↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
140/178

《48-3いつの間にか始まり、いつの間にか終わっていた戦争》

 中間地点の島にある港町では、皆が嬉しそうに歌ったり踊ったりと、祭りが開催されていた。


 人々の手に持った瓶から、ビールの祝砲の如く噴き出している。


「おうおう、兄ちゃん達も騒げ! 今日は歴史上最もめでたい日だ!」


 派手な帽子の中年男がなれなれしく肩を組んできたので、調子を合わせて笑顔を作るも、口元がどうしても引きつる。


「ビックリした。一体……何のお祭りなんだ?」


「『歴史上もっともめでたい日』……って、言ってたわね」

 セレフィナが、肩を組んで来た男の台詞に言及する。


 訊いてみようかと思って男のいた方に向き直ると、彼はもう、酒瓶から直にビールを飲みながら、遠くへ行ってしまっていた。


「あれが関係あるんじゃないですか?」

 マクベスが指すのは、新聞記事を景気よく撒(ま)く男。周辺には、紙吹雪のように新聞が舞い散っている。


 その一枚を拾ったイルゼが、気味悪いものを見たような、驚きの表情をした。

「何コレ!? デマじゃな……」

 言い終わる前に、彼女のこの反応についての答えが、新聞屋の口上(こうじょう)で明かされた。


「号外、号外! 悪の帝国プリムスコロナが、レオパルテ王国軍に敗北!!」


 音楽に混じって耳に入ってくる、人事られない話に、頭が激しく混乱する。


(どこの国とどこの国が、何をしたって!?)


