《54-4フェデリコにかけられた、更なる重罪の疑いと、助かる条件》
「記事については謝るよ。だけどそんな国っつーか、王家の名前まで出してきて、ミスティちゃんに会いたがる目的は何なの?」
俺からしたら、目に入れても痛くないほど可愛い妹分の身の安全を保障できるのであれば、どんな代償を払ったって安いものだろう。
しかし赤の他人からしてみたら、女の子一人……それも要人の娘でもない庶民を捜すのに、一国の王女が脅しに近い形で取引を持ち掛けてくるなんて、普通に考えれば怪しいことこの上ない。
やっぱり目的を話さなくてはダメかと、俺も自分の正体を明かそうと、ローブを脱ごうとした。
それに気付いたらしいマクベスが、「ちょっとだけ待って」と制した。
「セレフィナさんは名誉棄損と言いましたが、彼の記事は王家の信用を損なう可能性がありますよね。考えようによっては、国家転覆を目論んだ疑いをかけられても不思議はないかと」
「ちょっ……ちょっとナニ言ってんの!?」
比べ物にならないほどの重い罪名が出て、ふてぶてしかったフェデリコの様子は一変した。
血色の良かった顔は、打って変わって真っ青に変色している。
……当然だ。俺だってビックリしている。
その反応を見てマクベスは、追い打ちをかける。
「世間的には信用の薄いゴシップ記事だからでこそ、自由な発信ができる。その立場を利用して、すでに一定数獲得してある購読者達を煽り、暴動が起きるように仕向けようとした……とか」
「神に誓ってそんな事ないって! 単なる噂まとめ記事で、アンタ、よくそんなヤバイ話作れるよね!?」
後ろにドン引きして後ずさるフェデリコの肩を、スリザスが、ガッと掴む。
「このまま俺がレガリアまで連行して、トリフィラートに迎えを頼むこともできるぞ」
ゴーフルが哀れむ目で一言。
「……記者のお兄ちゃん、神なんて一番誓っちゃダメだよ」
「ぅそん!?」
人目を憚る話をする為に、スリザスの取った部屋を借りたのだが。
「ねえセレフィナ、こんなに脅す必要ないんじゃない?」
この様子だと、逃げられない場所に監禁して、弱いものいじめをしているかのようだ。
相手が自業自得でしかないクズ野郎とはいえ、ちょっと可哀想になってくる。
「やっぱり『ミスティの身が危ない』って、言った方がいいんじゃないかな? 冗談でも『妹みたいなもの』って言うんだったら、それなりに大事には思ってると思うんだ」
本気で言っていても、殴り飛ばすかもしれないのはさておき。
「そうね、ごめんなさい」
セレフィナは悲しそうに目を伏した。
「……い、いや。責めてるつもりはないんだ」
けど、普段は穏やかで優しいセレフィナが、こんな弱みに付け込むようなやり方をするのは、見ていられなかった。
「さっき『フェデリコさんから』王廷騎士との交際の話を聴いた時から、私、かなり焦ってるわ。だって……」
強引な手段に出てしまった理由について、彼女は述べた。
「もたついてる間に結婚されてしまったり、ましてや子供なんてできちゃったら、かなりやりにくくなると思って」
結婚!? 子供!?
さっきの同棲よりも飛躍した話が、真面目に語られる。
本人の言う通り、セレフィナは相当焦っているようだ。
「それは、いくらなんでも……ないでしょ!?」
「普通はね」
そう言ってセレフィナは、フェデリコの方をチラチラ見ながら根拠を話していく。
「でも『フェデリコさんが』言ってたじゃない。『軍人っていつ死んじゃうか分かんないって、ベリオット君が言ってた』って。『王様に反対されて、実際に邪魔されたから、二人とも焦ってる』とも。
ミスティさんに会える前に、話が第三者に漏れたりして、万が一王様の耳に入ってしまったら大変よ。最悪、駆け落ちされることだって、あり得るわよ」
セレフィナの並べる最悪の展開で揺らいでいると、マクベスがとどめを刺しに来る。
「障害があればあるほど……って言いますしね。彼ら若いんだし、突っ走る可能性は大だと思いますよ。
結婚することも子供作ることも、それ自体は難しくありません。結婚するなら書類一枚……子供作るなら男女が一組いればいいんですから」
セレフィナは正しかった。それを今、嫌というほど思い知らされた。
「俺の方こそ間違ってたよ、ゴメン。世の中にはキレイごとで済まされないことなんて、たくさんあるもんね」
大事なのは、きれいな方法を貫き通すことじゃない。
より早く確実な、かつ第三者に漏れない方法で、ミスティの居場所を訊き出すことだ。
「ここで手の平返しやがった!」
フェデリコは俺を非難するが、陰険な手を使ってカップルに嫌がらせをする、レオパルテの王様が全て悪い。
それにミスティの安全が脅かされるのに比べたら、こんなクズ記者に嫌われるなんて、些末なこと……いや、それにすら及ばない。
しかし恋人がいると知っていて、王廷騎士のお見合いパーティーをセッティングとか、なんて性格の悪い王様だ。
それでシュットガイストが、別の女の子に心変わりでもするならいい……やっぱり、ミスティを泣かせたら殺す。
何が言いたいかというと「よしセレフィナ、もっとやれ」!
