↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
128/178

《45-2施錠された扉と、廊下に並ぶ像と甲冑》

「ウソでしょ……!?」


 鍵がかけられている。


 思い返してみれば……いや、思い返さなくても罠だ。


 指輪は持って来たし扉を……とも思った。だが、落ちていた写真や、送りつけられてきた写真の意味を考えると、私が逃げおおせても、ロクな結末にはならない。


 貴婦人の狙いが私かローラ、というフェデリコの推理が頭をよぎる。



「……本当に客として来てるのかなと思ってさ」

「次の獲物、たぶん君じゃない?」


「よく現れるんだろ? あそこに身分の高そうな女が一人で来るって状況だけでも、不自然極まりない。単に茶を飲みに来てるんじゃなくて、目を付けた獲物を観察しているとしたら」


「君の店、もう一人女の子いたよね。ボブヘアの可愛い娘。店主の娘さんだっけ」


 

 丘陵の政兵(アクロポリス)も監視員(ウィギレス)も、今はあてにならない。

 貴婦人を捕まえられなくても、彼らのどちらかでも納得させられるような証拠があれば、と館の探索を決意した。


 それに彼女が外に出ていたということは、どこかに他の出入り口があるのかもしれない。


(なくても指輪を使えば、出られるんだけど)

 あくまで最終手段にはなる。


 どこでどうやって監視(しかも撮影)されているか分からない以上、うかつには使えない。

 私が貴婦人を訴えても、彼女が私の指輪の所持を告発してしまえば、私はアルの時みたいに、いちゃもんをつけられ、神明(しんめい)裁判に掛けられてしまうだろう。


 瞬間移動という魔法は通常、限られた者しか使えない。

 魔法をかじっている者には、結構知られてしまっている。これは大きなネックである。


 私の決意と諦めを悟ったかのように、内部の燭台(しょくだい)が灯(とも)り、奥へと招く。


 さて、中を見渡してみると、今にも眼が動きそうな肖像画や甲冑、向かい合ったユニコーンの像が数体。客人を迎えるように、また侵入者を牽制(けんせい)するように、兵を思わせる位置に並んでいる。


