《40-2和解の兆し》
「ところで何の用?」
盗賊団の引き渡しも終わり、店の中も落ち着いたにも関わらず、ルベオルスが席に着く気配はない(この店は、客が勝手に好きな席に着く)。
「それが客に対する言い草か? せっかく届けに来てやったのに」
ルベオルスから、見覚えのある革の鞄が差し出される。
「……え、この鞄」
レガリアに置き去りにしたものが、まさかレオパルテに届いているなんて夢にも思わない。
受け取ると手は、反射的に鞄を開けて、「あれ」を探し当てた。
「あった」
輝封石のネックレスは、無事にその中にあった。
もう一つの方も。
「ありがとう! お兄様、愛してるぅ!!」
思わぬ幸運に興奮して、ルビーの首に抱き着いた。
「べたつくな。なんならあの芋にでもしてやれ。たぶん喜ぶぞ」
心底嫌そうな顔で、ルベオルスは自分の体から乱暴に私を引きはがす。
「芋? 芋って誰?」
私の知り合いに、芋と呼ばれる人はいないし、それっぽい人もいない。
「田舎の芋剣士。エースペードだ。あいつが持ってきた。お前の兄さんは、あいつなんだろ?」
「一応血が繋がってるのは、アンタでしょ。で、アルが? なんで!?」
「スリザス……とかいう魔導師から、預かったって言ってた」
スリザスさん。
あの晩海賊の網にかかっていなければ、彼とアミーでここに来ていたのだ。
二つの石を再び鞄にしまうと、底の方に何か、四角いもの入っているのがが見えた。
封筒だった。差出人に「スリザス」と書かれている。
そういえば、浜辺に残っているのは私の服だけで、荷物はスリザスさんの家に置いたままだった。
勝手にいなくなった私の荷物を処分せずに、取っておいてくれたのは感謝しかない。
(いずれ休暇を取って、お礼しに行こう)
「ここでなんか飲んでく? お腹減ってない? お礼に奢るよ」
「いや、いい。奴と話した時に、もう別のカフェで茶を飲んできた」
「てことは、アルには会ってるのよね!? 状態、どうだった?」
「気になるなら自分で会いに行ったらどうだ? 三日後に王城へ招かれてるから、それまでは都にいるぞ」
そう言って、ルベオルスは出口へ歩いていく。
少なくともアルは、死んではいないらしい。
あの重傷から、出掛けられるくらいに回復するなんて、闘技場のドクターと、セレフィナ王女と神器には感謝しかない。
「あ、そうだ。もう一つ」
呼び止めるとうるさそうに、彼は振り向いた。
「なんだ?」
「場所案内するから、今度母さんと父さんのお墓参り行こうよ。トリフィラートとレガリアだから、ちょっと日数いるかもだけど」
父親の方は厳密にはお墓ではないし、ついでに死んでいるかと言われれば微妙な状態だが、私の顔が認識できたくらいだから、ルベオルス……ルビーの顔を見せる価値はあるだろう。
ついでに、村の墓地の隅に埋められている母さんの骨も、彼の所に運んであげたい。
「……考えておく」
考えておいてね、と彼の後ろ姿をを見送った。
「ねえ、今のルベオルスじゃない!?」
ほぼ入れ違いに帰ってきたローラが、片手に野菜の入った袋、もう片手に小麦粉袋を持ったまま、慌てた様子で言ってきた。
「うん。私のなくしものを、届けに来てくれたみたい」
「もしかして、お母さんの形見が入ってたっていう……」
私がローラに頷くと、オリヴィエが油の樽を床に置く。
「お前ら、仲悪そうだったよな? 闘技場で見た感じ」
「本当に生き別れで、それまで会った事もなかったの。やられてた方……アルフィード=エースペードの方は、私の年上の幼馴染だったんだけど、実質は彼が兄さんみたいなものだったのよ。だからあの時は、彼が殺されないように、ただ必死だった。この荷物も、彼がレオパルテに持って来てくれて、ルベオルスが預かったんだって」
「エースペード……って、結局無実だったのよね。あの後、大丈夫だったのかしら?」
「今日、カフェでルベオルスとお茶してたって」
「回復早すぎじゃない!? 出血もすごかったでしょ」
「仲間に凄腕の治癒師がいるんだって」
「……うっひゃー、医者が失業しちゃうね。そっかー、良かったね。ところでお兄さんのルベオルスといい、幼馴染のエースペードといい、ミスティってイケメンとか美少年の知り合い多くない? 今度カッコいい人、紹介してよ」
ローラは入口の方を向いているので、厨房の方に油樽を持って向かうオリヴィエが、彼女の方に振り返っているのは見えない。
(あーあ、またしても進展は、なかったみたいね)
「いいよ。そのかわりに、今度の休業日の前日、遊びに行くから付き合って」
「やった!」
ローラとの約束を取り付けたので、次はオリヴィエが一人になった時に、彼の予定を確認しよう。
「いらっしゃいませー」
再びお客さんが来始めたので、オーダーを取りにテーブルへ向かう。




