《53-3海神王の指輪の値段》
半ば諦めていた最後の神器「海神王の指輪」が、思わぬ形で手に入る。
ミスティがどうして、こんなものを持っているのか。
すでに空だった神殿の箱から持ち去ったのは、彼女だということになる。
外に出る時は神器の間から出た俺達だったが、驚くべきことに再びそこから入ると、最初に倒したはずのリヴァイアサンがいたのだ。
リヴァイアサンが神器の部屋にいたのではなく、「俺達が」リヴァイアサンの部屋に「戻っていた」のである。
ミスティはリヴァイアサンの部屋や、その後にある「招かれざる者の道」をどう対処したのか。
道を塞いでいたカヴキテスタ鋼の格子は破られていなかったが、どうやって通ったのかなど、数々の疑問が湧いて来る。
「ちなみに、おいくらで?」
しかしマクベスが真っ先に尋ねたのは、なんと指輪を入手した価格。
「そこ!?」
俺が訊き返すと彼はこう返す。
「だって、神器ですよ。いくら、もしくは何を差し出したら売ってもらえるのか、気になりません?」
「そう言われればそうね」
セレフィナは納得し、
「そりゃー……確かにそーだケド」
イルゼは同意しつつも、何か言いたそうな含みのある返事をし、
「だからって真っ先に『おいくら?』は、ねーだろ!」
ゴーフルはストレートに突っ込んだ。
みんなそれぞれ違った反応をして、スリザスの手の平の指輪に視線を落とす。
するとその彼から、聞き捨てならない事実が明かされる。
「これが海神王の指輪だとは、ミスティは知らない」
「え? そこを黙って『売ってくれ』って頼んだの!?」
予備知識を持たされていない人が、まさか自分の持っているアクセサリーを神器だなんて、思うわけがない。
そうなるとミスティが一方的に損をした形になる。
いくら世界の運命が掛かっていると言われたって、こんな詐欺まがいの取引、人として行ってもいいのだろうか。
「だから取引として成立したんじゃないかしら?」
セレフィナの言葉に、スリザスはいけしゃあしゃあと頷いた。
「そういうことだ。文句はアンジェか、天界に言うんだな」
そんな彼の態度に、イルゼが何とも言えない顔になる。
「『神器』だってのが本当なら、値段なんてつけられないもんね。……すんごい値切りを見た気がするよ。オジサン、商売上手というか」
「結局オッチャンは、ミスティちゃんにいくら払ったのさ? いくらなんでも、タダでくれたわけじゃないんでしょ?」
ゴーフルに尋ねられたスリザスの答えは、こうだ。
「差し出したのは金じゃない」
それなら物と交換ということだが、宝石とか魔法アイテムとかだろうか。
「実はお前らに会う前に、セレフィナ王女個人に『ちょっとした手土産』を用意していたんだが、成り行きでそれと交換することになった」
「私への……手土産、ですか?」
セレフィナが自分を指しながら、首を傾げた。
「ああ、フェデリコって記者、知ってるか?」
その名前は新聞記事で見たばかりだが、急に話と関係ない名前が出てきたので、かなり戸惑う。
「もしかして、少女連続誘拐殺人事件の?」
俺が確認すると、スリザスは「そうそう。誤認逮捕された、本物の方」と答える。
「そういえばセレ、その記者の名前見て、怖い顔してたよね? 関係あるの?」
イルゼが訊くと、そのフェデリコについて、スリザスから説明される。
「そいつはいわゆるゴシップ記者でな。二年前にトリフィラート王室の、これまたヒドイ内容のデマ記事を書いてるんだ」
なるほど、そういう奴はたいてい「庶民の味方」の皮を被って、権力者や金持ち、有名人を叩いている。
王族なんて、格好の獲物だ。特に死刑のないトリフィラートでは。
しかしそんな人間をセレフィナへの「手土産」にするということは、トリフィラートに送還するなり、リンチするなり好きに復讐しろ、という意図だろう。
しかしそこまでされるほど、どんなヒドイ記事を?
それはともかくとして。
「……もしかして、その記者がミスティの知り合いか何かで、そいつを人質に交換させた、なんて言わないよね?」
どこでその記者が話に絡んだのかも分からないが、そんなロクでもない奴を助ける為の対価とは、とても思えないし思いたくない。
「そのまさかだ」
「ただ知り合いってだけで、そんなクズと神器を交換? 本当に指輪をただのガラクタとしか、認識してなかったんだね」
ゴーフルが言うように、神器だとは思わないにしても「魔法の指輪」くらいの認識があれば、そんな赤の他人……しかも人の悪口で金儲けをするクソ野郎との交換材料には、まずしない。
「うーん」
イルゼが俺に、チラと視線を送る。
「どうしたのさ? 何か言いにくいこと?」
「まーね。あくまで想像だけどさ、恋人じゃない? その記者」
「はァ!?」
「だって、交換するものが、あまりにも釣り合ってないじゃん。そういう理由を考えると、やっぱり情とか、そういう理屈じゃない問題になるんじゃないの?
ミスティだって若いし可愛いんだから、いい人の一人や二人くらい、すぐできるでしょうに」
二人もいられちゃ困る、と言いたいところだが。
「それなら余命いくばくもない、ヨッッッボヨボの金持ちの爺さんを数人でも捕まえて、悠々自適に暮らしていてくれた方が、まだマシだ!」
「だったら『本人』に訊いてみたら、いいんじゃないか?」
スリザスが窓の方を向く。
そして急に窓を開けて、外へ飛び出して行ったかと思うと、誰かを追いかけて行った。
戻って来たスリザスは、背の高い、スーツ姿の男を引きずって戻ってくる。




