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《54-3『噂まとめ記事』で稼いだのは金と、恨み》

 駅前の宿屋に戻る。


 スリザスとマクベスが両隣につき、フェデリコが連行でもされるような形で先に部屋に入っていく。


 俺も入ろうとしたところで、セレフィナが呼び止める。

「アルの考えを、簡単に教えてくれる?」


「彼の知りたがっていた、『王様に殺されそうになった話』をしようと思ってる」


 気が進まないが、できるだけ嘘をつかずに事の重大さを伝えるには、やむを得ない。


「俺がユング=ロックハートの友人だって話して、その俺への嫌がらせ目的で彼も殺されかけた話をすれば、レオパルテにミスティをいさせることの危険性は、理解してもらえると思うんだ。


……最悪、シュットガイストが魔族だってことや、宰相ギャラクスの正体も明かす」


 いくら相手が軽薄で考えなしで、倫理観の薄いチンピラもどきだったとしても、仮にも人間だ。


 魔王や魔族が絡んだ、しかもある程度親しい者(そう思いたくないけど)の命の危機なら、素直に応じてくれるんじゃないか。

「……うーん、悪くないとは、思う」


 反対はしていなくても、彼女の奥歯に物が挟(はさ)まったような言い方が気になる。


「何か、良くないところでもある? 『ユング=ロックハートの友人とか言って、信じてもらえるか』とか。『信じてもらうには本名を明かすしかない』とか?」


 突っ込みどころはあると思うが、そこを突かれたら、その都度(つど)本当のことを答えるしかないのではないか。


「信じてもらえないって言うなら、オイラの水晶に残ってる記録、見せようか?」


 バッグから出した水晶玉を、ゴーフルがセレフィナに見せる。


 それが一番早いかな。


 そう考えていると、イルゼが部屋の中から顔を出す。

「どうしたのさ? 外で話し込んだりして。入ってきなよ」


「ごめんなさい、今行くわね」

 部屋に入るとセレフィナは、外で話していた内容を皆にも話す。


「彼が何をするつもりだったのか聞いたの。地下迷宮での話の詳細を、話そうって提案だったんだけど」


「いいと思うよ。ある程度こっちのことは話さないと、逆に怪しいと思う」


 イルゼは賛成してくれるようだが、セレフィナはまだ、何か言いたいことがあるようだ。


「私もそう思う。だけど、ミスティさんが見つかるまで、あんまり他人に漏らしてほしくないところもあるでしょ」


 話が他人に漏れる、というところで、一斉に視線がフェデリコに集中した。


「口軽そうだもんね。『言わない』って言った直後どころか、言ってる最中に記事にすること考えそう」

 ゴーフルが言う。


「そっか、王様の醜聞(しゅうぶん)なんて、庶民には受けそうなネタだしね。被害者の中にユング=ロックハートもいるんじゃ」

 さっきまで俺の意見に同調してくれていたイルゼも、これには納得してしまっている。


「うっせー、イケメンばーか! 顔崩れろ! ……つうか俺信用なさすぎだろ。さすがにやっていいこと悪いことの区別くらいつくっての」


 イルゼを罵倒しつつ、フェデリコは口止めには応じる姿勢を見せてはいる。


「誰にも言わないって約束したって、個人間の話だもの。拘束力が弱いのが問題だと思うの。秘密を守るのは、自分が思う以上に難しいわ。


誰彼構わずペラペラ喋る人ではなくても、親しい人一人にだけとか、お酒の席でうっかり……とかね」


 セレフィナの心配する問題点の「拘束力」は、確かに痛いところではある。


「誓約書書かせれば手っ取り早くないですか? 連絡先も書かせて、情報が漏れたら制裁するということで」

 提案するマクベスの手の平に、小さいがはっきり見える形で、電流のようなものが走る。


「それもいいけど」

 とセレフィナ。いいのかよ、俺はいいけど。


「やめなって。あんま物騒なことばっか言ってると、ますます喋ってくれなくなるよ」


 せっかくイルゼが庇っても「ありがたいけどムカツク」と、フェデリコの奴は彼女に対しては、辛辣な態度をやめない。


「だから個人間の取引じゃなくて……その前に」


 個人間の取引ではないということは、たぶん、トリフィラート国としての取引に持ち込むのだろうか。


 もしかして、ちょっとだけ触れていた「王家に関するヒドイ内容の記事」についてだったりして。


 セレフィナはスリザスに向き直って、確認を取る。

「スリザスさん、この人に危害は加えてはいけないのでしょうけど、正当な訴訟を起こすことは、別に問題ないですよね?」


 彼女から出た「訴訟」の単語で確信する。


 それに対して自分のしたことなんて、大して気にも留めていなかったのであろうフェデリコは、寝耳に水と言わんばかりに驚いている。


「えっ!? ちょっと待って……俺訴えられる覚えは……覚えは、ビミョーだけど、俺あんたとは初対面だぜ!?」


 うろたえる彼に対面し、セレフィナは恭(うやうや)しくお辞儀をする。


「お久しぶりです……と言いたいところですが、直接お会いするのは初めてですね。それに貴方からしたら私なんて、記憶にも残っていらっしゃらないでしょうけども」


「本当に心当たりないって! 君みたいな可愛い娘(こ)、忘れたくても忘れられないもん」


 事前にちょっとでも聴いている身からすると、彼のこの必死の弁明は滑稽(こっけい)でしかない。


「二年前、覚えてますか?」

 セレフィナがヒントを出す。


「二年前……っていうと」

 今度は心当たりがありすぎるのか、彼は真剣な顔で考え込んだ。


 どうせちょっと遊んで捨てた女性の顔を思い出して「あの娘でもない、この娘でもない」と、的外れな方向に記憶を掘り起こしているに違いない。


 一向に思い出す気配がない彼に、セレフィナはローブと眼鏡を取り、トリフィラートの国章を出した。


「では改めて自己紹介させていただきますね、私、トリフィラート国王女セレフィナ=ボタニーと申します」


「と……トリフィラート王家? …………嘘だろォ!?」


 フェデリコは顔を引きつらせ、明らかに動揺している。

 思わず出たのであろう「や……やべえ」の呟きから、単に王族を目の前にした、緊張からではないと確信した。


「フェデリコさんの記事、全て拝読(はいどく)させていただきました。『不義(ふぎ)の娘』とか『清楚なルックスで兵士男一〇〇人斬り』とか、私に関する記事をたくさん、『ない事ない事』書かれてましたよね?」


 セレフィナの柔らかい話ぶりと優しそうな笑顔とは対照的に、場の空気は一気に硬直する。

 しかも「ある事ない事」ではなく「ない事ない事」……。


「名誉棄損(めいよきそん)の時効は、トリフィラートは三年、レオパルテは五年。この意味、理解できますか?」


 つまりトリフィラート側の法律を適用したとしても、時効まではあと一年残っている。


「あ……あれは単なる噂のまとめ記事で」

 つまり、そう言っているのは取材を受けたその辺の人であって、自分ではないと。


 噂を聞いて採用する情報を選んだだけで、真相を調べたわけでも、自分の見解を入れたわけでもない。

 だから自分に責任はない、という汚い意図が透けて見える。


 謝罪より先に、まずこんな言い訳が出てくる時点で、情報提供してくれたって許さなくてもいいと俺は思う。


 当のセレフィナは、彼のこの態度には言及せず、にっこり微笑む。


「その言い分が正しいと思うのでしたら、堂々と裁判に臨(のぞ)めばいいだけですわ。黙ってこちらの要求に応じてくれるのなら、訴えるのをやめてさしあげますが、どうなさいますか?」

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