エンカウント/ミスティ《55-3改造ハンサム美女のち、丘陵の政兵(アクロポリス)委託のハンター》
「……さっき盗賊の腕斬ったやつ、あなたが?」
頭目や団員達を斬った件について、イルゼに尋ねる。彼女はどう見ても刃物なんて持っていなかった。
しかしあの、彼女の手を濡らした血はどう見たって、盗賊のものでしかない。
「まーね、帝国にされた改造手術が、役に立ったみたい」
自嘲気味に笑う彼女がスッと差し出した手先には、人間にしてはかなり細く尖った、分厚い爪が。
改造の事は、確かに知っていたけど改めて見ると、こんな凄い、しかし恐ろしい技術が実現されてしまっているなら、世界を実質的に牛耳っていたのも納得がいった。
財政や技術力だけじゃない。倫理や道徳の逸脱具合の観点から見ても。
そんな帝国が滅びることになったのは、レオパルテの軍が、全部地上人である前提で戦ったからだといえよう。
悪魔のような技術で強化された軍隊は、本物の悪魔の悪魔がいる軍隊にだけは勝てなかった。
オリヴィエが濡れた手拭き布を、イルゼに差し出す。
「お客さん、怪我はな……さそうですね。いずれにしろすみません、お客さん、しかも女性にこんなことさせちゃって」
「ありがと。あたしは大丈夫。それよりさ、今日のおすすめのランチセットお願い。注文し損ねたから、お腹空いた」
しばらくして扉が叩かれると、店主が出迎えた。
「待たせたなマスター、丘陵の政兵からの委託で来たぜ!」
到着したのは丘陵の政兵ではなく、代理のハンターだった。
「おぉう、お前ら待ってたぜ! 盗賊どもはもう縛ってあるから連れて行ってくれ。店のモンは片付けで忙しくてな」
常連のハンター三人と、その後ろに彼らと比べて若い男のハンターが、二人見えた。
「あ……あの、……お店の方に、怪我はありませんか!?」
初めて見るハンターの一人が、店主とドアの隙間から中を覗く。
アルに似てるなと、ちょっとだけ思った。
「椅子やら飾りはいくらか壊れちまったが、従業員は無事だ。おーい、お前ら。ハンターどもが来たぞ、引き渡してくれ」
店主がが奥に向かって呼びかけると、盗賊達を縛っている縄を持ったオリヴィエが「へーい」と返事した。
盗賊と、オリヴィエと一緒に外に出る。
「お待ちしてましたー、よろしくお願いしまーす」
ハンター達に盗賊団を託そうとしたところで、さっき帰ったはずのフェデリコの姿に気が付いた。
「あれ、フェデリコまた来たの?」
「あーあ、ミスティちゃんにまた会えると思って、すっ飛んできた!」
調子のいいセリフを吐いてはいるが、その手にはカメラのレンズが輝いている。
「とか言って、盗賊団目当てじゃないの? 店内は撮影禁止よ」
フェデリコに釘を刺し、改めてハンター達にお願いした。
「それじゃあ、よろしくお願いしますね」
食事を終えたらしいイルゼが店を出て、こちらに振り返って手を振った。
「じゃあ、楽しみにしてるよ」
「うん。あと、ご協力ありがと」
再び前を向いた彼女が「あ、来てたの」と話しかけたのは、若いハンターの一人とフェデリコだった。
しかし変なのが、あの女の子大好きなフェデリコが、ものすごい顔で彼女を睨んでいるということ。
(しつこくナンパでもして、こっぴどくフラれでもしたのかしら?)
「チッ……ハンサムめ」
舌打ちと一緒に、小声でこう聞こえたと思うと、フェデリコが突然、私に突っかかってくる。
「ちょっとミスティちゃーん、俺はダメでコイツはOKしたの!? やっぱ顔? ばか! 浮気者! 面食い!」
「『浮気者』って、あんたの女じゃないでしょうに」
イルゼは私と彼の間に入ってくる。
多分だけど「浮気者」というのは、さっき話したベリオットの話が関係あると思われる。
「いくらなんでも女の子にまで、ベリオットだって怒ったりはしないでしょ」
「へ? そいつ男じゃないの!?」
ちょっと聞こえた「ハンサムめ」は、そういうことだったらしい。彼女に抱き着きつきながら私は彼に言った。
「フェデリコ、こんな美女を捕まえて男と間違えてたの? 信じられない、失礼しちゃう!」
「それはいいんだけどさ……なんかこの人、あたしへの当たりがやたらキツくて、地味に傷ついてたんだよね」
つまり彼女に冷たくしたり、暴言を吐いたということだろう。
「ひどい……最低」
「えっ、フェデリコさん、女の子いじめてたんですか!? ……そんな人だとは思わなかった」
いつの間にかそこにいたローラにまで批判され、フェデリコは目に見えて落ち込んでいる。
ハンター達が帰っていくところで、片付けを開始しているおかみさんがぶつくさ言った。
「まったく都の治安はどうなってるんだろうねえ!? ミスティ、今日ギャラクスさんに会ったら、言っておいとくれ」
確かに丘陵の政兵が代理のハンターを寄こすということは、それだけ人手が足りていない証拠だろう。
ところでさっきの新顔のハンター「ひょっとしたら髪型を変えたアルだったりして」なんて思ったが「ブランテル」という名前だった。
年格好どころか、顔立ちや声も似ていると思ったから。
そもそも彼はトリフィラートに帰ったはず。こんな所にいるわけがないのだ。




