エンカウント/ミスティ《37-3振り絞る勇気》
「女の契約者? それなら、いくらでもいる」
この答えに次の質問を躊躇したが、恐れをなしては負けだ。
幸いベリオットは、私の言い方からは何も感じていない、とは思うがやっぱり恥ずかしい。
顔を逸らすと、横に流した足が落ち着きなくそわそわ動く。
「若い女の人はいる? 例えば私と同年代とか、その辺」
「つい最近……貧しい家の娘の願いを叶えた。なんでも家族のために、金持ちになりたいそうだ」
心臓を手でつかまれたような苦しさに襲われる。何も持っていない若い女が払える代償は限られているのを、自身の体験で知っていた。
「ちなみにその娘、かわいい? 代償って、何もらったの?」
やめておけばいいのに、墓穴を掘り続けた。彼に酒を注ぐ瓶を持つ手が、力を失って震えている。
「そいつの唯一持つ宝」
瓶を落としてしまわぬよう、ここで手に、ぐっと渾身の力を込めた。
「祖母の形見の宝石を受け取った。顔はどこにでもいる顔だ。だが『幸福の種』を与えたから、じきに身分の高い者の目に留まるだろうな」
「幸福の種? 何それ?」
ほっとして酒瓶をベッドサイドチェストに下ろし、幸福の種についての、素直な好奇心から尋ねた。
「幸福の種にはそれぞれ種類がある。金運関係は黄色の花が咲く。そしてその花を大切に育て、花が咲く頃に願いが叶う」
「ふーん、健気ねえ。何してる人なの?」
願いを叶える手段が、お花の種を枯らさずに大切に育てるなんて、なんとも可愛らしい。
被害妄想的な連想で、危機を思いついてしまう。
そんな「家族のために」、しかも払った代償が「おばあちゃんの形見の宝石」だなんて可愛く健気な少女に接して、心が動かなかったのだろうか。
「王城での下働き」
彼は言った。
そして私の勘が正しければ、高貴な人の目に留まる現場はおそらく、「レオパルテの王城」なのだ。
そしてその「身分の高い人」は、王廷騎士の称号を持っているベリオットになる可能性だってなくはない。
結論を言えばその契約者は、例の「メルちゃん」じゃないかと疑っている。
「ベリオット」
下心を晒す恥ずかしさで、再び顔が熱くなる。
だけど、芽生えた危機……可愛らしい健気さという「幸福の種」を持っていた彼女への嫉妬と、緊張による胸の高鳴りを鼓舞に変え、ベリオットとの距離を詰める。
「……キス、してもいい?」
ベリオットの記憶の中にいる女性の人数を、私は知らない。
だけど嫉妬しても仕方ない。
ただ、今この一夜、いや、記憶の中では彼の中では、数分にも満たないかもしれない。
(それでも、ベリオットの記憶に残りたい)
ベリオットの組まれた脚に、静かに両手を添えた。
彼は何も答えない。でも嫌だとも言わない。
なら、押してしまえ。
ベリオットの体に腕を絡ませて、体を傾けると体重をかけ、目を閉じた。
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暗い視界の奥でした「ぐおぉっ!」という爆音に驚いて、目を開けた。
ベリオットは、高いびきをかいて眠りこけていた。
答えなかったのは、眠気に限界がきていたからだった。
「……飲ませすぎちゃった、みたい」
ほっとしたような、だけどがっかりしたような。
横に倒れるベリオットに毛布をかけた。