「待ってよ。開戦自体、いつ……」

 イルゼは記事の文に指を這わせて、開戦日を探す。


 レオパルテからトリフィラート、そしてトリフィラートからここまでの航海の間、新聞の新しい情報はチェックしていたはずだ。


 少なくとも、トリフィラートに着いた時点では、ボタニー王達も知らなかったような反応だった。


 イルゼの指の動きを俺もみんなも追う形になり、目的の部分を見つけると、全員固まった。


 俺の目か、時間の感覚がおかしくなったわけでなければ、書かれている日付は……


「え……昨日!?」

 開戦日も、終戦日も、両方が昨日の日付なのだ。


 異次元にでも迷い込んだような気持ち悪さが、心に押し寄せる。


「観光の方? お祝いの、サクランボ酒はいかが?」

 お祭りの運営側らしいエプロンの女性が、笑顔で飲み物を差し出した。


「結構です。お酒は苦手なので。小さい子も、いますし」

 ゴーフルを口実に断ると、彼女は冷たいお茶を全員にくれた。


 ミスティが「レオパルテ王国のルートヴィグ王は、帝国と戦争するつもりだ」と伝えてきたのは、俺達がレオパルテを出る寸前の事だ。


「戦争って、こんなに早く始まって、こんなに早く終わるものなのか? 『宣戦布告』とか、手続きがあるんじゃないのか?」


 戦争って権力者が「やるぞ!」と速攻で攻め込んで、相手の大将の首を取れば終わりだなんて、単純なものではないだろう。


「神の連中は気に入らなければ即、仕掛けるけどな」

 ゴーフルの「神の暴露シリーズ」はもういいとして、マクベスが「嫌な事を言うと」と前置きする。


「レオパルテが宣戦布告のルールを破っていた所で、裁くのは難しいでしょうね。帝国を抜けば世界一の権力を誇る上に、魔王軍という後ろ盾もあります」


 帝国の告発みたいに、他の国が結託したらという問題でもないのか。


 それにさっきの新聞屋の口上「悪の帝国プリムスコロナ」という言い方が気になる。


 いや、非道な事をやっているし、各国に駐留する兵士達の横暴も問題ではあるけど、敗戦した側が叩かれるような「勝った方が正義」感が、どうしても拭えない。


「見て、これ」

 セレフィナが、記事の三段目の部分を指さして、何か言おうとしたところで、今度はバスケットを持った女性に「どうぞ」と、お菓子を渡される。


 丁寧に包まれたそれは、弾丸の形をしたチョコレートと、砲弾を模(かたど)ったという、おまんじゅうだ。


「ちょっと静かな場所を探そうか」


 話の途中で割り込まれるのもそうだが、ここの街は「帝国が滅びた」というニュースで、お祝いムードになっているのだ。


 祭りの輪の中心から外れて小路(こみち)に移動し、セレフィナに続きを話してもらう。


「トリフィラート国で起こったオルカントリード地方の大火事も、私の誘拐事件の事も、帝国が仕組んだという証拠が次々に出ているですって」


「ユングがレオパルテ王に、言われてたことと同じだ」

 あれらの事件が「アンジェの差し金だった」というのは最初から、あくまで俺達の推測でしかない。


 マクベスが続きを読む。


「しかも、ゴーフル君の水晶に記憶されてた、山奥の収容所の事も、レオパルテ軍が帝国の非道を暴いたって形になってますよ。


『シルフィングへの侵略行為も、これから詳しく調査し、責任を取らせる』ですって」


 ゴーフルの水晶の内容を記録したフィルムは、アンジェに奪われてしまったんだった。


「ひとの映像……自分の手柄にしやがって。えー、じゃあよ、レオパルテ王国とアンジェはある意味、『世界を救った英雄』って扱いになるの?」

 ゴーフルは頭を抱えている。


 帝国をかなり恨んでいるであろうイルゼは、複雑そうだ。


「帝国って嫌われてるし、レオパルテには称賛が集まるだろうね。でもレオパルテも、なかなかにロクでもないことは、実感済みだし……」


「なあ、ゴーフル。神様達はアンジェを使って、俺達地上人に天罰を下すんだろ?」

 俺はゴーフルに確認する。


「う、うん」

 彼も、自信がなさそうだ。

 そのアンジェに操られている国が、今は「横暴な帝国から、世界を救った」形になってしまっているのだから。


 しかしマクベスは口元に手を当てて考えた後、とんでもないことを言い出した。

「それ自体が、間違いかもしれませんね。誤解しないでくださいね。ゴーフル君が、嘘を言ってるって言いたいんじゃないんです。神々が彼の前でわざと、嘘の会議をしていた可能性を考えたんです」


 それは考えもしなかった。 


「神々が何か大きな決断をすると知って、ゴーフル君が何か仕掛ける。それを見越してまず偽の会議を開いて、彼に会議中のお茶くみを命じる。


そして偽の計画を盗み聴きさせ、本当のことは別のタイミングで、秘密裏に話し合ったのかもしれません」


「うー……わ、なんか否定もできない」

 ますます自信なさげに、ゴーフルはうなだれた。


「だけどミスティの言った通り、帝国は本当に、レオパルテ王国との戦争で滅んだ。その続きの『邪魔な帝国を消したら、全世界へ』っていうのが本当だったら」


 ミスティの情報は本当だったが、事が起きるまでのスパンが、短すぎる。


 もしかしたらこの間にも、別の国への攻撃準備を、レオパルテは整えているかもしれない。


「うろたえたって、仕方ないわ。そもそも、全てを防ぐのは最初から不可能よ。私達はできるだけ、目の前の犠牲を減らすことに集中するしかない」


 セレフィナが励ますように言う。


「レオパルテに行ったら、すぐにミスティさんを捜しましょう。それで少なくとも、彼女の安全は確保できる。それで事情を説明して、その情報の出所を教えてもらうのが、いいんじゃないかしら」


 彼女の言う通り、うろたえていたって仕方がない。


 元気を出そう。受け取った砲弾型のおまんじゅうにかぶりついた。


「うん、うまい」

 口に広がる確かな甘みから、ここは異次元の世界なんかじゃなくて、ちゃんと現実なんだと実感した。


「せっかくだからお茶も、もらおうかな」

 近くを通った、お茶を配るお祭り衣装の男に、お茶を人数分頼んだ。


「兄ちゃん、まんじゅう、うまい?」

 まだまだ不安そうなゴーフルに、俺は彼の分のお茶を差し出す。


「とっても。ゴーフル、まだ食べてなかったのか?」


「……よかった。信じられない話ばっかりが続いて、化かされてるんじゃないかって疑いが拭えなくてさ。このお菓子とお茶、じつは馬の糞と小便じゃないかって思ってたんだ。うん、本物だね。うまいよ」


