【第49話 ミスティ編:ストリートフェスティバルで舞う、紙吹雪と号外記事】] 《49-1誰もついていけていない戦勝祝いの祭り》
この間のマリエラ王女の誕生祭から、さほど経っていない。
にも関わらず、王城ではパーティが催されている。
そして庶民は庶民で、お祭り騒ぎ。
ストリートに出された木のテーブルに、酒を叩きつけるように置く。
「はい、麦酒大ジョッキお待ち!!」
今日は何の祭りなのかって。プリムスコロナ帝国との戦勝記念で、国中がお祝いムードなのだ。
祝砲で撒かれた紙吹雪が入り込んでも、めでたさと酒の力で酔っているためか、みんな気にせず飲んだり食べたりしている。
「紙が口に入って、気にならないのかしらね?」
喉に貼りついたら気持ち悪そうだな、とか想像しながらローラに言うと、衝撃の事実を知らされる。
「あれ、でんぷんでできてるからすぐ溶けるし、体にも影響ないのよ」
「え、そうなの!?」
紙吹雪は文字通り、「紙」という食べられないものでできている、という常識が崩れ去る。
「レオパルテは結構、野外でのお祭りが多いからって、食品工場が発明したんだって。紙吹雪って掃除大変だけど、やっぱり雰囲気出るのよねー」
それで飲食の邪魔にもならず、お祭りの雰囲気の出せる、いわば「食べられる紙吹雪」が誕生した、というわけか。
「だけど、水撒くなり、雨でも降るなりすれば掃除いらないから、そっちの面でもよかったよな」
と、空ジョッキを大量に抱えたオリヴィエが、話に入ってくる。
水に濡れてから少し時間が経過すると、溶けるらしい。
「ふーん、体に害がないなら、あえて花びらの形のやつ飲み物に入れて出したら、おしゃれかも」
とか考えてみる。花びらの種類は季節ごとに変えたりして、飲む寸前に入れるという形で。
「ミスティよぉ、店の客層……考えてみ?」
まったくもって、彼の言う通り……と言いたいところだが。
「分かんないわよ。いくらガラの悪い男性客って言ったって、うちみたいな、ウサギ人形飾ってる店にたむろしてんだから」
ところで、私はずっと気になっていたことを、勇気を出して口にした。
「今更なんだけど……戦争って、いつ始まっていつ終わったの?」
ローラもオリヴィエも、一瞬だけ凍り付いたようにピタリと動きが止まる。
(やっぱり、知らなかったの私だけ?)
「実は、俺も知らない。急に『祭りやるから店休業』って、親父さんから言われて……もう何が何だか」
「あたしも。でもみんな、あんまりにも普通にお祝いしてるから、言い辛かったのよね」
私がおかしくなっているわけじゃないと分かり、ホッとしていると店主が呼んだ。
「おーい、お前ら。麦酒切れそうなんだ。誰か二人、工場まで行って、もらってきてくれ!」
他のお店も飲み物や料理を提供しているとはいえ、こっちにも麦酒以外の注文は、ひっきりなしに来ている。
「なるべく樽で大量に持って来た方が良さそうだし、俺行きます!」
オリヴィエが工場行きに名乗りを上げたので、私はここに残ると表明し、そしてローラに振る。
「じゃあ、私残るからローラお願いできる?」
「わかった。でもここもここでキツそうね。なるべく急ぐ」
「それまで私頑張るから、よろしく」
ローラの「オリヴィエが自分を嫌っているかも」という誤解は解けたばかり。
よって、彼が望む結果まではまだまだ遠いものの、まずはお互いの緊張を解いて親しくなっていかなけらばならない(早い話が『店主の娘と従業員』以上、『お友達』未満)。
店主夫妻にバレたら、という問題は、もう考えなくても良い。
実は彼らが「オリヴィエが婿になってくれればなあ」と、話しているのを偶然聞いてしまった。
ただ「彼にも選ぶ権利があり、強要してはならない」ということで、本人には言わないとも。だから私も、口をつぐむことにした。
なのでご両親の許可はもう、得たも同然。あとはローラ本人を落とすのみである。
麦酒工場へ台車を引きずっていく彼らを見送り、私は張り切って酔っ払いのもとへウィスキー、ワインを運ぶ為、両手にジョッキの束を抱えるのだった。
夕の空に輝く王城の、まるで周囲に星をちりばめたような華やかな光が、この街道からも見える。
大小さまざまな明かりの魔法を、魔導師にでも城の周囲にかけさせているのだろう。
(ベリオットも、今頃出席してるんだろうな)
なにせ、このたび英雄となった王廷騎士は、いわばパーティの主役だ。
「号外、号外」
テーブルからテーブルへ行き来する時も、子供達に包装済みのお菓子を配る最中も、号外記事は紙吹雪と一緒に撒かれていた。
たぶん今回の戦争と勝利についてだろう。
毎度、新聞を発行する記者、カメラマン、印刷屋の耳と手の速さには驚かされるばかりだ。
私達市民は今朝、この大ニュースを知らされたばかりで、頭がまったくついていっていない。
なのに情報がもたらされる前から出所を突き留め、改稿も含めて記事を書き上げ、世間に公表するのを数時間でやってのけてしまうのだから、彼らが本当に人間なのかを疑ってしまう。
記事の見出しが目に入ると、そんなことは一瞬で頭から吹き飛んだ。
「は!?」
戦勝のニュースとセットで報じられている形だが、なんと、「王廷騎士、花嫁選考」という信じがたい見出しが、でかでかと書かれていた。
表向きは王様の直属の騎士……実際はギャラクスさんの部下である王廷騎士は三人いるが、「花嫁選び」となると、対象は女性であるペルラさんを除く二人。つまりベリオットも、結婚相手を選ぶのだ。
(なんで!?)
はてなマークが頭の中でぶつかり合っている音と、心臓の脈打つ音がうるさく鳴り響いた。
ベリオットとは、お互いの気持ちを確認し合って、キスもした。
あれは夢なんかじゃなかった。
からかわれていたのか。それとも気まぐれに、私に手を付けただけなのか。
(……確かめなきゃ)
幸い王廷騎士の一人、ルベオルスは実の兄。
彼を口実に、お祝いの名目で宮殿アパルトマンを訪ねられるし、ベリオットは不在でも、何か訊けるかもしれない。
(それでデマじゃあなかったら、今度こそ……諦めよう)
ふらついていた足下に力を入れて踏みとどまり、ジョッキを握る手に神経を集中させる。
「ブレンデッド・ウィスキーのジョッキと、ライムカクテルジョッキお待ち!」
テーブルに広げられた紙と筆記用具をよけながら、ジョッキをそれぞれの客の前に置く。
「おっ、来た……って、あれ!?」
ブレンデッド・ウィスキーを注文したお客と目が合う。
ちょっとだけ見た事のある顔だったのだが、向こうも私を覚えていたようだ。
「あ、こんにちはー、裁判以来ね」
ウィスキーの方の客こと、フェデリコさん。
彼は入国早々連続殺人犯の冤罪で逮捕され、死刑判決間違いないと目されていた、世にも可哀想なフリー記者である。
「お陰様で。今は晴れて自由の身だよ」
「へえ、この娘が例の事件の生存者」
眼鏡を掛けた、ライムカクテルジョッキの男性客も、事件を知っているらしい。
書類サイズの紙の横に置かれた、号外記事が目に入る。
私の視線に気付いたらしいフェデリコさんが、得意げな笑みで言う。
「ところで今撒かれてる号外読んだ? 書いたの俺!」