「もう一度言います、フェデリコさん。ミスティ=ヴィリアンズさんの勤務先を教えてくれるのなら、私はあなたを訴える権利を手放します。
従ってくれないのなら、私があなたをここで見つけたこと、それからマクベスさんの『国家転覆を目論んだんじゃないか』という意見を、トリフィラートに報告します」
「……ま、マジで言ってんの?」
「ええ、あなたの記事が出た時に、父は死刑制度を廃止したことを後悔していましたし、裁判にかけるとしたら、国家転覆の容疑を採用するかもしれません。
死刑にはならなくても、一生投獄はあり得ます」
セレフィナが言い終わったタイミングで、スリザスが物凄く恐ろしいことを、煙草の煙と一緒に吐いた。
「トリフィラートの王が死刑制度廃止を後悔、か。この男、近い内に原因不明の事故に遭うか、行方不明になるんじゃないか?」
「分かった分かった、言うこと聴くよ! 余計な詮索もしない!」
せっかく誘拐殺人の無罪を勝ち取ったのに、次は有罪確定の裁判で一生投獄と言われてしまえば、従わざるを得ない。
「……怖えよ。脅迫じゃん。ほとんどヤクザじゃん」
ゴーフルからの申し訳程度の非難が出るも、セレフィナはもう動じない。
「ゴーフルちゃん、これは『司法取引』と言って脅迫じゃあないわよ」
司法取引……なのか? これは。
こっちも訴えられそうなやり取りも、いくらか含まれていた気もするが、フェデリコ本人が言及しないのならいいだろう。
「負けたよ……勤め先の名前は、『プチガーデン ~ラビットラバーズのアフタヌーンティー』。地元の人には『ラビットラバーズ』って呼ばれてる。その店でウエイトレスしてるよ」
フェデリコが帰ろうとドアを開けると、セレフィナが止める。
「ちょっと待って」
振り向きつつ、彼は露骨にしんどい顔をした。
「ナニ? また何かあるの?」
「あなたが、ミスティさんを連れて来て」
「はァ!?」
更なる要求を言い渡された彼の声には「せっかく解放されると思ったのに」というガッカリ感が、多分に含まれていた。
「いきなり私達が接触したら、彼女びっくりしちゃうでしょ。だからあなたに間に入って欲しいのよ」
「っていっても、今日と明日は店休みだから、早くても明後日以降になるよ。
昨日までレオパルテは戦勝祭りしてたんだけど、祭りの日の翌日は、料理を提供する側になった飲食店は、一斉に休みになるんだって。で、その次の日がちょうど定休日」
「明後日はスリザスさんはもういないから、私達の逗留している宿屋にお願いします」
「……へーい」
セレフィナから言い渡されたフェデリコは諦めきった表情で、部屋を出て行った。
足音が聞こえなくなると、スリザスは話し始めた。
「さて。俺はまたここに戻って来るが、それまでミスティがレオパルテから出て行かないように、見張っていてくれ」
「スリザスが戻るまで?」
その意図を訊き返すと、彼は言った。
「ああ、次来た時にレガリアに連れて行く。お前らの正体がばれ次第、人質要員にされてしまうからな。
抵抗しようものなら、気絶でもさせて大型のケースにでも詰めていく。お前達に手を汚せとは言わん。近くまで連れて来てくれればいい」
「ちょっと待ってよ、それじゃただの誘拐じゃないか!」
レオパルテから出国させるのは、俺も反対はしないし、むしろ大賛成だ。しかし意識を奪って連れ出すような手荒な真似には反対した。
「結婚でもされたら、本当に誘拐扱いにされてしまうぞ。生き別れの兄妹が家族認定をされるには、煩雑な審査と手続きがいるが、結婚は書類一枚で成立する」
スリザスに一蹴され、俺は言い返す言葉を失った。
つまりシュットガイストは今すぐにでも、家族として訴える権利を得ることができるのだ。
するとセレフィナが「それはもっともなんですが」と切り出し、考えを述べた。
「私としては彼女には手荒なことはせずに、こちら側に来てもらいたいと思っています。
彼女は王廷騎士のシュットガイストやルベオルスにとっても、人質になり得ますので、彼らとの交渉の余地が生まれるんじゃないかと。あわよくば彼らとの争いは、避けられるものなら避けたいですし」
「いいだろう。ただ、失敗したら次に来た時に、俺が連れて行く」
「……やっぱり、トランクに詰めるの?」
ゴーフルが犯罪者を見るような目で、スリザスに確認した。
「それは最終手段になりそうだが。レガリアが中立を解除したことはまだ、連盟の一部の加盟国にしか公表されていない。
だから『レガリアの研究所に来ないか』と勧誘する。渋るようだったら、トリフィラートやお前らのことをチラつかせて『レオパルテにいれば、兄と恋人の足を引っ張ることになる』とでも言ってやればいい」
「それでも悪どいよ」
悪態が口からこぼれ出る。




