《40-3届け物の返礼に》
仕事を終えると私は裏路地へ行き、誰もいないのを確認して、ポケットの中の指輪に念を送る。
移動した先は市街地。
もしかしたらと思い、試しに「アルのところへ」とやってみたが、やっぱりうまくはいかなかった。
やはり具体的な場所、かつ知っている場所でなければ行けないようだ。
荷物のお礼と、昨日のベリオットから聞いた戦争の話。
そのことを知らせねばと思った。
だけど都は広いから、捜しようがない。
うろついている可能性もあるかもしれないし、少し捜してだめだったら諦めよう。
武器や防具店の揃う場所へ足を運ぶ。
撮影館を通り過ぎ、武器・防具店の近くまで来ると、武道とは無縁そうな女の子達が大勢うろついていた。
剣士目当てのファンであることは、想像できた。
「さっき、アルフィード=エースペード見ちゃった。近くで見ると、すっごく可愛かった」
こんな会話を小耳にはさんだ。
思った通り、装備を整えに来たようである。
遠くには行っていないと、足を速める。
アルのことだ。
きっと声を掛けてくる女の子達を無下にできず、足止めを食っていたに違いない。
しかし、反則負けとはっきり断定されているのに、この扱い。
さすがだ。行く先々へのモテ具合は健在である。
「人気者はつらいね」
子供が友達を冷やかすような声がしたかと思うと、そこに、疲れた顔で返しているアルを見つけた。
声の主は、あの連れの小天使だ。
「アルって、あたしらのことキライなの?」
「別に。イルゼはイルゼ、セレフィナはセレフィナじゃないか」
「つまり『お前らは女じゃない』と。なんて酷い」
他の仲間と、イルゼもいた。
声を掛けようと近寄ると、アルと目が合った。
「ミスティ!?」
「アル」
手を前に出して、彼が近づいて来ることを制した。
もし見られていたら、まずいからだ。
「ミスティじゃん。あの後大丈夫だったの?」
昨日の事をイルゼに言及される。
「今のとこ無罪だって。なにかしらの処罰はあるって思ってたから、ちょっと不気味」
ベリオットが言うには残酷好きらしい王や王女が、手放しで私を無罪放免にしていると聴くと、やはり信用しきれない。
「悪い事は言わないから。早く手を引いて逃げて」
つい声に出してしまった。
指輪に「今私が考えていることを、アルに伝えて」と念を送る。
アルの頭に直接語りかけるイメージで、メッセージを頭の中に作り出す。
(ルートヴィグ王は、戦争を起こそうとしてる。邪魔な帝国を片付けてから、次は全世界を自分の支配下に置くつもりよ)
私の「テレパシー」は成功したようだ。
アルの目と口が、驚いたように開かれたのを確認した。
ギャラクスさんとアルの対立自体には、興味はない。
そもそも彼の手に負える話だと思っていない。
だが相手は、レオパルテの国王に近い権力者だ。
トリフィラートの王女が一行に加わっていたって、田舎から出てきた一般人を消すのに、指一本、いや唇を上下させるだけの作業だろう。
伝えることだけささっと伝えると、私は逃げるようにそこから走る。
「荷物届けてくれて、ありがとう」
声に出してお礼を言い、そのまま走った。
後ろから「待って!」と聞こえた気がしたが、角を曲がるとすぐに、指輪に「宿屋の裏まで送って」と、念じて宿屋の裏の道へ飛んだ。
部屋に戻ると、そのままベッドに倒れ込んだ。
(大丈夫だったかな? さっきのテレパシー)
通行人で……たとえば落とし物をした人に「落としましたよ」と告げて、リアクションを見るという実験を、事前にしてある。
とはいえ、まだ使え慣れているとは言えない状態だ。
伝わっていると思ったら、実は伝わっていないとか、声が漏れているとかいうパターンの失敗もありうる。
実はテレパシー用の監視システムが存在していた、とかあったら、それこそ終わりである。
国民への告知前に戦争の話を漏らしたことと、おそらく海神王の指輪を隠していたことがバレたら、今度こそ牢屋行きになりかねない。
「でも私だって、手放せないもんね」
知っている魔法であれば、素人でも使えるというこの指輪。
使いこなすには、ある程度の勉強はいるが、私には充分すぎる拠り所である。
先ほどアル達へのテレパシーと瞬間移動に使ったのもだが、次の休日に都を出る予定なので、その移動と荷物運びにも使う予定だ。
都を出るとはいっても住居費の節約と、心情的に王城からは距離を置きたいのもあり、郊外の宿に移るだけだけど。
研究熱心な魔導師や時の権力者……それこそ王様達や、アルと一緒にいる魔導師やセレフィナ王女の手にでも渡れば、指輪ももっと、華やかに活躍できただろう。
(あとは、スリザスさんとかアミーが研究したら)
もし万が一この指輪を持て余すことになったら、レガリアに行って二人に相談してみるか。
そういえば、鞄の中にスリザスさんからの手紙らしきものが入っていた。
鞄を開けて、封筒の中身を読んでみる。
「え……アミーが!?」
書かれていたのは、私がいなくなったのと同時に、アミーが死んだこと。
おそらく、私が近くの海岸で歌ったのが原因だということ。
私の……というより人魚の歌声は、この世にとどまった霊魂を癒し、成仏させる作用があると判明していること。
そしてもし、レガリアに来る機会があったら、アミーと、彼女のモデルとなった「リュドミラ」という王女の墓を家の裏に建てたので、寄ってほしいということ。
(……私のこと、恨んでないの?)
もし本当にアミー達の墓参りに行ったとして、後ろから刺されやしないだろうか。
彼の言葉を疑うというよりも、そうされて文句は言えない……ということだ。
確かに彼らはアミーの死ぬ方法を探しに、レオパルテに来るはずだった。
しかし唯一の家族も同然であった彼女をいきなり失って、気持ちの整理なんてつかないだろうに。




