ってそんな権限、ないんじゃないの? ルベオルスはフェデリコの為に、王様に許可証の発行を頼んだって聴いたよ」
「敷地全てとなると国王の許可が要りますが、庭園や宮殿アパルトマンまでなら、将軍や王廷騎士の許可で足りるそうです」
マクベスの回答を聴いて、なぜルベオルスは自分の権限の範囲で許可証を出さなかったのか、納得した。
「……なるほど、彼の場合は本館にも侵入するのが解ってたから、ルベオルスは王様に許可証を頼んでくれたんだね」
脳内になんとなく「無理が通れば道理が引っ込む」という言葉が浮かんだ。
「それはそうと、シュットガイストにどうやって許可下ろさせたの?」
イルゼに尋ねられると、マクベスは商売道具のカードをローブの中から取り出した。
「城門近くで占いやってたら、彼も視てあげることになりましてね。先に占って差し上げた貴婦人方の後押しもあって、許可証を発行してくれたんです」
城門近くの塀は柵状になっていて、外からも中の庭園が見えるようになっている。当然逆からも。
「図らずとも、貴婦人達が味方になってくれたのか。女のひとって、占い好きだもんな」
「いやー、みなさん『当たってる』って、喜んでくださって」
貴婦人達からの気に入られぶりを聴いて、イルゼもマクベスの手のカードに興味ありげな視線を注ぐ。
「そんなに当たるの? あたしも後で占ってほしいな」
「コツがあるんです。占うこっちも、質問をたくさんしてあげるんですよ。それで情報を引き出して、結果を導き出すんです」
「……それってインチキ」
フェデリコが呟く。マクベスは首を振って返す。
「満足はしていただけますよ。言ってしまえば、女性はお喋りを聴いてもらうのが好きですから、そっちをメインに据えているんです。
あなたになりすましていたビオナードだって、そういった取材のやり方で貴婦人達の支持を得ていたそうじゃないですか……それよりフェデリコさん」
「ナニ?」
「たった今、あなたの未来が見えましたが、言動には気を付けて下さいね」
「はァ!?」
「近い内にあなた、失恋すると出ています。しかも大変ショックな形で」
それは占いの結果ではなく、彼の素行を見た形の未来予測……つまり遠回しにディスっているのでは。
「あ、気を悪くされました? 近い内に情報が流れるでしょうし、お詫びにちょっとだけ記事のネタになりそうな話を教えてあげます。僕、たった今レオパルテ軍の宿舎に行って来たんですが」
「あそこって、一般人は入れないんじゃないの? 俺『立ち入り禁止だ』って、銃突きつけられたんだけど」
不満げに言うフェデリコに、マクベスは続けた。
「正確には、宿舎の敷地には入ってませんよ。そこの兵士達が話してたんですが、レオパルテ軍の基地に新しい部門ができるそうなんですって」
「ふーん」
そっけない返事ではあるがフェデリコの手には、しっかりとメモ帳とペンが握られている。
「結構大きな部門にするらしくて、新しく専用の要塞を建設するとか。何なら今、行ってみたらどうです?」
マクベスが勧めると、フェデリコは猛スピードで兵士の宿舎がある方角へ走っていった。




