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エンカウント/アルフィード《55-2今度は自らカフェ『ラビットラバーズ』へ》

 さっきの電信音は、丘陵の政兵( アクロポリス)からだったようだ。


「丘陵の政兵( アクロポリス)といい監視員(ウィギレス)といい……公共のも民間のも、治安維持組織は人手不足だってね」

 とフェデリコ。


「他のハンターに聞いたんだけど、城での兵士の募集が拡大されたらしいね。そっちに流れてっちゃうみたいだよ」


 ちょうど俺も、応募専用の書簡用紙を入手したところだ。


 ギルド員は続けた。


「賞金首は盗賊団『バイパー』、場所はカフェ『プチガーデン ~ラビットラバーズのアフタヌーンティー』を連中が占拠している!


最低でも三人、できれば五人は欲しいんだ、誰か出られる奴いないかー!?」


 中心街の、ギルドからさほど離れていない場所に、その店はあった。


 可愛いウサギ人形が飾られた入口のドアを叩いて開けると、人相の悪い中年男性が出迎える。


「この人マスターね、盗賊じゃないよ?」

 耳打ちしてくるフェデリコに、「分かってるよ」と返す。


 ……フルール・ド・ネージュで免疫(めんえき)がついていたつもりでも、このギャップは慣れるものじゃない。


「待たせたなマスター、丘陵の政兵(アクロポリス)からの委託で来たぜ!」


 一番年上のハンターが、店主に用件を告げた。

 他のハンター達四人中三人は常連でもあるらしく、慣れたもので、あたかも普通そうに応対している。


「おぉう、お前ら待ってたぜ! 盗賊どもはもう縛ってあるから連れて行ってくれ。店のモンは片付けで忙しくてな」


 しかしその内の一人、俺と同年代のハンターは、銃に手を掛けたまま「うっそー……」と硬直しているので、彼はおそらく初めて来るのであろう。


 それよりもミスティは!?

「あ……あの、ミ……お店の方に、怪我はありませんか!?」


「椅子やら飾りはいくらか壊れちまったが、従業員は無事だ。おーい、お前ら。ハンターどもが来たぞ、引き渡してくれ」


 マスターが奥に向かって呼びかける。奥から縄を持って盗賊達を引き連れた、浅黒い肌の若い男と……


「お待ちしてましたー、よろしくお願いしまーす」


 ピンクのシフォンのワンピースに、フリルのエプロンを巻いたミスティが出迎えた。


(やっと会えた。制服、似合ってて可愛いな)


 元気だったか、怖くなかったかなど……話したいことが先を争って出てこようとするので、かえって言葉に詰まってしまった。


「あれ、フェデリコまた来たの?」


 真っ先にミスティが話しかけたのは、俺ではなくフェデリコ。


 そうだった。俺は今「ブランテル=ジャックローバー」という、初対面の、もっと言ってしまえばフェデリコよりも赤の他人なのだ。


「あーあ、ミスティちゃんにまた会えると思って、すっ飛んできた!」


「とか言って、盗賊団目当てじゃないの? 店内は撮影禁止よ」


 恥ずかしげもなく歯の浮くような言葉を吐く彼に嫌な顔をせず、受け流すのを見るに、彼を「こういう人だ」と扱えるにまで至っているのだろう。


「それじゃあ、よろしくお願いしますね」


 目の前のハンターが「アルフィード」とも気付かず、ミスティは盗賊団を託(たく)す。


 縄で縛られた盗賊団は全身が傷だらけだった。


 そして「寒い」と呟きながらガタガタ震えていて、その体からは潮の匂いがした。おそらくミスティがかつて俺達にもぶつけてきた、海の攻撃魔法の匂いだ。


 エルバ村での戦闘を思い出していると、背の高い客が横をスッと通過した。


(入った店に盗賊来るとか、災難だったな)


 と同情しつつ、気の毒な客の顔を見ると、イルゼだった。


「じゃあ、楽しみにしてるよ」

 彼女は振り返り、ミスティに向かって微笑みかけ手を振っている。


「うん。あと、ご協力ありがと」

 盗賊退治には、彼女も一役買っていたらしい。そしてもう、会う約束を取り付けているみたいだ。


「あ、来てたの」

 俺に気付くとイルゼは小声で「OK取ったよ」と、ウィンクした。


 フェデリコは彼女に対して「チッ……ハンサムめ」と、敵意をむき出しにして舌打ちしている。


「ちょっとミスティちゃーん、俺はダメでコイツはOKしたの!? やっぱ顔?」

 と文句をまくし立て、それから「ばか!」(そして何故か)「浮気者!」「面食い!」だの、言いたい放題。


 年上の男が駄々をこねるという、実に醜い事態が繰り広げられ、あまりの見苦しさに目を背けてしまった。


「『浮気者』って、あんたの女じゃないでしょうに」

 イルゼが呆れたように仲裁する。


 おそらく彼が言いたかったのは「自分との浮気を疑われたのを理由に同行を断ったのに、なんで他の男からの申し出にはOKするんだ? そいつとの浮気は疑われても構わないのか」だろう。


 彼に本当のことを言うべきかと思っていると、ミスティは平然と真実を告げた。


「いくらなんでも女の子にまで、ベリオットだって怒ったりはしないでしょ」


「へ? そいつ男じゃないの!?」


 間抜けな顔で訊き返した彼の前で、ミスティはイルゼに正面から抱き着く。


「フェデリコ、こんな美女を捕まえて男と間違えてたの? 信じられない、失礼しちゃう!」


「それはいいんだけどさ……なんかこの人、あたしへの当たりがやたらキツイくて、地味に傷ついてたんだよね」


 イルゼの暴露(ばくろ)で、ミスティは当然ながら「ひどい……最低」と怒っていたし、ちょうどそこに来た別のウエイトレスからも、


「えっ、フェデリコさん、女の子いじめてたんですか!? ……そんな人だとは思わなかった」

 と非難を喰らっていた。


 その時、盗賊を括(くく)り付けた縄を持ったハンターが、俺にも縄を渡す。

「ブランテル(俺の偽名)、だっけ? 行くぞ。これ、お前の分」


 去り際に店の中から、中年女性の声でこう聞こえた。


「まったく都の治安はどうなってるんだろうねえ!? ミスティ、今日ギャラクスさんに会ったら言っておいとくれ」

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