《49-2クズ記者二人の最悪な賭け事》
この記事を執筆したのがフェデリコさんだと知り、安心した。
偽物の彼も本物の彼も両者とも真実を民衆に伝えるのではなく、事実よりも「面白ければヨシ」という、いわゆる俗悪記事を扱っているのだが。
偽フェデリコの記事はせいぜい、人がつい興味を持ってしまいそうな、もともと下世話なネタを選ぶとか、歯に衣着せぬ強めの表現を使っているくらいだった。
しかし本物はというと、元ネタの拡大解釈や切り取り、さらには「考察」の名目を使った印象操作など、ほぼ原形を留めていない。
そんな彼の書いた記事であれば、デマの確率はきわめて高い。
「なぁんだ。本気にしちゃった」
「いやいやいやいや。ミスティちゃん、俺が書いたからって全部が全部デタラメの、読むに値しないゴミ記事だと思ってるでしょ!?」
「そこまでは思ってても言ってません」
「……思ってたんだね。まあいいや。俺も俺で今までの態度を反省してさ、今は『真実に基づいたジャーナリズム』っていうのを心掛けてるんだぜ!」
ライムジョッキの眼鏡男性が、彼の「決意表明」を聴いて、飲んでいた酒を噴いた。
「『偽物が書いた記事の方が面白い』って、レオパルテの読者に散々こき下ろされたもんな。しかも購買層の庶民から」
「だってあの偽の俺……ビオナードって奴は宮廷画家とも通じてて、金持ちのオバサンも演じ……共犯だったんだろ? 仕入れられるネタの、引き出しの量も質も、全然違うってーの」
さすがのデマ製造機も「芸術家の怨霊が宿った二体の人形と、怨霊の弟子」だなんて荒唐無稽な話、口には出せないようだ。
「宮廷とか金持ちの夫人のサロンとか、庶民じゃ入れないもんな。誇張やら何やらしなくたって、需要あるよ」
この眼鏡の男性が言うポイント、つまり「宮廷人」や「女性」など、特定の層しか入れない場所の話が、偽物の記事がウケた要因でもある。
一方、宮廷人やお金持ちの奥さんも、「立場上他人には言えないが、聴いてほしい本音」というものが存在する。
「モナ夫人を介して、フェデリコから受ける匿名インタビューは、楽しかった」と、証言をする人も、少なくはなかったそうだ。
そして書き留めた話(長くなりそうな人には安物の筆記帳を渡し、後日取りに来る)を、身バレ防止の為と言ってその場で改変し、その案を本人に見せて許可が下りれば掲載となった。
つまりは普通の人は「普段は知ることのできない情報」が得られ、ある種の特権階級の人は「立場を守りながら本音や愚痴を嫌がられずに(ここポイント)聴いてもらえる、数少ない場」だったようである。
例の記事について詳しく尋ねようと思ったところで、空のジョッキが渡される。
「飲み足りねーぞ、同じのもう一杯!」
二人分のジョッキを受け取って、再び同じものを彼らのテーブルに運ぶと、両方とも顔を真っ赤にして泥酔していた。
「ブレンデッド・ウィスキーのジョッキと、ライムカクテルジョッキ、おまちどーさまぁ」
「なー……ミスティちゃんよお、王様からの依頼で書いたんだよー」
一瞬何の話だ? と思ったが、さっきの話の号外記事が、目の前に出された。
「まさかとは思うけど。これ、国王様が書けって言ったの?」
「……あー疑ってるぅ。はい、証拠!」
国章付きの依頼書まで見せられてしまっては、疑いようがない。
依頼書を返すと満足げに笑い、フェデリコ(敬称は省く)は詳細を語り出した。
「王廷騎士連中が、皇帝の首持って帰還してすぐ、城に報道機関の公認記者連中が集められて、俺もその中に紛れ込んでたんだよね。そしたら王様から、直々のご指名~」
テーブルの中心にある、書類サイズの紙が目に付く。
「その紙は? 次の記事に向けての資料か何か?」
女性の名前と、そのファーストネームの隣には、私でも知っている名家の苗字が鎮座していた。
おそらく、名家の奥さんかお嬢さんの名前だろうけど、二つずつ、青のマルと赤のマルで囲まれているのがある。
更にそのマルの下には同色の文字で、彼らの名前、数字、そして「ルベオルス、ベリオット」のどちらかの名前という内容の書き込みが。
例えば青マル・青文字は「フェデリコ、二〇〇〇、ベリオット」、赤マル・赤文字は「サンテッソ、三〇〇〇、ルベオルス」という具合に。
サンテッソは、このライムジョッキを注文した、眼鏡の男性客の名前だろう。
嫌な予感がしていると、フェデリコの口からその答え合わせがされる。
「いいや、これは仕事カンケーない。ルベオルス君とベリオット君、それぞれ誰を選ぶか賭けてたんだよ。……で、ミスティちゃん。君は誰に賭ける?」
「え? 私も?」
「そうそう」
ニヤニヤしながらサンテッソ(この人も敬称を省くと判断)が、胸ポケットから黒いペンを出して渡してくる。
「この中にはいない」
「「へ!?」」
やっぱり「何言ってるんだ?」というような反応をされる。
「おいおい待ってよ、それじゃ賭けになんないじゃん。それにこの候補見てよ。英雄ったって、騎士だろ? 名門貴族と縁続きになるチャンスを逃したりなんか、するわけないと思うんだけど」
文字列を指差しながらサンテッソが力説してくれるも、意見は変わらない。
お兄ちゃんはそういう逆玉っぽいのは「かっこ悪い」という理由で嫌いだし、ベリオットは……
「両方とも該当者なしに……うーん、いくらにしようかな? とりあえずルベオルスに二〇〇〇と」
ここまで書く手が止まる。
もしかしたらお兄ちゃんも、好きになったら家柄とか関係なく、この話を受ける可能性もある。
ベリオットは……。
だけど、このギャンブルで勝ってしまうなんて(お兄ちゃんのは別にいいとして)、私からしたら死んだ方がマシだ。
話題を変えたい。
何かないかなと周囲を見渡すと、空模様と風の匂いの変化に気付いた。
「一時刻……ううん、半刻しない内に短時間の強い雨が降るに、一〇〇〇〇シェル。私の勤め先は『プチガーデン ~ラビットラバーズのアフタヌーンティー』だから、もし外れたら請求に来て!」
余白に今の賭け内容と、「ミスティ=ヴィリアンズ」のサインを走り書きすると、私は逃げるように足早にテーブルを去った。




