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幕間ーsideシャルル王子②


 sideシャルル王子


 ロシュフォール領から戻った後、僕は無我夢中で剣の稽古していた。

 

「はあ、はあ、もう一本!」

「殿下、そろそろ終わりにしましょう。もう限界ではないですか」

「まだだ、この程度じゃ……彼女に追いつけない。頼む、付き合ってください」


 護衛の兵士に頭を下げると、彼は模擬戦用の木剣を握り直して、再び向き合ってくれた。


 初めてヴィオレッドと出会った日、兄様への劣等感に苦しむだけだった僕の暗い人生に明るい光が差した。

 彼女の心温かい言葉と、美しい容姿に魅了されて、いつか添い遂げたいなんて考えが頭を巡るようになっていた。


 だけど、僕の心はまた彼女によって暗い幕に覆われてしまった。

 暴徒と化した領民を大魔術で瞬く間に制圧してしまった彼女の姿を忘れられない。


 僕は安全のために離れた場所からその光景を食い入るように眺めていた。

 あの瞬間、僕が真っ先に感じた感情は……嫉妬だった。

 初対面の時に気絶した彼女を見て、摘まめば折れてしまう儚い花のような少女だと思い込んでいた。


 しかし、違った。

 彼女は全てを持っていた。

 僕にないものを全部。

 魔術の才能、家族からの尊敬、カリスマ性。

 僕が兄様に感じていた劣等感を、彼女にも感じてしまった。


 僕はなにも変わっていなかった。

 勉強を頑張り、魔術の訓練に励み、周囲に褒められて努力した気でいた勘違い野郎。

 これじゃ、彼女の隣に立つ資格はない。

 

「はあ!」

 

 渾身の一撃を護衛の兵士に叩き込むが、あっさりと打ち返されて、剣を叩き落とされた。


「……ありがとうございました」

「ずいぶんと上達されました。そう落ち込まないでもいいのですよ?」

「……兄様は僕と同じ年の時、どのくらい強かったですか?」

「……そ、それは……」


 言い淀む護衛の兵士。

 それだけで、答えが出ているようなものだ。


「俺がお前の歳の頃は、そこらの兵士よりも強かったぞ、シャルル」


 耳を塞いでいても届くような、透き通った声。

 振り返ると、そこにいたのは金髪長身の青年。

 僕を見下ろすブルーの瞳は冷たく、何を考えているか推し量れない雰囲気を纏っている。


 オスカル・オリヴィエ・ド・ヴェルサイム第一王子。

 五つ年上の十六歳になった僕の兄様だった。


「最近訓練に励んでるらしいな。いつも塞ぎ込んでいたお前が、元気になってよかったよ」

「……はい」


 兄様と顔を合わせるだけで、劣等感に胸が押しつぶされそうになる。

 だけど、きっとそれじゃダメなんだ。


「兄様、僕に稽古をつけてください」

「……ほう?」


 眉を上げて、面白い物を見るような目で、そのブルーの瞳が見開かれる。


「なぜ?」

「憧れの人がいるのです。僕はその人に並び立つために、強くなりたい。そのために剣術も魔術も勉強も、全ての面で兄様を超えなきゃいけない」

「そいつは俺よりも優れているというのか?」

「……わかりません。ただ、そのくらいの覚悟が無ければ僕は何者にもなれないと感じただけです」


 そう言うと、兄様は嬉しそうに笑った。


「ははは、そうか、あのシャルルが俺に頼み事か。いいだろう、剣術、魔術、勉強、俺がじきじきに叩き込んでやる。途中で投げ出すのは駄目だからな」

「いいのですか!?」

「ああ、弟の願いを叶えてやるのも兄の務めさ。厳しくなるぞ、覚悟しておけよ」

「はい!」


 ヴィオレット、待っててください。

 僕は四年後学園に入学するまで、貴女と会うのを止めます。

 再会した時に、胸を張って会えるように、全力で努力をして隣に立つために。

 貴女にプロポーズできる、ふさわしい男になってみせます!




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