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《54-2しぶしぶ案内してくれたけど》

 スリザスに「もう用はない」と言われたのが、よほど頭に来たらしい。


 結局フェデリコは交渉場所にもなった、ミスティの逗留(とうりゅう)する宿屋を教えてくれると、道案内を買って出た。


 その宿屋だという場所に着くと彼は、そこの主人に部屋番号を告げた。


「えっ、チェックアウト済み!?」

 

 しかしその部屋にはもう、誰も泊まってはいなかった。


「悪いね。ミスティちゃん、宿屋変えちゃったみたい」

 口ではそう言いながら、「ま、しょーがないよね」と言いたげな軽い口調。


「……本当にいたのかよ?」

 普通の人が相手ならなら「残念だ」とか「タイミングが悪かった」と素直に言える。


 だが嘘を生業(なりわい)としている彼の言葉そのものが、信じるに値(あたい)しない。

「俺が嘘ついてるって言いたい?」


 口から「当然だろ」という返事が出そうになっていると、スリザスがフェデリコに尋ね返す。

「逆に信用されると、なんで思った?」


「うっせえ、じゃあオッサンが言えばよかったじゃん!」


 できるならそうしたかった。

 だけどフェデリコの案内に従ったのは、ミスティの勤め先まで知っているのは、彼しかいないからだ。


 そして「宿屋にいなかったら、勤め先教えるよ」と、約束したからだ。


 ……なので本来ならば、彼の機嫌を損ねるわけにはいかないのだが、視界に入るたびにムカムカするせいで、どうしても言葉に悪意がにじみ出てしまう。


 それでもなんとか気を落ち着けて、今度はミスティの勤め先を訊こう。


「それじゃあ、勤め先の方を教えてもらえる?」

「……わーかったよ」


 やり取りの間に、イルゼがカウンターに歩いていき、再度主人に話しかける。


「ホント、たびたびすみませーん。今そこの彼が言った番号の部屋にいた人が、チェックアウトしたのって、いつですか?」


「えーと、今調べますね」

 主人が宿泊帳を開こうとすると、セレフィナがカウンターに備え付けられた、小さなメモ帳の紙に何か書いて彼に見せた。


「名前は『ミスティ=ヴィリアンズ』って言います。特徴は、こういう感じで。サフォーって呼ぶ人もいるみたいです」


 何が書いてあるのだろうと紙を覗くと、簡素だけど特徴を捉えた、ミスティの似顔絵だった。


「あぁ、この娘(こ)ね、確かにいたよ。でも、タイミングが悪かったね」


 宿屋の主人の物言いは、あたかも「もう少しだけ早く来ていれば会えたのに」と言いたそう。


「いつチェックアウトしたんですか?」

 俺が尋ねると、主人の答えは「本当に、つい昨日だよ」。


「王廷騎士(おうていきし)のシュットガイスト様が訪ねて来たかと思ったら、一緒に出て行ったんだ」


 最優先事項であるミスティの情報と一緒に、いきなり王廷騎士の情報まで転がり込む。


「『出て行ったばっかり』とかだったら、そう遠くへは行ってないかなって思ったんだけど」

 とイルゼ。


「ミスティちゃんが一人で住んでた部屋を引き払って、ベリオット君と一緒に出てったってことは……同棲(どうせい)でも始めるのかねぇ?」


 フェデリコの下世話な予想は、聞くに堪(た)えない。


「そういうのいいから」


 単に逗留先を変えるだけで、なんで同棲に結び付くんだよ。

 ふざけているとしか思えない。


 それよりもまた、変な契約でもしたんじゃないか。そっちの方が心配ではある。


「彼らって、そういう仲なんですか?」

 マクベスが尋ねると、急に話しかけられたからか、フェデリコは一瞬だけギョッとたじろいだ。


「大丈夫、この兄ちゃんうさんくさいけど、いきなり嚙(か)みついたりしないからさ」

 ゴーフルがケタケタ笑う。


 でもさっきまでほとんど喋(しゃべ)らなかったのに、どうでもよさそうな所で急に反応するものだから、俺も何だろうとは思った。


 マクベスのことだから、考えでもあるんだろうと思い「早く次行こう」とはまだ言わず、黙ってフェデリコの返事を聴く。


「まー、そうだよ。この都でちょっと前に、女の子が次々誘拐されて殺される事件あったんだけど」


「確か犯人がフェデリコさんに、なりすましてたんですよね?」


「そうだよ。誘拐された中にミスティちゃんもいて、殺されるとこだったんだって。そん時にベリオット君に助けられたのが縁で、付き合い始めたみたい」


 また危ない目に遭(あ)ってたのか。

 それでまた、魔族なんかと縁ができるなんて。ましてや今回は、付き合ってるって。


 というか、もと契約者に手を出すとか。どういう神経をしているんだ、あの悪魔は。


「交際始まって、まだ日が浅いですよね。なのにいきなり同棲?」

 マクベスが続けた。


 そこなんだ。レオパルテで再会して、急に仲が発展することがありえないわけじゃない。


 だけど同棲となると、そこまでの交際期間が短すぎる。


「俺も確かにそう思うんだけど、でも軍人っていつ死んじゃうか分かんないって、ベリオット君言ってたし。王様に反対されて、実際に邪魔されたりもしたから、二人とも焦ってはいると思う」


「王様がわざわざ、たかがカップルひと組ごときで騒ぎ立てるの?」


 訝し気にゴーフルが言うと、ちょっと何か考えるような間を置いて、フェデリコは話した。


「身分がどーたらとか言ってるけど、王廷騎士、特にベリオット君を自分に忠誠を誓ってる貴族の娘と、結婚させたいんだってさ。


 わざわざ王廷騎士のお見合いパーティーをセッティングしたり、そのこと大々的に宣伝して、ミスティちゃんに当てつけたり……本当、俺あの王様嫌い。それじゃあ、俺はこれで」


 あろうことか、宿屋にいなかったら勤め先を教えるという約束を果たさないまま、フェデリコはそそくさとその場を立ち去ろうとした。


 俺は慌てて呼び止めた。

「ちょっと待って。宿屋にいなかったら勤め先を教えてくれるんじゃ、なかったのかよ!?」


「じゃあ教える前に、そっちも答えて。ミスティちゃんの居場所知って、どうすんの? ベリオット君と引き離すようなことはしないって、約束してくれるんなら教える」


 答えに困る。

 だって「レオパルテから保護する」なんて言ったら、間違いなく彼は口を閉ざすだろう。


 丁寧に説明すべき所だけど、ここでは通行人がいる。


 なにせ、通行人にも充分に気を配るべきだと、彼に先ほど教えられたばかりだ。


「ねえ、スリザス。また部屋を貸してもらっていい? 俺の方から彼に話したいことがあるんだけど、人目を避(さ)ける必要がある」


「構わんよ」


 スリザスからの承諾が取れるが、ゴーフルは待ったをかけた。


「言っちゃうの? そしたら本当に教えてもらえなくなっちゃうんじゃ……」


 彼は多分、俺が保護命令のことを明かそうとしていると、思っているのだろう。

「たぶん、心配してる内容とは違うよ」


「拷問(ごうもん)ですか?」

 あっけらかんと、物騒な発言をするマクベス。


「違うよ」


「違うってさ。だから逃げるんじゃないよ」


 拷問と聞いて怯えてしまったフェデリコの首根っこを、イルゼが掴んでいる。

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