《51-2彼の言う『泊りデート』の意味》
「お願いって、なんだ?」
とベリオット。難しい事じゃない。
「これからデート、しない?」
この部屋にちょこちょこ会いに来てくれることはあっても、まだデートらしいデートをしたことがなかったので、近い内に誘う機会を伺っていた。
「とはいっても、住む場所変えたいから次の拠点の宿屋、探すの付き合ってほしいんだけどね。あっ、でもこの後、用事あるんだっけ?」
お茶を出そうとして「すぐに出るからいい」と断られていたんだった。
「用事と言うか、俺も……誘いに来たんだ」
だから「すぐに出る」と言っていたのかと、合点がいく。
しかしベリオットがデートに誘う為に訪ねて来てくれるとは、正直思っていなかったので、かなり嬉しい。
「住む場所を変えるなら、俺の部屋で暮……」
「やだ」
考えるより先に、この返事が出てきた。
「……ぇ」
「一緒に暮らすのが嫌なんじゃないの。でもベリオットのアパルトマンって、お城の敷地でしょ? 私、ここの王様怖いの。マリエラ王女も苦手だし」
彼がその苦手な王族のもとで働くのに文句は言わないが、かといって同じ敷地内には絶対に住みたくない。
あと口に出して言いたくはないけど、メルティナちゃんがいる、というのもそこに住みたくない大きな理由ではある。
彼の専属メイドが、好き好きオーラを出しながら仕えているのだ。そんな光景を眺めながら生活とか、ストレスで胃が溶けてしまいそう。
彼女にとっても、私は愛するご主人をたぶらかす敵でしかない。
ベリオットがどうなのかは分からないけどフェデリコだったら、しれーっと彼女にも、手を出しているだろうな。
むしろ「その状況で手を出さない男がこの世にいるの!? そんな奴、ホモかイ○ポくらいでしょ。恋人? これはこれ、それはそれ」と、脳内に声さえしてくる。
……彼の、人の心に不安を呼び起こす才能には舌を巻かざるをえない。
「その考えには俺も文句は言えないな。当分は通いか」
「なるべく都の城下エリアかその近くにするわ。ちょっと待ってて、すぐに支度する」
とはいっても宿を転々としている都合上、荷物は革トランクに納まる程度の量。そしていつ移動してもいいように、すぐに使うもの以外はトランクの中に入っている。
だから歯磨きして髪を整えて、買ったばかりの香水を軽くかけるだけ。
「お待たせ」
デートの口実を抜きにして、住処を変えたいのは本当だ。
隠し事がなくなり、距離を取る必要もなくなったので、通勤しやすい場所を探そうと思った。
「宿探しの後どうする? 行きたい場所とかあるか?」
「ベリオットのおすすめの場所が知りたいな。私レオパルテに来て、まだそんなに経ってないからあんまり知らないの。私がよく行くような場所は、もう閉館の時間になっちゃうし」
宿屋を出て、見上げた空はもう暗い。
図書館も、美術館も博物館も、閉館の準備を始めている頃だろう。
これから行ける場所というと、ミュージックホールやトワイライトクラブくらい。
「ちなみにベリオットは、どのくらいの時間までを予定してたの?」
「特にない。俺は帝国の件の報酬で、休暇を受け取ったから時間は気にしなくてもいい。何時間になっても、深夜でも泊りでもいい。お前の都合に合わせる」
「……ふぅん」
今回出した「泊り」という言葉を、彼はどういう意味で言ったのだろう。単なる長時間デート、と捉えられなくもないけれど。
「本当にいいのか? 女が喜ぶ場所とかは、あまりというか……全然詳しくないんだ」
あなたがいいならどこでも、と言おうとした。
……けど姿が人間っぽいから失念してしまっていたが、ベリオットは魔族だ。人間のもとで育った私とは、感覚なんていくらでも合わない部分があるだろう。
「そりゃあ、拷問ショーとか奴隷市場とか、人肉フルコースとか……そんなのはヤダけど」
このラインナップは、あくまで私の想像だけど。
さて、こうやって二人で歩くのは、かなり久しぶりだ。
初めてはトリフィラートの、ゼーンズフトの街道。次はクリシュナの港街での大通り。それ以来か。
「女って、買い物が好きだとよく聞くが、お前はどうなんだ?」
「まあ好きよ。ベリオットが行くようなお店とかあったら、教えて欲しいわ」
「俺が買い物をする店というと、あそこか。だが……前にメルを連れて行ったら、ドン引きされたしな」
「は?」
寝耳に水なエピソードが、さらっと、事もなげに告げられた。
「それって、二人で行ったの? いつ?」
普段のベリオットの態度は、メルティナちゃんのことはなんとも思っていない風だったのに。
買い物に連れて行ったなんて、初耳である。
「ついこの間の話だ。人間の女には刺激が強かったらしい。マーとか、アルブだったら分からんが」
「誰? その、マーとアルブって」
「使用人の、他の二人だ」
三人いる内、メルティナちゃん以外の使用人は、二人とも男だっけ。彼らは一緒じゃなかったようだから、連れて行ったのは彼女だけ。
「ゴメン、やっぱり深夜とか、泊りは無理。お祭りで疲れちゃった」
速足で歩きながら、変更を申し出た。後ろからベリオットの声が追って来ている。
「俺、なんか怒らせるようなこと、言ったか!?」




