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革命軍vsロシュフォール

 夜の静寂を、煌々と燃える松明の炎がかき消す。

 領主館前、二十メートルほどあけて、両陣営は一触即発の睨み合いを続けていた。


 一方は、銀色のフフルプレートを身に纏った百名を超える騎士団。騎士を横並びに整列させ、その中央には領主ギヨーム・ロシュフォールと、その夫人ソフィー・ロシュフォール。


 相対するは、服装も装備もバラバラの寄せ集めの集団。だが、人数は騎士団の倍以上。彼等を扇動するのは、黒髪黒目のアザール・ロン。

 

 僅かなきっかけさえあれば、戦いの火蓋が切られそうな緊張感が漂っていた。

 ギヨームの握りしめる拳は汗でぐっちょりと濡れている。


 アザールは屈強な青年であった。

 若き血を滾らせて、その瞳には強烈な怒気をのぞかせている。剣先をギヨームに突きつけたアザールが叫ぶ。


「はやくニアを連れて来い! 貴様らが攫ったのは分かっているんだっ!」

「何度も言っているであろう! 我々はそのようなことをしていないっ!」

「この後に及んでまだとぼけるつもりかっ!」

「本当だ信じてくれっ!」


 ギヨームはそう答えるしかなかった。

 アザールの訴えによれば、ヴィオレットと仲良くしていたニアを、ロシュフォールの騎士が盗賊と結託して攫ったらしい。急いで騎士団に確認したが、そのような事実はなかった。


「お前の妹のことは娘が何度も家に連れてきたから知っている。そんな子に手をだすはずがなかろう!」

「嘘をつけこの腐れ外道めっ、盗賊と手を組んだのもお前の指示だとソイツは言っていた」

「お前達は騙されているのだ。神に誓う、領民を裏切るような行為はしていないと!」

「そうやって、一体何人の罪なき領民を騙してきた? いまさらなにを信じろというのだ!」


 (やはり無理か……ロシュフォールが積み上げてきた罪はあまりにも多すぎる)


 こうなることは避けられない運命だったのかもしれない。

 ギヨームは覚悟を決める。

 衝突するようなことがあれば、この首を差し出してでもとめるつもりだ。

 すると、相手陣営から怒鳴り声が湧き起こった。


「やめるんだアザールっ、これは何かの間違いだ!」

「黙れ親父ッ、グズグズしてたらニアが死ぬかもしれねぇ、それでもいいってのか!?」

「そうは言っておらん! だが、今のロシュフォールがそんな真似をするとは思えんのだ!」


 (あれはたしか、ヴィオレットが通っているフォドン剣術道場の師範か)


 白髪混じりの彼は腰を痛そうに押さえ、息子であるアザールを必死に説得していた。


「ヴィオレットがいるんだぞ、彼女がニアを傷つけるのを許すはずがない!」

「……っ、だ、だが!」


 そこへ、さらに十数名の男達が加わる。

 栗頭の大男が必死な形相で、アザールの肩を掴む。


「俺達のヴィオレットはそんなことをしねえ! これはきっと何かの間違いだ!」


 さらに三人の男が続く。


「お前は道場であの子のなにをみてきたんだ!?」

「ニアちゃんのために命を賭けて薬草を摘んできた子だぞ!?」

「ロシュフォールは信用できなくても、ヴィオレッドは信じてやるべきじゃないのか!?」


 息苦しそうにアザールが剣を持たぬ左手で頭を押さえつけて首を振る。


「言うなぁ、言うんじゃねぇ!!! 俺はニアを救うんだ!」


 アザールを説得する彼等はおそらく剣術道場の門弟なのであろう。いつ襲ってきてもおかしくない緊迫した空気の均衡が保たれていたのは、彼等の説得があったからだ。


 ギヨームが周囲を見渡せば、門弟ではない人もヴィオレッドの名前に意思を揺らがせている。武器の代わりに農具を手に持った農民らしき者達が言う。


「お、俺もあの子に畑仕事を手伝ってもらった! ロシュフォールは大嫌いだけども、ヴィオレット様は悪い子じゃねぇ」

「ウチのとこにも来てくれたねぇ。偉いとこの娘だってのに、私らと一緒に泥まみれになって笑ってたよ」

「やっぱりなにかの間違いじゃねぇのか……」


 隣に立つソフィーが、ふふと静かに微笑んだ。


「誇らしいですわね、あなた」

「ああ、いい娘をもったよ」

 

