《47-2セレフィナとの、早すぎる再会》
「そなた達のことは、港に電信をした。案内所で名前を言うがいい」
セレフィナと国王夫妻に城門で見送られ、これから俺達を案内するという軍人についていく。
「王鉄線で、港までお送りいたします」
騎士隊長だと名乗った彼に連れられて行った駅は、昇降機がついているなど、他と比べると豪華な内外装と設備が備わっている。
「こんなに豪華な駅なのに、こんな客居なくてやってられんの?」
ゴーフルが客のまばらなホームを見て言うと、騎士隊長が答えた。
「王鉄線は、国王などの要人専用の鉄道なんです」
言われてみると数少ない他の客は、みんないい身なりをしている。
目に入った路線図には、ほとんど駅名がないが、ゼーンズフトの地名を見つけることができた。
「どうやら軍事基地とか裁判所とか、国境周辺の施設といった重要な場所に、要人がスムーズに向かう為の鉄道みたいですね」
とマクベス。
なるほど、ゼーンズフトはトリフィラートの交通と貿易の要所だし、迎賓館もある。
ゼーンズフトの街にある港で列車を降りて、案内所へ行って名乗る。
「国王より、伺っております」
港の係員がついてくるように促すと、世界各国へ旅立つ定期船の停泊所を、通り過ぎていく。
「レオパルテ行き、あれじゃない?」
ゴーフルが指さすも、「別に船がございます」と、案内を続けられる。
定期船よりひとまわり大きく、豪奢な装飾の船がある。
外国の偉い人でも来ているのだろうか。もしかして、もう各国に連絡がと、国のトップ達の情報の速さに感心してしまう。
「王からのご用命ですので。最高の個室をご用意させていただいておりますです、はい」
俺達の為に手配された船だと、係員から明かされる。
「あ、あれに乗るんですか?」
こんな豪華な船に乗って、いくら払えばいいのだろうか。
「はい、定期船と同じく、物資の積み下ろしや燃料の補給などで、各ポイントの港に停泊しますが、その停泊の数が少ない分、早く着くことができます。代金は、後日イグドラシル城に請求するようにとのことで、皆様からはいただきません」
通された部屋はレオパルテ王国での大会の際に泊まった、選手用のホテル以上に豪華で、内心口がぱかーん、と開きそうなのを堪えた。
「さすが王室の案内だけありますねえ」
「うっひゃあ、超ゴーカじゃん。あれ? 兄ちゃん驚かないの?」
本当は、目の前の普通の倍はあるであろうベッドに、飛び乗りたい。しかも今回は一人ずつ個別の部屋だなんて。
でも、いくら驚いていいとはいえ、限度が解らない以上、また田舎者丸出し行為になってしまいかねないという危険がある。
驚くのは、目的地に着く速さだけではない。
定期船は夜の最終停泊には必ず降りて、引き続き乗る場合はいったんどこかに泊まって、出航までに再び乗る必要がある。
しかし客船の場合は、中に客室や飲食店があり、ホテルのように船へ宿泊できる。かつ揺れが少ないと快適……と、いう違いがあるそうだ。
「きゃっ」
廊下で女性とぶつかった。
比較的カジュアルなドレスを着た女性は、わりと勢いよく転び、アップにした蒸し栗色の髪を気にしながら立ち上がる。
「すみません。お怪我は」
手を差し伸べると、彼女はふふっと笑って手を取った。
「相変わらず、女性に優しいのね」
前髪をかき上げ見上げたその顔は、確実に知っている。
「あ、セ」
名前をいいかけたところで、もしかしてと勘がはたらき、声量を下げる。
「セレフィナ?」
「あれ、どうしました? また女性でも引っかけたんですか?」
後ろからマクベスが駆け寄って来る。
「またって、人聞きの悪い」
俺は誰彼かまわず愛想を振りまいて、その気にさせた覚えはない。どれはどちらかと言えば、占い師をしている時のマクベスだろう。
俺が興味のある女性は、一人だけだ。ちょっとセレフィナが意地悪な口調で笑う。
「アルは無意識、マクベスさんは作為的。えげつなさはドングリの背比べね」