 燭台のおかげで廊下が蜂蜜色(はちみついろ)に照らされるも、美術品を楽しもう、という気にはなれない。


 むしろ私に敵意を持った何者かが、ドアを開けて照明までつけてくれるような、こんなにあからさまに招き入れてくる状態のせいで、気色悪さを引き立てる存在にしかならない。


 よく見ると甲冑のバイザーの部分から、目が覗いている。


「よくでき過ぎ」

 虹彩(こうさい)の筋の一つ一つまであまりにリアルな出来栄えに、まじまじと人形の目を覗き込んでしまう。相当凄い、人形師か誰かが作ったのだろう。


 文字通り「今にも動き出しそう」。


 魔導師の家や悪魔化した貴族の家のガーゴイルみたいに、通ったら動いたりしないだろうか、などと妄想が働く。


「まさかね」

 先へ踏み出す。


 すると甲高い嘶(いなな)きの声が、至近距離で上がった。

 ユニコーンの像が、頭の先からみるみるうちに、本物の馬に変身している。


「ていっ!」

 ユニコーンが石像化を完全に解く前に……と、銃を抜く。

 同時に重厚な金属の、具足で動いているような足音が、すぐ横でした。


 飾ってあった甲冑が、剣を振り下ろそうとしているのが視界の隅に入る。


 まずは回避を優先し、扉の方へ走って間合いを取る。


「ブライン・エッジ」

 海水の刃を詠唱し、ユニコーンと甲冑に飛ばす。


 ユニコーンは真っ二つに切れたが、甲冑はまだ動いている。


 刃が当たった場所は錆(さ)びてはきている。そこに数発叩き込むと、赤茶けてもろくなった鎧と共に、甲冑は上半身と下半身に分かれた。


 動いていた二体を倒し余裕ができると、改めて廊下を見渡す。

 他にも、動いてもおかしくないものはまだある。つまり傀儡(くぐつ)にしやすい、人や動物型のものが。


「他も、危ないわよね?」


 像どころか、絵も警戒した方がいいだろう。

 美術品を見るのが好きな身としては心が痛むが、この場合は仕方ないと割り切る。


「アビザル・フロスト」


 私の放った塩の冷気は通路いっぱいに広がり、絵画や像、甲冑を飲み込み、突き当りまで押し流す。

 倒れた美術品達は氷漬けになる。


 乱暴なやり方かもしれないが、罠を仕掛けた以上は壊されるのを前提にしてもらいたい。

 先にこちらを挑発して危害を加えたのは、そっちなのだから。


「それにしても……あーあ、もったいない」


 ぼやきながら破壊したものの残骸を振り返ると、斬った甲冑から人間の……色とりどりの内臓と、白い肉の断面が覗いていた。


 剥製(はくせい)。


 とても精巧なのは、当たり前だ。


「悪シュミ……」


 いくら賞金首狩りをして人の死に慣れようとも、かといって、好きになるわけではない。


 手始めに、近くにある扉を開けた。

 手狭(てぜま)な部屋にはおそらく額縁か、大きな鏡だろうか。布に覆われた四角いものがいくつも並んでいる。


 倉庫の用途で使われているのかなと、さっきの気持ち悪さを思い出しながらも、不謹慎ながら湧き上がってくる好奇心が布を外させた。


 カンヴァスだ。


 しかし美しく感動的な、誰もが芸術と称賛する絵画ではない。死体の敷き詰められた部屋の絵。


 他のもはがしてみると、女の悲痛な叫びがこちらにも聞こえてきそうな魔女裁判の光景や、施療院(せりょういん)、あるいは地獄に続いていると思われる、蒼黒(あおぐろ)い顔の、果てしない行列の絵。


 そそくさと部屋を出ると、その隣の部屋を開ける。


 石膏像が敷き詰められたそこは、ドアを開けた瞬間に像が動き出したので、ブライン・エッジを叩き込み、全て破壊した。


 一番奥の部屋に入る。

 中に入って目に飛び込んできたのは、壁にかかった、私の身長より少し低いくらいの大きな夕空と花畑の絵。


「きれい」


 迫りくる夕空と、その同じ色の花の絨毯畑(じゅうたんばたけ)。紫の雲の流れる秋風が吹き付けてくる錯覚までしそうな景色に、素直に見とれることができた。


 あとは古びたベッドと机と、イーゼルが一つあるだけだ。


 絵をもう一度見ると額縁が、斜(なな)めに歪(ゆが)んでいるのに気付いた。


「あれ、ズレてるじゃない」


 もっと近付くと、本来の位置とのずれの部分に、空間がある。


「隠し扉?」

 手を掛けると、絵は大きさに反して軽かった。予想通り、中には部屋があった。


「ヒェっ!?」

 真っ暗な中に石膏像が群れをなしていたので、軽い悲鳴を上がる。隠すように保管されたそれらは、明らかに、他の物と扱いが違う。


 照明を浴びて煌々(こうこう)と照らされている顔は、どれも明らかに見覚えがあった。


「これ全部、ギャラクスさん?」


 その奥には大事そうに包まれた、いくらかの絵。多分同じだろうと予想はできたし、また像が襲ってきたら嫌だ。


 それなのに何故か強烈に「見たい」という誘惑に駆られ、そっと足を踏み入れてしまう。


 像達は襲って来るどころか、うんともすんとも言わない。やはり特別な物だけあって、破壊される可能性のあるトラップには使えないのかもしれない。


 後ろの出入り口に警戒しながら、次はカンヴァスを包んでいる布に手を掛けてみる。現れたのは、全てギャラクスさんそっくりの肖像画だった。


 天使姿。人の身長を上回るほどの巨大な鷲に乗る美青年。楽器を手に持つ姿。酒に酔っている所……などなど。


 隠し部屋を出て花畑の絵を元に戻し、机を開けてみる。今度は、ギャラクスさんのグラファイトスケッチが大量に出てきた。


 しかし気になるのが、さっきの像やカンヴァスも含めて、一糸まとっていないか、腰に布一枚つけただけのものが大半を占めていること。


 どれも、神々しいまでに美しい。なのにどこか、恐ろしさと気持ち悪さを感じてしまうのが不思議だった。


 二段目は茶色の革でできている、古びた日記帳があった。

 表に金文字で「ビオナード」と名前が入っている。


 あの絵を描いた人物、そして家主だろうか。


 ビオナードは決して珍しい名前ではないけど、芸術家と言う前情報があると、嫌でも芸術史に名を残した天才が頭に浮かぶ。


「全部のページにびっしり『ギャラクス』って書いてあったりして」


 自分で言っておきながら、全身にぶわっと鳥肌が立った。恐怖を和らげるための冗談だったが、見事に逆効果だ。


 ところでビオナードは男性の名前だし、貴婦人のではないだろう。


 そうなると、いろいろな疑問があふれ出る。


 彼女は奥さんだろうか? 妻のいる人が男性の裸の絵を、大量に大事に保存しているものなのだろうか?

 だから隠すように保存されているのか?


 首を傾げていても埒(らち)が明かないので、日記を開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。