 だが、ここに集まった全員がヴィオレットを知っているわけではない。

 むしろそれはごく少数だった。

 民衆のどこからかともなく大きな声があがる。


「納得いかねえ! ロシュフォールを皆殺しにするチャンスが来たんだ、引き下がれるか!」

「アザール、合図をくれ! 俺達はお前がやれと言えばいつでもやってやるぜ!」

「憎きロシュフォールに制裁を!」

「「「そうだ! そうだ!」」」


 相手陣営からギヨームに向かって投石が放り込まれた。

 慌てて前に躍り出た護衛の騎士によって直撃は防がれたが、その行為によってギリギリのところで踏み留まっていた均衡が傾く。

 大勢の者達が石を拾い投げつけ、投石を開始する。


「領主様っ! 反撃のご命令を!」

 

 そう叫ぶ兵士にギヨームは叫んだ。


「ならんっ、決して反撃はするな!」

「しかし、それでは御身が!」

「構わんっ、ここで暴れたらそれこそ全てが水の泡だ!」


 ヴィオレットが築いた民からの信用を台無しにするわけにはいかない。ギヨームは騎士団に手出し無用と命令を飛ばす。


 暴徒を率いるアザールは、眉間に皺を寄せて顔を歪ませていた。


「……お、俺は……俺はどうすればいいんだ……ヴィオレッド、教えてくれよぉ」


 何度も何度も葛藤を浮かべた彼は、やがて、ストンと剣を力なく地面に落とした。

 戦意を失ったような姿に、ギヨームのみならず、多くの者が瞠目した。


 一体なにを言うつもりなのか。


「戦いを……やめ」


 アザールが口を開こうとした、その瞬間だった。


『不遜なる彼の者に空よりの天罰を与えん、唸れ閃光の一撃よ……ライトニング!』


 一条の雷光がアザールの頭を貫いた。


「かは」


 白目を剥いて、地面に崩れ落ちるアザールに、全員が息を呑んだ。 

 引潮が勢いを増して全てを飲み込む大波になるように、しずかな沈黙を怒声が切り裂いた。


「ロシュフォールがやりやがった!」

「ぶっ殺せぇ!」


 両軍が衝突した。



 ◇ sideアザール


 俺はどこで間違ってしまったのだろう。

 

 金属がぶつかり合う甲高い音が、ぼやける意識の遠くから聞こえてくる。

 雷魔術に貫かれて、しびれる体を強引に起き上がらせる。


「……ぐっ」


 視界が霞む。

 いや、どうやら魔術が直撃して左目がやられたらしい。

 半分になってしまった視野をあげる。ロシュフォールの騎士団と、俺が集めた革命軍がぶつかる戦場が飛び込んできた。

 

 騎士団が固まるその奥には、ギヨーム・ロシュフォールが焦燥に駆られた表情でなにかを言っている。


「だれ……魔術……放っ……!」


 意識が完全に回復してないせいで、なにも聞き取れやしない。

 ロシュフォール側に交戦の意思はないのか、ギヨームの指示で領民を無力化しようと躍起になっていた。


 だが、殺傷と魔術を禁じられている騎士団は多勢に無勢、数人の騎士が鮮血を出して崩れ落ちる。


 ギヨームは苦しそうに歯を食いしばり、それでも必死に堪えていた。

 その姿に、彼はニアの件に関与していないんだなと俺は思った。

 あの時盗賊共と会話をしていた騎士の言う通りならば、ギヨーム・ロシュフォールは民を人だとも思わない冷血漢のはずだ。俺の目に映るあの男は本気で民を想い、己が命を犠牲にしてでもこの争いを止めようとする気概を見せていた。


 本当に俺はなにも見えていなかったのだ。

 ロシュフォールというだけでヴィオレッドを悪だと決めつけて、ギヨームを民から搾取する血も涙もない悪徳貴族だと思い込み、あろうことか盗賊と結託した騎士に唆され信じてしまった。

 片目を失うのも当然の結果だ。


「や……め……ろ……」


 俺の責任だ。

 この戦いを止めなければいけない。

 しかし、魔術に焼かれた体は重く、まるで自分の肉体じゃないようであった。


 ポロポロと情けなくも涙がこぼれた。

 未熟な自分に怒りと後悔が湧いてる。

 復讐も出来ず、人を信じることも出来ず、癇癪で暴れ回るだけの半端者。


 (……俺はどうなってもいい。せめてこの戦いを止めてくれ)



