エンカウント/ミスティ《55-2大勢の客+記者のち、改造ハンサム美女+盗賊団》
普通にお茶を飲みにカフェを訪れるのも、原稿を書くのに席を利用するのも理解できる。
しかしなぜこんな、騒がしい店で?
静かでおしゃれなカフェはいくらでもある。
レオパルテに来たばかりでお店を知らないのなら、ルベオルスお兄ちゃんとかベリオットに訊くなりすればいい(デマ記事事件以来、王廷騎士の男二人は、フェデリコと仲がいいような気がする)し、身なりはいいのだから、コーヒーハウスに行っても摘まみ出されたりはしないだろう。
「ミスティちゃん、仕事終わった後、暇? 俺と一緒に」
「やだ」
考えるより先に、返事が口から出た。
「まだ言い終わってないんだけど!?」
「文脈からして、あなたと一緒にどこか行くんでしょ?」
「当たり。頼むよ、会わせたい奴がいてさ。そいつのとこに、一緒に行って欲しいんだよ」
「イヤ」
改めて意思を伝えると彼は立ち上がり、食い下がってくる。
「嘘でもいいから、もうちょっと話に興味示してよ。そんなに俺のことキライ!?」
「好き嫌い以前に、一緒に歩くのが無理」
「嫌ってんじゃん! はー……傷つくわ」
「そうじゃなくて、実はベリオットにあなたとの浮気疑われて、喧嘩になったの。誤解解くの、大変だったんだから」
「マジ!? なんで!?」
「注文しないなら帰ってくれる?」
ランチタイムに入り始めている今、お客はひっきりなしに来ている。悪いが注文しない客を相手にしている暇はない。
「……そんじゃ、ミルクティーちょうだい」
注文通りミルクティーを淹れて、フェデリコの所に持って行く。
「で、なんで浮気なんて疑われたの?」
「スリザスさんと一緒に、部屋に来たでしょ? あの後入れ替わりで彼が来たのよ。で、あなた椅子じゃなくてベッドにずっと座ってたから、香水の匂いが移ってて」
「『さっき誤解解くの大変だった』って言ってたけど、仲直りできたんだ」
「ええ。だからまた喧嘩になりたくないから、一緒にいるとこ見られたくないの」
店に来たのは、この話をする為らしかった。
返事を聴くや否や、フェデリコはさっさかお茶を飲み終わってさっさかお会計すると、さっさか帰っていった。
「こっちも注文、お願いしまーす」
フェデリコが帰ってすぐ後に、別のテーブルから呼ばれる。
「あ、はーい」
注文を取りに行くと、スーツ姿の若い女性が手を軽く上げた。
「ミスティ、あたし」
「イルゼ?」
赤かった直毛の髪が金髪のくせ毛になっていたので、パッと見た感じでは判らなかったが、ハンサムな顔を見て、イルゼだと確信する。
「ゴメン、今その名前は……」
人目を気にするよう周囲に目配せした後に、イルゼは片手を顔の前に上げる。
「もしかして……旧帝国がレオパルテに吸収された関係?」
「……ま、まぁね」
(レオパルテは帝国の領土だけじゃなくて、技術も取り上げてるみたいだし。帝国の技術の結晶ってことで、彼女もそういう扱いになってるのかしら?
帝国は因果応報かもしんないけど……やっぱ戦争ってクソだわ)
とはいえ、表向き軍人をしているベリオットやお兄ちゃんには、そんなことは言えないけど。
しかしそうなると、イルゼの近況について尋ねていいものか迷う。
そう悩んでいると彼女本人の口から、新天地探しの顛末が語られた。
「実はやっぱり、レオパルテの都に定住しようと思ってさ」
「大丈夫なの?」
姿を変えて、本名も名乗れないような場所で暮らすだなんて。
「まーね。仕事の募集がいっぱいあるから、何だかんだで生きるには不自由しなさそうだしね」
いろいろ災難がありすぎて心配だったが、元気そうで良かった。
「都って言ってもかなり広いけど、どこの区域にしたの? もし近くだったら、今度遊びに行っていい?」
「ホント!? 知り合いもいないから、嬉しいよ。まだ住居自体決まってなくて、港近くの宿屋に逗留してるんだ」
「港近くの宿屋っていうと、東区ね。私はこのお店から、そんなに離れてない宿屋に住んで……」
店の外がざわついている気配がして、警戒しながら扉に近付く。
扉が蹴破られるように、乱暴に開けられた。
「酒だ! 酒と金をありったけ用意しろ!」
厨房にあった手配書の盗賊団「バイパー」。
奥へ向かって「超団体のお客様、すぐにお席を用意しまーす」と奥に向かって隠語を叫ぶ。
意味は「手配書にある盗賊団が来た」。
「ぁあん? なんだてめえらは?」
一番近くのこん棒持った、いかにもチンピラ然としたお客が立ち上がる。
「そういきり立つなって。俺らはその辺の客を殺しに来たわけじゃねえ。酒と食事と、金さえ出してくれりゃあいい」
一番前にいる頭目と思しき男は、くいっと酒グラスを持つ動作をしながら、強盗する意思をはっきり口にする。
「ローラ、おかみさん! 火の番頼みます!」
オリヴィエの声と、こっちに駆け付けてくる足音が背後からする。
喧嘩っ早いお客の剣を抜く音がしたりと、修羅場になる気配がし始めた。
ホールに銃声が響き、扉の横の壁に弾痕がついてしまった。早々に、お客の誰かが引き金を引いたらしい。
怪我人が出る前にと私も銃を抜き、頭目の頬、ギリギリを狙って撃つ。
「次は目と脳みそ、どっち?」
「てめえら! やっちま……」
部下達へ頭目が指示を出す前に、その腕から血が噴射していた。
その周囲にいる手下の何人かも、同じように血を噴き出して倒れていく。
「オリヴィエ、何かした?」
「いや……まだ何も」
てっきりオリヴィエが誂えたばかりの短剣で、彼らを倒したのかと思った。
だって彼らの傷は、鋭利な刃物で切られたかのようなものだったから。
「……ウルサイね。せっかく人が再会を懐かしんでる時に」
イルゼが舌打ち混じりに、手についた血を払っている。
盗賊達が彼女に気を取られている間に、連中の足元に念を送り「スプラッシュ」と詠唱するとそこから潮が吹き出し、彼らをずぶ濡れにした。
後は冷気を召喚してしまえば、盗賊団は全員、凍って動けなくなる。
盗賊団は全員、食事の邪魔をされて怒ったお客達に取り押さえられ、店主によって丘陵の政兵に通報された。
そんな中、オリヴィエが呟く。
「……ひょっとして俺、要らなかった?」




