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ロリっ子師匠との出会い

 『truelove fantasy erotic』はエロゲのくせに、恋愛ありバトルありの本格シナリオで泣けるという評価を受けて、シリーズ化した人気ゲーム。


 そして、派手なバトルは後半に進むほどインフレするわけで。

 シリーズ完結の三部作には、規格外な能力が数多くある。

 その中でも頭一つ抜けて強いのが精霊魔術。

 この魔術最大のチートは、精霊が魔法を肩代わりしてくれるので、魔力量が実質無限になること。


 魔力量は先天的な要素に左右される。

 原作のヴィオレッドは恵まれたフィジカルでゴリ押しする、生粋の近接職だから魔力が少ない。

 これだけは、原作知識をもってしても努力でカバーできないわたしの欠点。


 けれど、もしゲームでは主人公ちゃんしか会得できない精霊魔術をわたしが習得すれば……。

 オールレンジ最強の無双女が爆誕するってわけ!


 天才すぎんだろっ、わたし。

 ただし、それを取得するには、とある人に弟子入りする必要がある。

 両親に頼んで捜索してもらい、いまかいまかと待ち焦がれて半年、ついに、その瞬間がやってきたのだ!



 ロシュフォール家の屋敷の応接間。

 緑色が綺麗な髪を、三つ編みでまとめた女性が、非常にやる気のない表情でわたしを見下ろしている。

 いかにもロリっぽい雰囲気だけれど、これでもとっくに成人している。

 身の丈もある杖を持つ彼女の名前はウィン・ベッカー。

 ゲームの世界だけあって、うっとりするほど美形だ。


「はあ、憂鬱です。どうせまたろくでもないボンボンの貴族、教えるだけ無駄なのに……」


 わたしを見つめて、だらりと肩を落とした彼女。

 そのやる気のなさ。 

 ダウナーな表情……


 (うわぁぁ、本物のウィン・ベッカーだ!)


 ゲームキャラに会えるとか、最高かよ。

 しかも、女性キャラでは主人公ちゃんの次にお気に入りだったとあれば、感慨もひとしお。


「たしか、名前はヴィオレッド・ロシュフォールでしたっけ」

「はい、宜しくお願いしますわ!」

「……期待はしてません」


 そんな辛辣な言葉もたまらない。

 一見すると性格の悪い人にしか見えないけれど、そこには彼女の複雑な事情が絡んでいる。

 というのも、精霊魔術は彼女が、日夜研究に勤しみ編み出した新しい魔術の形。

 しかし、その性質上、《《ある条件》》をみたした者にしか扱えない。

 そして、適合者は主人公ちゃんが登場するまで現れないのだ。

 その結果、精霊魔術なんて存在せず、ウィン・ベッカーはペテン師であると烙印を押されて、その日暮らしも厳しい生活を余儀なくされている。


 謂れのない誹謗中傷で彼女の心はすさみ、

 いつしか他人に期待を持つのをやめた。


 その事実を知っているから、わたしは彼女の態度を受け入れられる。

 しかし、もちろんそうでない人達もいる訳で……



「我が愛娘なら特殊な魔術だろうと片手間にマスターするだろう」


「オーホッホッホ、ヴィオレッドちゃんは天才だから一瞬よ」


 能天気なその声に振り返ると、イケメンのナイスガイと、桃色の縦ロールが似合う超絶美人が微笑んでいた。

 ふたりはこの世界の、わたしの両親。

 そして、注釈を付け加えるなら……超がつく親バカだ。


「わっ!?」


 ギヨームお父様が背後からわたしを持ち上げてほっぺをすりすりしてくる。


「ああ、俺のヴィオレッドちゃん今日も可愛いでちゅねぇ」

「おひげが痛いですわ……」


 扇子を口に押し当てたソフィーお母様が、高らかに笑う。


「オホホ、可愛いだけじゃなくて魔法の才もあるなんて、全能を司る神の生まれ変わりかしらね。けれど、魔術なんてあぶないことはせずに、もっと女の子らしい遊びがいいんじゃないかしら?」

「ぐぬぬ……お願いですから、わたしを甘やかさないでくださいまし!」


 この二人は、わたしが怪我をするのを心配して、あの手この手で修行をやめさせようとしてくるのだ。

 この半年、一人で魔術の訓練をするのにどれだけ横槍を入れられたことか。


 ほれみろ、ウィン先生も呆れた目で「へっ」と笑っているぞ。


「いるんですよね、自分の子供だからってなんでもできると考える人。こんな両親に育てられたら子供が増長するのも無理ありませんね。そんな甘ちゃんが会得できたら、お尻にヴィオレッドとタトゥーを入れて、王都のメインストリートをパンツ一丁で歩いてやりますよ」


 小声で心の声が駄々洩れているー!