 そう願った時だった。


「んぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 空から二人の少女が落ちてきたのだ。



 ◇ side ヴィオレッド


「お姉様の馬鹿ぁお姉様の馬鹿ぁ!」

「ご、ごめんて!」

「死んじゃうかと思ったよ!」

「で、でもほら、速い方が良いってニアちゃんも言ったじゃん!」

「そうだけどぉ限度があるでしょ!」


 3度目の飛行魔術で屋敷に帰ってきたわたしを、涙目のニアちゃんがポカポカと胸を叩いてくる。


 これでも着地に成功した方なんだよ。

 怪我だって……ニアちゃんを庇ってちょっと血まみれになったくらいだし。


「喧嘩してる場合じゃないですわ!」

「っ、そうでした!」


 目の前では暴徒化した領民の方々と、ロシュフォールの騎士が激しい交戦を繰り広げていた。


「……ニ、ニア……ぶ、無事だった……のか」


 掠れるような声に振り向く。

 声の主は、全身がボロ雑巾のように傷ついたアザールさんだった。


「お兄様、目が!?」


 ニアちゃんが、地面に倒れ伏す彼に駆け寄った。


「だ、大丈夫ですか!?」

「よ……よかった……本当に……うう」


 嗚咽を漏らし、兄が妹を震える手で抱きしめる。


「お前が……死んだんじゃないかって俺は不安で……」

「お姉様が助けてくれたんです。ニアは無事ですお兄様」

「……ヴィオレッドが?」

「はい」

 

 わたしに向けられた彼の片目に灯るのは後悔か、罪悪感か。

 叱られた幼子のように怯える瞳には、普段の強気なアザールさんの面影はどこにもなくて。


「そうか……俺が……間違ってたんだな。こ、こんなことを言う義理がねぇのはわかってる! でも、頼むヴィオレッド、この戦いを止めてくれ!」

「お姉様ぁ、どうかお願いします!」


 どういう経緯でここまで大きな戦いが起きてしまったのか、わたしはまだ理解できていない。けど、泣きじゃくりそうな目でわたしを見つめる兄妹を安心させてあげたいと思った。


「もちろんですわ! 全てわたしに任せて下さいまし!」


 一体どうすれば止められるかなんて、まるで分からない。

 正直、半ば破れかぶれでの宣言だ。


 元女子高生のわたしにこんなの、どうしろというのだ。

 でも、頼られたらやらなければならない。

 前世で何度もみた光景、親友の部屋のまえで立ち尽くした時のことを思い出す。

 もし、あの時、引きこもった彼女が助けを求めてくれたらって、どれだけ考えただろう。

 そしたらきっと、わたしは全てをなげうって、手を差し伸べることができたかもしれない。


 でも、訪れなかった。後悔だけが残った。

 しかしいま、わたしは友達に助けを求められている。

 何度も何度も想像した状況が目の前にある。


 なんのためにここまで強くなったのかを思い出せ。

 最初は、凌辱エンドを回避するためだった。

 けど、それでは足りないと思い知ったじゃないか。

 大切な人達を守るために、わたしは強くなったのだ。


 ぎゅっと目を瞑って気配を感じ取る。

 喉が枯れるような大声で、騎士団の皆に指示を出すお父様とお母様がいた。

 暴れる領民達をどうにか抑えようと奮闘する剣術道場の皆がいた。


 怒声が飛び交い、剣を打ち合う金属音が鳴り響いている。

 これじゃ、わたしが喧嘩を辞めてとお願いしても、誰も聞いてくれない。


 ガタンと騎士団の一人が倒れた気配がした。

 ビクっと痙攣したあと完全に動きが止まってしまう。

 死んだ、と遅れて脳が理解する。

 

 ゲーム世界の剣と魔法のファンタジーだし、いずれこういう場面に出くわすことは覚悟していたつもりだった。

 けど、前世と比べるとあまりに非現実的で残酷な光景に体が恐怖で震える。

 やっぱり、わたしなんかじゃ無理だよ……。


「お姉様、私がついてます」


 柔らかい感触が右手を包み込んだ。

 黒髪の少女がわたしの手を握っていた。

 ハッと意識が冴える。

 その手があまりにも心強くて、泣きそうになる。

 そうだ、弱音を吐いてる場合じゃない。

 失った者を嘆くより、いまは助けられる人のことだけを考えよう。

 皆を守るために、いま出来ることをするんだ。

 あとから、ああしておけばよかったと後悔はしたくないから。


「……ありがとうニアちゃん、勇気がでたよ!」

 

 止める方法は絶対にある!

