【第55話 エンカウント/ミスティ編:ごった返しのホール】《55-1王城からの手紙》
エンカウント編です。好きな主人公を選んでください。今回は、ミスティ編からスタートになります。
「ミスティ、またお城から手紙だよ」
トイレ掃除を終えて手を洗っていると、おかみさんから封筒を渡された。
「配達員じゃなくて、使者の人が直接来て『手が空き次第、なるべく早く読ませるようにしてくれ』って言われてね」
手を拭いてから受け取る。差出人はベリオットから。
「わざわざ手紙なんて寄こさなくても、直接言えばいいのに」
厨房奥にあるセラーへ続く通路へ引っ込んで、封筒を眺めていると、
「形に残る形で、愛の言葉を贈りたいのかもよ?」
いつの間にかモップ片手に忍び寄っていたローラが、ほっぺをツンツンしてくる。
「きゃっ……ビックリしたぁ」
「ローラ、他人様に来た手紙を覗こうとするんじゃないの!」
ホールから戻ったおかみさんは娘を叱るが、その口で早く開けるよう急かす。
「で、なんて書いてあったんだい? なんだ、まだ開けてないのかい。早くお読み」
すると今度は店主が、ぶつ切り肉を刺した鉄串片手にツッコんだ。
「お前もなァ、ひとのこと言えねえじゃねえかよ」
「でもなんで、わざわざここに送ってきたんだろ?」
私の住んでいる部屋は知っているのだから、そこに送るか、また部屋に来ればいいのに。
「それは……前みたいに、知らない内に宿が変わってたみたいな、悲しいすれ違いを防ぐためじゃない?」
私にとっても悲しいすれ違いだった話が、思わぬところでローラに蒸し返される。
何はともあれ、読んでみなければ用件は分らないので、封筒を開く。
「また『ベリオットの名前を借りた、ギャラクスさん』からだったわ」
手紙には、かなり短い文が書かれているばかりだった。
「城に来いって。具体的な用件はその時話すみたい」
武道大会のチケットの時もそうだったなあと思い出していたら、ローラも同じことを思っていたらしい。
「武道大会のチケットも、シュットガイスト様の名前で、宰相様が送って来たよね? なんで?」
「手紙の宛先が女だったりすると……」
ここまで言いかけて思いとどまる。
ギャラクスさんに夢中なマリエラ王女が激怒するから……というのは、婚約発表が正式にあるまでは、黙っていることにしよう。
「周りの人が変に勘ぐるから、鬱陶しいみたい」
出まかせではあるが、あり得なくはない。
「探りたくなる気持ちは解るけどねえ。あんなにおキレイなのに、結婚もしてなきゃ恋人もいないなんて。結構いいお歳でしょ?」
おかみさんが最後にちょっと辛辣な一言を入れつつ、ギャラクスさんの美貌をうっとりと褒めた。
すると悪意のある口調で店主が勘ぐる。
「人に言えねえわけがあるんじゃねえのか? ホモだとかよ」
宮廷では同性同士の恋愛は珍しくはないし、むしろ高尚な行いだと本人達は思っているらしい(宮廷人になった事がないから知らないけど)のに、醜聞扱いされるのはどうしてだろうか。
弁解したいのはやまやまだが、新たな誤解を生んでしまいそう。
かといって「いえ、一五歳になったばかりの王女と婚約中です」と弁解もできない。
年の差婚だって、特別珍しいわけでもないのに。
厨房から、炭の焼け具合を見ているオリヴィエが呼んだ。
「誰か注文お願い! 火事になっていいなら俺行ってくるけど!」
気が付けばオリヴィエ以外の全員が、セラーの入り口に集合していたのだ。
「ごめんごめん、行ってくる!」
慌ててホールへ走った。
「早く注文取りに来てくれよ!」
さっきブランチのタイムが過ぎて、お客が引いたばかりだと思っていたのに、もう席が埋まっていた。
「すみませーん、ただいま向かいまーす!」
私とローラとおかみさんで手分けして、注文を聴いて回る。
気付けば時計は一一時刻半を過ぎて、ランチタイムになろうとしている。
さっき店主とオリヴィエが、鉄串に肉を刺したバルバコアを大量に仕込んでいたはず。
ところが肉串を提供してすぐ、大量の空の鉄串を回収して洗っては、新たな肉を刺して炭火にかける(気が付けば私もこの作業に参戦している)という無限ループが出来上がっている。
焼きあがった肉の串を並べた皿に乗せ、そのままホールへ。
帰りに完食済の皿と串、そして酒瓶を回収して戻ろうとすると、呼び止められた。
「ウエイトレスさーん、注文お願いしまーす」
「はーい、ただいま」
いったんカウンターに持っているものを置いて、呼ばれたテーブルへ。
「お待たせしましたー……って、珍しいわね。こんなとこ来るなんて」
ものすっごく憂鬱な顔をしたフェデリコが、テーブルに肘をついていた。
「……まーね」




