《37-2レオパルテ国王からの書簡 本当の用件は余白部分に》
アンジェのテリトリー確定である都中心部や、選手用のホテルを避け、郊外の宿屋をマクベスが取ってくれたのだが、王城で行われている宴会の音楽が、ここまで聞こえてくる。
羽毛の入ったベッドに腰掛けて、俺はこれからのことについて話そうとした。
「これからどうしよう? 場所を改めて指輪を探すか。それとも、シュットガイストに取られた、もう片方の、天空王のジュエルを取り戻すか」
大会の時、審判は大地神王と、天空王の神器にしか言及していなかった。
指輪はひょっとしたら、アンジェ側の奴が、すでに持っているかもしれない。
「あいつの居場所は基本、王城ですかねえ」
マクベスが言うと、ゴーフルが「げー」と嫌悪を口に出し、舌を出した。
「めんどくせー。こっちがジャマならさっさと出てこいよな。まったく気のきかねえマッチョガイストだ」
そんなことを話している最中、ノックの音がした。
「はい」
ドアを開けると、もっさい髭と犬のような顔が印象的な、礼服姿の男が立っていた。
彼が見せたのは、国章の封蝋がついた手紙だった。
「宰相が、一度会いたいと」
宰相と、確かにそう言った。
「どうして俺が?」
使者も「知らん。俺に訊くな」とでも言いたげに顔をしかめた。
「なんでも、ルベオルスは闘技場で戦うようになってから、これまでずっと無敗のチャンピオンだったそう。それに惜しくも勝ち損ねたお前に、興味を持っている、との事だ。日付などの具体的な提案が書いてあるから、この場で読んで、この場で返事をもらおう」
開けてみると「本日の試合、見事であった」という、無難な書き出しから始まっている。
(差出人からして、本当の目的は違うんだろうな)
十中八九、罠だろうけど。
手紙を読み進めても、日付の指定と、ぜひお会いしたいというような、無難な話しか書いていない。
最後の行まで目を通すと、空白部分に文字が現れる。
「声を出さずに読め。使者は私とお前の関係を知らない」
(!?)
最初の言葉を読む終わると、次の指示が浮かび上がってきた。
「明日にお前の友人、ユング=ロックハートを招待した。もし私からの招待を拒否すれば、彼及びその家族を殺す。なおロックハートやその家族にこの手紙のことを知らせた場合も、彼らの帰りの無事は、保証できないものとする。強制はしないが、色よい返事を期待している」
強制はしないなどと、また大嘘か。
こっちが要求通りにしても、奴は信用するに値しないと何度も証明されている。
ユングを人質に取ってくるということは、彼にはもう、謁見の話をつけているとみていいだろう。
「はい、アン……ギャラクス様の招待に応じます」
間違えて「アンジェ」と言いそうになり、使者からは怪訝な顔をされたが、特に怪しまれることはなく、話は終わった。
使者が去るとゴーフルが、トテトテと駆け寄ってくる。
「またアンジェから手紙!?」
「随分と、積極的ですね」
「闘技場で公開処刑の予定だったわけだしな。向こうも焦ってるんだろ」
内容を見てもらった方が早いと、マクベスに手紙を見せようとすると、ゴーフルが横からひったくる。
「こういうのって、優勝者に送るもんだよね」
「そうじゃなくて……あれ!?」
再び手紙を見ると、余白に書いてあった本当の用事は消えている。
「どうしました?」
「それが」
無難な方の用事を読み終わると、余白部分に本当の用事が出てきて、ユングの命を盾に脅迫されたこと。
でも今は、元の余白に戻ってしまっていることを説明した。
「良かったですね、今回はメッセージだけで」
マクベスが俺の「剣」に送った視線の意味が解り、ギクッとした。
呪いとセットという事態も、充分あり得ただろう。
「あのユングって兄ちゃんなら、本物の優勝者だし、呼ぶ口実には困らないだろうね」
「ゴーフル、何言ってるんだ? 優勝は、ルベオルスだろ?」
俺の意識がない間に、何が起こったというのか。
戸惑う俺に、ゴーフルが告げた。
「それがねえ。ルベオルスのやつ、優勝放棄しちゃって……表彰式にも出てきてないんだよ。ねー、マクベス兄ちゃん」
「優勝者なしという結果では観客……特に金を賭けてた連中が納得しないということで、ユング=ロックハートが優勝になったんです」
俺が気絶している間にそんな事が起こっていたとは。
やっぱりルベオルスの奴も「勝てばいい」というタイプではなかったのか。
「村の復興資金が目的だから、良い結果なんだろうけど。ユング本人は複雑だろうなあ。今回は、そのことを利用されてしまったんだし、俺も手放しで『おめでとう』とは言い難いよ。むしろ申し訳ない」
「彼にそのことを告げることができない以上、アンジェの招待に応じる以外、できることはありません。最悪のケースをいくらか想定してみて……アルさんが断った報告がいった時点で、報復としてユングさん達に暗殺者を差し向ける、とか。もしくは彼らの帰りの船を、他の客ごと沈めるのも考えられますね」
マクベスの縁起でもない推測を、否定できないのが恐ろしい。
属国化を断られた報復で、辺ぴな田舎とはいえ、地方一つを焼け野原にしたかもしれない奴だ。
家族一つを他人を巻き込んででも消すくらい、感情一つ動かさずにやってのけるだろう。
よっぽど俺が怯えた顔をしていたのであろう、マクベスはやや早口で、訂正でもするように言い足した。
「まあまあ、そんな青い顔せずに。少なくとも奴の目的はアルさんに会うことだし、明日の謁見で、ロックハートを殺してしまうのは、ありえないでしょう?」
少し楽になるが、直後にゴーフルが水を差す。
「わっかんないよー? アンジェのやつ、天界の連中と同じ悪シュミのニオイがするもん。『OKの返事はしたから大丈夫』と、油断したところで理不尽に人質を殺して、兄ちゃんを精神的に追い詰める方を狙ってくるかもしれないぜ?」




