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《44-3宮殿アパルトマンにて行われた、美貌の宮廷画家への取材》

 金箔(きんぱく)がふんだんに使われた豪奢(ごうしゃ)な城門を、フェデリコに連れられてくぐった。


 宮殿の右翼部分は、貴族達、その他王に召し抱えられている人達の住んでいる、いわば宮殿アパルトマンである。


 今日取材するランジェロ=ミローティも、自宅兼仕事場として、部屋を与えられている。


 宮殿の前にある広大な庭園では、ドレスを着た少女達のグループの姿があったのだが。


「あの子達の着てる服……」

 だいぶ簡素というか、庶民のお祭り(イベント)ドレスみたいだ。


 違和感を口に出すと、フェデリコが言った。


「最近、貴族令嬢の間で流行ってるんだってさ。可愛くて楽だからって、よっぽど大事な行事とかじゃない限り、庶民ドレスにしてるんだと」


 金持ちのお嬢様が何を着ようが私には関係ないが、一つだけ、納得のいかないことがある。


「私が闘技場に着てった時は、王様やマリエラ王女に散々馬鹿にされたのに」


 確かにあの大会は、王女の誕生日イベントなので大事な行事ではあるのだが、国民にとってはお祭りの一つにすぎない。


 そして私は貴族でも軍人でもない、ただの庶民だ。


「まあまあ。何が流行るか、分からないものだからね。ところで、できたらその話、後で詳しく……」


 王様や王女の悪口を記事にしようという魂胆(こんたん)であろう。当然、首を横に振る。


「ヤダ。匿名(とくめい)で答えたって、内容で特定されちゃうもん」


 そして「嫌味を言い返した」だなんて、絶対に彼にバレてはいけない、


 令嬢達の中に、見覚えのある顔が何人かいた。


 闘技場で馬鹿にしてきた娘と、その取り巻きだった。


 グループの腰かけている噴水のそばを通過しようとした時、「カトレア席の庶民女!?」と甲高(かんだか)く叫ぶ声と、いろいろ何か言っているのが聞こえた。


 私のことを、覚えていたみたいだ。


 闘技場のことを思い出したせいで、またしてもベリオットのことを思い出してしまう。


(……王廷(おうてい)騎士も、ここに住んでるんだっけ)


 アパルトマンに入って、二階への階段に差し掛かろうとした時、


「ぁあっ……危ない!!」


 誰かの叫ぶ声がしたと思うと、何かが体にぶつかった。


「痛っ……た!?」

 私にぶつかったのは、ランドリーバスケットを乗せた台車だった。


「大丈夫か!?」

 階段の上から、フェデリコが駆け下りてくる。


「ごめんなさい、ごめんなさいっ!」

 私と同年代くらいのメイドさんが、今にも泣きそうに目をうるうるさせて、しきりに謝罪してくる。


 床から立ち上がってきたところを見ると、どうやら洗濯物を運んでいる最中に転んで、台車から手を離してしまったとみられる。


「私は大丈夫。あなたこそ、転んでたみたいだけど、平気?」


「はい……申し訳ありませ」

 台車に再び手を掛けたところで、彼女の表情が止まる。


「……盗賊狩りの……サフォー…………!?」


「メルティナ、アンタ何やってんの!?」

 彼女の後ろの方から、別の、たぶん先輩であろう褐色肌のメイドが駆け寄って来て、私に深々と謝罪した。


「私『ヴィリアンズ』って言います。それじゃあ、私はこれで」

 ミスティという名前を喉の奥に戻し、苗字の方を名乗ると、急いで階段を上った。


(今の娘が、メルティナ。ベリオットのメイド?)


 もう一度、彼女の顔を思い出してみる。


 清楚で小動物系の、可愛らしい感じだったなと、台車がぶつかった手を撫でさする。


(……痛った。ベリオットに怪我させてたら、許さないから)


「怪我はなかった?」

 雑念を隠して、フェデリコに返事をした。

「……ぁあ、うん。大丈夫!」


 二階の突き当りの部屋に入ると、自信に満ちた美男、ランジェロ=ミローティが迎えた。


 彼とフェデリコが握手(あくしゅ)して、軽く頭を下げる。


 彼らの顔を見比べて思ったのが、この二人、どことなくギャラクスさんに似ている。


「王廷騎士の連れの。また会ったな」

 私の顔を覚えていたらしい。


「今日はフェデリコさんの助手として来ました。よろしくお願いしまーす」


「あれ? ミスティ、ミローティと知り合いだったの?」


「武道大会観戦の時に、一回だけ会った事があるだけだけどね」 


 さて、取材が開始される。


 フェデリコは最初に「芸術の道に進んだきっかけ」「お気に入りの作品」「一日のスケジュール」など、当たり障りのない質問から切り出した。


 それから「恋人の有無」「モデルとそういう関係になった事は?」などの恋愛関係や「最高報酬」などのお金関係といった、人によっては答えにくい質問にシフトしていく。


 私はというと、フェデリコの横でそれらのフェイクの質問の答えを書き留めていた。


 助手は単なる名目ではあっても、これはこれで記事にするそうなので、聴き漏らすことはできない。


 それから最後のフェイク質問「宮廷での苦労話」が終わると、「解剖をする芸術家は本当にいるのか」と、核心に入り始める。


 もちろん、ミローティが解剖に手を染めているとは、思っていない体裁である。


 この「手を染めている」という、あたかも悪いことをしているような言い方だが。


 医学界、特にエリート内科医達には、人の体を切る外科手術や解剖を「下品な行為」と見なす人口が一定数いるそう。


 私のような素人からすれば、医者になれる時点でエリートだと思う。


 だがどこの世界にも、マウントの取り合いは存在するらしい。


 ん? そうすると、芸術の中でも絵がエライとか、彫刻の方が優れているとか、あるのだろうか。


 私の雑念は置いて、ミローティの答えはというと「いてもおかしくないとは思うし、自分も気持ちは理解できる」だった。


「死刑囚のものならまだしも、遺族を買収したり、墓荒らしまでする者がいるとか。そういった同業者を、どう思いますか?」


 この質問でミローティが困惑の表情を見せると、フェデリコは畳みかけるように質問を次々ぶつけた。


「死刑の数が減って、非合法に死体を入手している連中と噂が立っている」

「本当は解剖をしているのではないか」

「実はあなたが合非合法様々な手段で、死体を入手しているという噂を聞いている」


 いくらなんでも、ストレートに失礼過ぎる。

 フェデリコを止めるべきか。

 迷っているとミローティが「ハハハッ」っと笑い出した。

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