 食べている最中に言われるものだから、まんじゅうを吐き出しそうになってしまった。

 背後でお茶を飲んでいたマクベスの、苦しそうにせき込む声が聞こえた。



 翌日、始発の定期船で出航した。


「あーあ、このクソ暑いのに、またズラだの何だの被らにゃいけねーのか」


 個室席に納まるや否や、ゴーフルは袋から茶髪のウィッグを取り出す。


「リボン、やめなきゃよかったじゃないか。あれなら猫だけ被ってれば、別人に見えるのに」


 俺が言うと、彼は物凄く嫌そうに顔を歪めた。


「冗~談じゃねえよ。動きにくいは、言葉は制限されるわ。猫かぶりはしたい時にするからいいんだよ。四六時中やってたら、肩がこって仕方ねえ」


「似合ってたと思うけどね」


「ちぇーっ、イルゼ姉なんて、リボンしてたって男じゃねーか」


 イルゼのスラックスは一応女性もので、金髪のウィッグにはリボンもついているのだが、ハンサム度が増えてしまっている。


「で、どこ捜すの? 都だけでもだいぶ広いよ」


 怒られそうな気配を察したのか、ゴーフルはそそくさ話題をミスティ捜しに変えた。


「住んでる所も勤め先も分らないとなると……俺が考えてるのは、闘技場かな」


 闘技場、という言葉を出しただけで、マクベスは察して伊達(だて)眼鏡をかけながら頷いてくれる。

「なるほど。確かにルベオルスの方が、会える確率も高い」


「最初はともかく、今は仲悪くなさそうだったし、ミスティの居場所も知ってるかも。あわよくば、どうにかしてこっちに寝返ってもらえれば、最高なのにね」

 と、イルゼ。それは俺も思っていた。


 ミスティの兄というのもあるが、彼とは戦いたくない。それに王廷(おうてい)騎士の一人が味方になってくれるのは、かなり心強いだろう。


「それは、彼女をこっちに引き入れてからがいいと思う。誤解を恐れない言い方をすると、彼女の身柄を確保してしまえば、こっちに下手なことはできなくなるわ」


 セレフィナの言い方は物騒だけど、もっともだ。


 敵地に唯一の家族である妹が「保護」されているなんて、人質以外の何者でもなかろう。


「もし闘技場にいなかったとしても、出場予定さえ分かれば、その日に出直すこともできるし。それに、長期不在の期間が分かれば、次の戦争がいつ起こされるか予測を立てる材料にはなりますね」


 このマクベスの意見に対し、ゴーフルが不吉な予言で返した。


「もし今一週間とか長い休みの最中だったら、次に接触できる頃には何か国かが犠牲になってる可能性もあるんだね」 


「……あの号外記事の日付が、誤植であったらどんなにいいか」

 つい弱音が漏れた。


 普通は戦争を一日で終わらせるなんて不可能ではあるが、相手は人間の皮を被った魔王とその配下である。


 するとセレフィナが、出航前に買った新聞記事を、中央テーブルの上に広げて見せてくれた。


「魔王軍の進軍ペースなんて、私達には予想はできないわ。トリフィラートからの指示があるまで、私達は情報収集と、ミスティさんの保護に集中しましょう。


私達がいない間にレオパルテ、かなり物騒な事があったみたいだし」



「少女連続誘拐殺人事件」


 見出しにはこう書かれていた。


 詳しい内容はというと……一五~一八歳の少女が連続して行方不明になる事件が発生していたが、自称芸術家のビオナード=ダフィーレンゼ、織物商の妻モナ=コンデリーザが逮捕、処刑された……とある。


「少女達を誘拐しては、殺して剥製(はくせい)にして売っていた……だって。ひどいことを」


 個人的には、そんなもの買う奴もしょっ引いてほしい。そもそも悪い商売は、需要があるから起こるのだ。


 ミスティが被害者達と同年代だということもあり、心配になる。


 続きを読むと首謀者であるビオナードは、実在するフリーの記者フェデリコになりすまし、少女達を巧みに誘い出しては殺していた。


 本物のフェデリコについては、無罪放免で釈放(しゃくほう)された、と書かれている。


 それと、犯人のアジトに、宮廷画家ランジェロ=ミローティも監禁されていた。


 ミローティは精神的に大きなショックを受けた影響で、魂が抜けやすくなる「離魂症(りこんしょう)」を発症しており、現在は施療院(せりょういん)に入院している、とある。


「……国内に入れば、もっと詳しい記事があるかな?」

 宮廷の画家が被害者の一人だなんて、もっとセンセーショナルに扱われそうだけど。


 ふと横を見ると、記事を見るセレフィナの目が、怖い。


「腹立つのも無理はないよ、こんな胸糞悪い事件」

 苦虫をかみつぶした顔で記事を手に取るゴーフルに、セレフィナは返した。

 

「それもそうなんだけど。この罪を着せられた記者の名前に、覚えがあって……ううん。なんでもない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。