 『試合終了の笛がなるまで、全力で!』

 それが我がバレー部のモットーだったじゃないか。


 攻撃して止めることは簡単だ。だけど、それじゃ駄目。

 この場にいる皆を、わたしは傷つけたくない。


 考えろ、考えろ。

 頭が焼き切れるくらいに悩んで、わたしは腰に差していたワンドを夜空に掲げた。

 解決の糸口はいつだって、過去の努力に隠れている。


 (お父さん、わたしを応援してね!)


 前世の河川敷で、お父さんと見た光景を思い出しながら叫ぶ!


「精霊さん達ぃ!」


 (……はーい)

 (……まかせて)

 

「ドンっとデカイのをお願いしますわ!」


 ワンドの先に百を超える超巨大な火球が出現する。

 ただのファイアーボールじゃない。

 赤、緑、青、黄色、色とりどりの燃え盛る火炎。

 ずっとこっそり練習してきたアレを見せる時だ。


「いっきますわよ!」


 ヒュ~ンと火球が夜を切り裂く音が連続で立ちのぼる。

 そして、鮮やかな色彩が夜に爆ぜた。

 ドンと胸の奥底から響かせる重低音が絶え間なく鳴り続ける。

 

 不意をつかれて、それを見た人は皆、無条件に空を仰ぐ。

 巨大な爆発音に全員が動きをとめて、夜空に咲いた眩い閃光が、彼らの顔を照らした。


 ニアちゃんがぽつりとこぼす。


「お姉様、綺麗です……」

「ええ、ずっとこの景色を皆と見たかったんですわ」


 わたしはニアちゃんと手を繋ぎ、夜空に打ちあがったスターマインを眺めた。


 この綺麗な景色を、親友だったあの子にも見せてあげたい。

 住んでいる世界は別々になってしまったけど、届けばいいなと願う。

 そしたら、あの時はごめんねって謝りたい。


 全ての花火が打ち終わり、皆が我に返る直前。

 わたしは叫んだ。


「皆さん、喧嘩はそこまでですわ!」


 ◇


 その光景を全員が眺めていた。

 幻想的な炎の花弁が咲き乱れ、白い煙が夜空に余韻を残す。

 ひらひらと舞い落ちる残火の下には、ワンドを掲げる一人の少女。


「皆さん、喧嘩をそこまでですわ!」


 全身傷だらけで、服は破れている。

 だが、その美しさは、さもすると先ほどの花の炎よりも可憐で目を奪われる。


「争いはやめてくださいまし、この戦いになんの意味がありましょう?」


 血みどろの戦場を睥睨し、訴えかける少女に多くの者が反応を示す。


「……ヴィオレッドだ」

「俺の天使ちゃんがやってくれた!」

「……またあんなにズタボロになってよ」


 剣術道場の門弟たちが口々に呟き……


「ああ、ヴィオレッド様」

「来てくれたのね」


 数人の領民たちがそうこぼした。

 

 誰もがその容姿に見惚れる。

 だが、やがて正気を取り戻した者が暴れ出す。


「貴様がロシュフォールの娘か!」

「この悪徳貴族が!」

「奴を捕まえて人質にするんだ!」


 絶好の好機と言わんばかりに、荒くれ者の男達が彼女に殺意を向ける。

 ビクンと震えるヴィオレッドであったが、それを一人の男が遮った。


「ハア、ハア、や……やめろ!」

「アザール!? そこをどけ、ソイツはロシュフォールだぞ!」


 片目から血を流し、息も荒く立ってるのも辛いだろうに、アザールはヴィオレッドに背を向けて立ちはだかる。


「みんな……すまない……おれが間違ってたんだ。ロシュフォールは妹を攫ってはいなかった」

「嘘だ、そんな証拠がどこにある? 奴らは血も涙もない冷血漢だ!」

「証拠ならここに……」


 ヴィオレッドの手を握りしめていたニアは、コクンとうなずいてアザールの隣に歩みを進めた。


「みなさん、私は無事です! だから、争いは辞めてください!」


 それを見た革命軍は目を見開く。

 ロシュフォールの騎士に攫われた少女がいたからだ。

 自責の念が籠った、いまにも消え入りそうな声でアザールが言った。


「……ヴィオレッドが妹を命がけで救出してきてくれた。騙されていたんだ……何者かが裏で糸を引いて俺達をロシュフォールに反旗を翻すように、仕向けた。ニアがそいつらの会話を聞いていたから間違いない」


 革命軍に動揺が走る。

 