隣の客室から入ったイルゼがドアに鍵をかけ、全員が俺の部屋に揃うと、セレフィナはふう、と開放的な息をついて鬘を取った。
「どうやって、ここまで来たの?」
イルゼに訊かれると、櫛で金の髪の流れを直しながら、彼女はあっけらかんと答える。
「だって。この混乱の中だもの。どうしても手薄になる場所が、どこかしらにできるわ。それに便乗して出たの」
相変わらずのおてんばぶりに呆れたような、この非常時にあの短時間で手薄になる場所を探し出せるしたたかさに感心したような。
そんな場合じゃない。あえて冷たい口調で、俺は言った。
「いや、セレフィナ、君は帰った方がいい」
「もう、兄ちゃん冷たい! またお父ちゃんを言いくるめて、出てきたのかもしれないじゃん」
「いいえ、今回は父にも内緒よ」
セレフィナには一緒に来てもらいたいのは、ゴーフルと同じだ。
それでも俺は、あえて正反対のことを言わなければならない。
「それならダメだ。彼女は、王様達の外交の手伝いがあるじゃないか。それに、王女の行方不明を説明するのに、『秘密任務に就いております』なんて通らないだろ」
彼女にだって、やるべきことがある。嫌われてでもなんででも、きちんとした護衛をつけて、できるだけ安全にしていてもらいたい。
なにより、ご両親との最後の時が、いつになるか分からない。
「セレ、気ぃ悪くしないでやってよ。こいつ女には誰にでも優しいから」
困ったようにイルゼが気遣う言葉をかける。
「ありがとう、イルゼ。私もわかってる。アルの大切なお友達を放ってはおけないわ。情報が漏れていることが知れたら、内部者……特に幹部の周辺はすぐに疑われるわ。例えば愛人とかなんて、すぐ調べが及ぶでしょうね」
「僕も、セレさんには来てもらった方がいいと思う。彼女がいれば王も、おいそれと我々を切ることはできないでしょうから」
マクベスが言うと、セレフィナは頷いた。
「お察しのとおりよ、マクベスさん。もしレオパルテの王やアンジェにあなた達のことがばれた場合、父は、あなた達を切るわ。
父は、目立つあなた達をアンジェの身辺でうろつかせて、気を取られている隙に出し抜く算段を立てているのよ」
セレフィナから王様の本当の目的を聴いて、勢いよく立ち上がるゴーフル。
「はぁ!? なに考えてんだあのオヤジ」
そんな彼を、マクベスがなだめて諭す。
「いいえ。王族という者は、時に他人を利用することもいとわないような、冷徹さも持ち合わせなくてはなりません。
自国の安泰は、倫理よりも重いことだってあります。極端な話、僕達を暗殺者だってことにして差し出せば、ピンチを救われたレオパルテ側に感謝され、信頼も得ることもできますからね」
仮にもレオパルテは元首連盟でもナンバーツーの立ち位置である。
敵になるとダメージが大きい上に、好かれた場合のメリットも大きいだろう。
神器を集められていないことについて言及してきたのも、俺が渋るそぶりを見せたからだろうか。
もしもっとゴネたり、きっぱり断っていたら、もっと厳しい言葉で追及されたり、援助の打ち切りもあっただろう。
「俺達がどうなっても、ボタニー王には損害なし……ということか」
突然、船が大きく揺れた。地震かと思ったが、違う。
外の様子を見ようと甲板へ駆けあがる為に部屋を飛び出す。閉ざされた空間の中で、みな必死に出口を探して押しのけあっている。
人波をかき分け、上への階段へ。
不思議なのは、みなどこそこ構わず、ドアを開けたり通路に入ったりしているのに、上への階段には人がいない。
甲板へ出て、理由が解った。
タコとも見えるしイカとも見える巨大な軟体生物の足が、その軟体と吸盤を駆使して、しっかり船を捉えていた。
この化け物は確か、昔セドナおばさんのしてくれた、外国の海の話に、出てきたことがあった。
「クラーケン」
セドナおばさんの声でその名前が頭をよぎったのと、クラーケンの足に振り回されたマストが、頭上に迫るのは同時だった。




