【第50話 ミスティ編:魔導師スリザスへの相談】《50-1人形に宿った心について》
戦勝の祭り二日目……今度は朝からの本祝いが終わり、へとへとになって帰路に就いた。
記念日や、その他めでたいこと——例えば今回のような軍隊から戦勝の知らせが届いたり、王家の女性が無事に出産を終えた場合などがあれば、国全体に城から知らせが出る。
都では盛大な祭りが行われ、闘技場を使ったイベントになる事もあれば、路上でストリートフェスティバルになる事もある。
後者の場合、飲食店は休業。そのかわりに椅子とテーブルを外に出して飲み物や食べ物をふるまい、包装した菓子をばらまき、客はひたすら飲んで騒ぐという状態が、当日と翌日合わせて二日間行われる。
それから二日目の夜に片づけをして、その翌日本当の休みになるという流れが、都のほとんどの飲食店のルーティンになる。
レオパルテはお祭り好きな国らしく、祝日が多い。
……結果、祭りの間は道がゴミだらけになり、それを片付けるのがかなり大変である。
「これが毎年かあ。食べ物包む紙とか容器も、紙吹雪みたいに、溶けるやつだったら楽なのに」
愚痴を言いながら歩いていると、意外な人に遭遇した。
「あれっ、スリザスさん!?」
人違いではなかったようで、彼は反応し、私を呼び返す。
「ミスティか?」
「ミ、ミスティちゃん……このオッチャン、知り合い!?」
スリザスさんに首根っこを捕まえられている男性の存在は放っておき、
「あの……荷物ありがとう。あと、アミーのことは……」
「謝るな」
スリザスさんは、私の謝罪を遮った。
「手紙にも書いたが、アミー自身がずっと望んでいた結果だ。ようやく長い苦しみから、解放されたんだよ」
その言葉に嘘はないだろう。
だってその方法を探しに、このレオパルテに来るはずだった。つまり本当だったら、彼女は今も、彼の隣にいるはずだったのだ。
彼の「謝るな」の響きは、私だけではなく、自分にも言い聴かせているんじゃないか。それくらい、重かった。
「……スリザスさんは、淋しくないの?」
「詳しく言うと長くなるから、簡潔に言うが。最後の別れはちゃんとできた。アミーと、それからリュドミラ王女とも」
「リュドミラ王女とも?」
思わぬ名前が出てきて、反射的にオウム返ししてしまう。
「アミーの体は、リュドミラ王女の亡骸は……本人達が言うには、潰されて材料の土に練り込まれてるらしいんだが」
「惨い……そりゃあ一〇歳の若さで殺されてるだけで、充分酷いはずなんだけど」
しかし人型の、文明の中で過ごしている生物に生まれている以上、亡骸の扱いというものは、理屈では片付けられない。
スリザスさんに捕まっている彼も、通行人に助けを求めるのも忘れて「げー……」と、青ざめている。
「その土で作られた器の中に、魂が残り続けていたんだそうだ。役目を終えた後も彷徨う内に、土と死骸でできた兵器でしかなかったアミー自身にも心が生まれて、二人で一つの人格として共存していたんだと」
そして一つの器から解放された二つの心が、スリザスさんのもとへ現れた……と。
心が生まれた、と聞いて、人形のフェデリコのことを思い出した。
捕まっている男……そのモデルになった本物のフェデリコも、同じことを思ったらしい。
「心が生まれた……って。俺の人形と一緒だね」
人形のその後については、操っていた怨霊の名前(実在するモデルと混同されるのを防ぐため)で処刑台に送られた。
「ルベ君が言うには、特別な供養したって聴いたけど」
フェデリコの言う「特別な供養」だが、術者以外には絶対に見てはいけないし、内容を知ってはいけないそう。
ただ、私と他の生存者の女の子達と、そして姿を勝手に使われた彼は事件当時者として、人形の顛末を知る権利があると、簡単に今の話をされた……まではいい。
「あなたがその供養を覗こうとして摘まみ出されたところまで、私はセットで聴いたわ。……で、今もこうしてロクでもないことして捕まってるのね」
しかもカメラとメモ帳まで、しっかり持参していたそうだから、呆れるほかない。
「違うって、今日は何もしてないよ!」
本当に「今日は」何もしていなくても、過去のやらかしは星の数ほどありそうだ。
たとえ暗殺依頼が来ていたとしても、私は驚かないだろう。
うるさそうにスリザスさんが、右手で彼の首を掴んだまま、もう片手で手首を掴む。
「このゴミ記者についてだが」
強制的に後ろ手にされ、フェデリコは「いてっ」と小さく悲鳴を上げるも、容赦なく拘束された。
「こいつ恨んでる奴に会う予定だから、手土産にと思って捕まえたんだ。確かその連続殺人事件で、誤認逮捕された記者だろう?
この国の新聞で顔と名前を見て、すぐに判ったよ。過去に著名人をの悪口を、ある事ない事書きまくった、素行最悪品性下劣、底辺中の底辺のゴミクズで有名な記者、フェデリコだって」
「俺、ここまで言われなきゃなんないの!?」
自業自得という言葉が、フェデリコほど似合う男は早々いない。
軽い金属音がしたかと思うと、今までなかったはずの手錠が、彼の両手首に絡まっている。
「……やっぱり。いつかはこうなるかと」
「やっぱりって何だよ!? やっぱりって!? ……俺の過去の悪名はほっといてさ、話聴いてると、そのアミーだとかリュドミラ王女とかは死んでて、偶然成仏したみたいな感じだよね。
で、ミスティちゃんが原因みたいに言ってるみたいだけど、何したの?」
「こいつの声に、そういう力があるんだよ」
簡潔にスリザスさんが答えると、フェデリコはなおも考察を続けた。
「俺の人形とは、普通に会話してたんでしょ? ってことは条件があるんだろうね。近くで歌でも口ずさんでた……とか?」
「……まあ、ね」
「歌声に魔力かあ。マーメイドとか、セイレーンみたいだね」
「私脚あるし、羽も生えてないわよ」
これで「人魚って、人間に化けられたりしない?」と、言われなければいいのだが。
「それに人魚はとっくに、絶滅してる」
スリザスさんの言葉に、私は便乗して頷いた。
「そうそう、生まれ変わったら、俺の子供になるかもしれないとか言ってたな。あの二人」
話の流れが変わってくれて、助かった。
「赤ちゃん生まれたら、見に行っていい? あ、まず相手探しか」
「そういうことになるな。『今のままだと孤独死一直線』って、脅されたよ」
そういえばアミー達がいなくなったら、あの家には一人暮らしの中年男性だけが残ることになる。
冗談にしては結構残酷で、リアルな指摘だ。
「それ言ってるの、リュドミラ王女? なんか、アミーっぽくないけど」
「そうだ。本当にアミーと違って、よく喋る喋る……と、まあいい。淋しくないかと言えば嘘になるが、気持ちの整理はついてる。
ただ、彼女らをレオパルテに連れて来れなかったのは、残念だがね。二人とも、お前とレオパルテに行くのを、楽しみにしてたそうだよ」
レオパルテに来る目的は、彼女達の一〇〇〇年の長い旅を終える方法を探す為だった。
目的は果たせているはずなのに、胸に穴が開いたみたいな淋しさが、心に沁みた。
だが、彼女達がもういないのであれば、スリザスさんは何をしに来たのだろう。