「騙されただと……本当にあんな幼い子がアザールの妹を救ったのか?」


 アザールが片目となった瞳で仲間を見つめる。


「はあ、はあ……お前達の気持ちはわかるっ、たとえ仕組まれたものだとしても、ロシュフォールへの恨みがあることに変わりはねぇ」

「そ、そうだとも! 俺達がどれだけコイツらに苦しめられてきたことか!」

「……だが、ヴィオレッドは危険を顧みず、病気の妹のために薬草を取ってきてくれたんだ。今回だって命がけで助けてくれた!」


 アザールは最後の力を振り絞って訴えかけた。


「ロシュフォールを信用しろとは言わねえ、だがヴィオレッドなら信用できる! 頼む、最後にもう一度だけ俺を信じてくれないかっ」


 アザールは持っていた剣をカランと地面に投げた。

 ファドン剣術道場の門弟たちが、顔を合わせニヤニヤと笑う。


「なら俺もだ」

「ヴィオレッドは悪い子じゃねえからな」

「遅えんだよアザール」


 カラン、カラン、カランと剣が転がる。

 

「お、お前ら……すまねえ!」


 積み重なる(つるぎ)の山。

 それは、いつしか道場で見たあの光景と重なった。

 そして、門弟以外の者達も武器を置きはじめる。

 どうするか悩む者達も、やがてはその流れに乗って


「アザールがそこまで言うんなら……」


 気がつけばほとんどの者が武器を手放した。

 武器を手放さない者も残っていたが、彼等にもいますぐ交戦をする意思はないようであった。


 領主館前に積み上がる武器の山。 

 それは、ヴィオレッドが築き上げた信頼の証。

 騎士団に守られていたギヨームが力強い歩みで前に進む。


「領主様危険ですおさがりください!」

「よい、お前たちは負傷者の救助を頼む」

 

 護衛もつけずにギヨームは堂々とした態度でアザールに向かい合う。


「アザール・ロン」

「ギヨーム……様。この騒動は俺の責任だ。処罰は俺だけにしてくれ」

「……その心意気、受け取ったぞ」


 ギヨームが鞘から剣を引き抜いて頭上に掲げる。

 瞳を閉じて、アザールは穏やかな表情で運命に身をゆだねた。

 だが、その剣が振り降ろされることはなかった。


「聞けい、ロシュフォールの領民よ!」


 血の匂いが漂う、殺伐とした戦場。

 ライトブラウンの瞳に確固たる意志を灯らせてギヨームが宣言する。


「我々は過ちを犯してきた。許せとは言わない。だがどうか、時間をくれまいか。お前達のために働き、償うための時間を。約束する、この剣は皆を守るためだけに使うと。これが私の答えだ」


 ギヨームは折り重なる武器の山に剣を投げ捨てた。

 見届けた者達の答えは沈黙だ。

 信用はしていない。

 ただ、この場での停戦を受け入れて、今後のお前の行動で判断すると言っているようだった。


「アザール、やり直そう。これからロシュフォールは生まれ変わるのだ。どうか、私に協力してほしい」

「……ふんっ、俺が手を貸すのはヴィオレッドさ」

「そうか……ふふ、互いにあの子には高い授業料を払わされたな」

「……まったくだ」


 

 ◇ sideヴィオレッド



 わたしは、お父様とアザールさんに、思わず目尻に涙を溜めてしまう。

 ゲームでは決して手を取り合うことのなかった二人が、手を握り合っている。

 その事実に、頑張れば運命に逆らえるんだと知ることが出来た。


 (やっぱり、喧嘩をするより仲直りが一番だよ)

 

 正直、花火の後にどうやって場を収めようか、考えていなかったから良かった。

 バレー部の熱血顧問の言葉を引用して、あれこれ心に響くようなカッコいいセリフを必死に考えてたが必要なかったらしい。結局、アザールさんが全部解決しちゃった。


 わたしがやったことと言えば花火をあげただけ。

 まあ終わりよければ全部よしってね!

 むしろ、アザールさんが矢面に立ってくれたおかげで、必要以上に目立たずにすんだ。汚職まみれのお父様も、これに懲りて、もう悪いことはしないでいてくれたらいいな。


 ほっと息をついていると、騎士団の方から魔術の発動する気配を察知した。

 おいおい、どこの戦闘狂よ?

 

「せっかくの大団円を邪魔しないでくださいまし!」


 お仕置きのつもりで、ぴゅっと精霊魔術で岩石を飛ばしたら、その人はボロボロと土くれのように崩れ落ちちゃった!

 

 うええっ!?

 あれは一体なんだったんだろう?




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