《52-3海底までのダイビングデート》
水面の下にある青い世界に、私とベリオットは潜っていった。青や黄色、赤などの、色とりどりの魚の群れとすれ違い、岩には珊瑚が生い茂っている。
「オルカントリードの湖では、見れない景色ね」
「その時も、この格好で泳いでたのか?」
私の尾ひれを見て、ベリオットは言った。
さっきのは冗談だったのもあり、今はストローピウムを胸に巻いてはいる。
ベリオットも下は穿いている。
本気にして全部脱ぐんじゃないかと思ったけど、さすがにそれはなかったみたい。
「うん。でも湖では何も着てなかったし、尻尾にはなってなかったかな。本当に真っ裸」
「……知り合いでも通ったら、気まずそうだな」
「人が来ない、秘密の場所があったの。時々こっそり、泳ぎに行ってた」
紺碧だった周囲の色は深い瑠璃色に変わり、紺色に変わっていく。
岩の壁面にある割れ目は、どこかに続いているように深い。天井と、床の両方から牙のように生える鍾乳石が、いかにも洞窟の雰囲気を出している。
「ここが、ベリオットの言ってた洞窟?」
「ああ。気をつけろよ。ボケっとしてると、あの牙みたいな岩が下から伸びて来るかもしれん」
「そんな事あるの!?」
今通り過ぎた鍾乳石を振り返る。
「魔界にそういう場所がある。立ち止まったら最後。地面に生えてる細長い岩が伸びて来て、だいたい肛門から口に貫通する形で串刺しにされる」
「……聴いてるだけで、お尻が痛くなりそう」
手が自然と後ろに回る。もしかしてこの周辺に落ちている骨は、この岩に捕食されたんじゃないだろうか。
「その生きた岩の群生地帯は『竜の子の牙』と呼ばれてて、翼や瞬間移動能力のない奴には、難所と呼ばれてる」
目を凝らすと、奥の方に建物の一部のようなものが見えた。最奥にあったのは、遺跡だった。柱や窓、階段のようなものがはっきり残っている。
「この建物、崖に直接彫り込まれてる?」
「見ろ」
ベリオットが指したのは、近くに落ちている骨。
人型のものだが、背中から翼と思しきものが生えているのもあれば、そうでないのがある。
それ以上に大きな特徴は、その質感だ。形は間違いなく骨だけど、みんな独特の光沢があって、金属っぽい。
「もともとここは陸の上で、メタルボーン・バッドの獣性人のコミュニティが、巣を作ってたみたいだな」
「この骨、作り物じゃないの? 巣って、この遺跡のこと?」
だって金属というのはもともと鉱物で、最初は石の形をしているのものだが、この骨は加工済みにしか見えない。
「そうだ。魔界にいるコウモリで、尖った石などを使って、岩窟に直接巣を彫り込む習性がある。巣の形状が人間が住むような建造物に似ているせいで『岩窟の大工』と呼ばれてる。
そいつらは加工後の金属にそっくりな質感の骨があって、天然の金属よりも加工しやすく、しかも錆びない。連中は総じて、腕力も魔力もそこまで強くないから、しばしば乱獲の対象になる」
言っちゃ悪いが、まさしく魔法アイテムにするのに格好の、どころか、魔法アイテムにされるためにあると思われても仕方ないくらいに、都合がいい骨だ。
「昔は地上界にもいたのね。今全然見ないのはやっぱり……」
洞窟の入口まで戻って、更に下へ進む。
「かなり暗いが、見えるのか?」
「地上よりは目が利くわね」
いわゆる「深海」と呼ばれるエリアだが、少し暗いものの、どこに何があるのかははっきり見える。
だから目や色素の退化した、グロテスクな魚達にぶつからないように進むことはできる。もうちょっと下にある大きな骨に群がっている、虫のような甲殻類のような、硬そうな装甲の生き物も。
「水圧が強くなってきたな。キツくなったら言ってくれ」
見た目判断になってしまうが、ベリオットは大丈夫そう。それどころかまだ余裕そうではあるが、私の方は限界が近い。
「ゴメン、これ以上の深さはちょっと無理かも。この時点でも、あなたに体を強化してもらったから潜れてるだけで、元の私なら潰れて死んでるでしょうね」