 お父様たちに聞こえていたら処されるよウィン先生……。


 体を捩ってお父様のハグから逃れたわたしは、ぽんぽんとスカートの裾を正して、彼女に向き直り、手を差し出した。


「これからよろしくお願いしますわ!」


 ちらりとわたしの手を見た彼女は、戸惑ったように眉を寄せる。


「な、なんですか」


「わたしは、ずっとあなた様にお会いしたいと思っておりましたので!」


「そうですか?」


「ファンです、握手してください!」


「……ファン、ファンって……」


「一人で魔術を開発したウィン先生を尊敬しておりますの。天才ですわね」


「天才……あなたは私を信じてくれるのですか?」


「努力家の先生を疑ったりしませんわ!」


「そ、そうですか」


 ぽっと頬を赤らめた彼女が、そっと手を握り返してくる。

 そして杖で地面を叩き、ツンと鼻をあげて、そっぽを向いた。


「無理だとは思いますけど、まぁ弟子として迎えてあげなくもないです。では、これから貴女に精霊魔術を伝授します」




 お屋敷裏手の雑木林、二人っきりでウィン先生の講義を受ける。

 今は冬。一面雪景色だ。


「精霊魔術とは、術者の代行者として精霊が魔術を行使してくれるというものです。精霊は魔力の化身であり、魔力は空気中に漂う自然魔力を使うので実質無限、さらには無詠唱魔術とまさに規格外の存在なんです」


「精霊さんって何でも出来て凄いんですわね」


「そう単純な話ではありません。彼らに魔力量の制限はないけど、一度に扱える魔力量は大精霊でもない限り微々たるものです」


 精霊魔術のキモは、どれだけ多くの精霊を呼び出し、適切な指示を出せるか。当然、複雑で規模の大きい魔術になるほど難易度は高くなる。


「先生は精霊さんとお喋りできるんですの?」


 ウィン先生が残念そうに首を横に振った。


「精霊との会話は、自然界にある魔力を介した念話で行います。『イエスかノー』くらいなら、なんとなく聞き取れますが自然魔力は扱いが難しくて、私ではまだ無理です……そして、ここから一番大切なところです」


 杖を地面に突いたウィン先生の瞳が曇る。


「精霊魔術は、《《精霊を見れる人》》にしか使えません。彼らは自分を信じる者にしか姿を見せない。人は大人になるにつれて、経験で物事を判断するようになります。見たこともない精霊を信じられるのは、素直な子供時代だけでしょう」


 静かな雑木林に、ウィン先生の重たいため息がこぼれる。

 そう、これこそが彼女がペテン師よばわりされた最大の理由。

 精霊を感じ取れるのは、心からその存在を信じて、具体的なイメージを思い浮かべられる人だけ。

 この難しさを前世の感覚で例えるなら、こう想像すると分かりやすいかもしれない。

 本気でドラゴンがいると信じ、彼らがビルの合間を縫って飛んでいる情景を、リアリティーをもって思い浮かべることができるか。


 大抵の人は必死に想像しようとしても、頭の片隅でどこかファンタジーさを感じてしまうだろう。

 実際に見たことがないのを想像することはできても、現実と寸分たがわず受け入れることは不可能だ。


 けれど、わたしは笑顔で胸をとんと叩いた。


「任せて下さい!」


「そうですか。では期待しますね」


 毛先ほども感情が籠ってない声でウィン先生が杖を掲げる。


「別に言葉にする必要はないのですが、分かりやすいので口に出してやります。では……」


 ≪精霊よ私に姿をみせてください≫


 目を瞑り、祈るように両手で杖を持ったウィン先生がつぶやく。


「ふう、三つか。どうやら今日は調子が良いみたいですね。私がよびだせる最大数の精霊が集まってくれました。精霊の存在を感じている時にだけ、自然界にあふれる魔力に干渉できます。もし見えているなら下級魔術程度なら発動できるでしょうからやってみてください……まあ、どうせ見える訳ないですけど……ボソ」


「はいですわ!」


 おお~緊張するなぁ。

 ゴクリと唾を飲んで、とりあえずわたしは先生の真似をしてみた。




 ≪精霊よわたしに姿をお見せになって!≫





 ―――そうささやいた瞬間





 冷たいそよ風が吹いてひんやりと頬を撫でる。葉が枯れ落ちた雑木林の枝がざあざあと揺れた。無数の気配が湧き上がり、荘厳な光が視界を埋め尽くす。


「わあ、綺麗!」


「……嘘」


 そこには、数えるのも馬鹿らしくなるほどの精霊たちがふわふわと楽しそうに飛び交っていた。


「どうなっているの!?ありえない」


 ガクガクブルブルと足を振るわせてウィン先生が雪の上に尻もちをつく。


「え、なんで?私だって3つが限界なのに。初めての子がそんなぁ!?」


 ウィン先生の唇の端が痙攣してる。


 (ふっふっふ、作戦成功!)


 ぶっちゃけこれにはからくりがある。

 ウィン先生は精霊を信じる力がなにより大切と言っていたけれど、精霊魔術の可能性を一番信じているのはわたしなのだ。


 精霊の存在?

 んなのいるに決まってんじゃ~ん。だって、わたしは……


 (ゲームで既にプレイ済みですもの!)


 この世界に精霊がいることは最初から知っている。

 ゲームで何度もその姿を見ている。

 そして、彼女が目の前で実際に精霊を見せてくれたおかげで、具体的なイメージもついた。



「じゃあ早速魔術を使ってみますね!」


 初めての精霊魔術、ドキドキするなぁ。

 るんるんとワンドを振りながら、なにをしようか考える。


「まっ、待って!」


「決めましたわ!いっきますわよー精霊さん達ぃ!特大のファイヤーボールをお願いしますわ!」


「制御もできないのに、こんな数の精霊で魔術を発動したらぁぁぁぁ!」


「え?」


「マジックシールド!」


 ウィン先生が覆いかぶさってくる。ほどほどなお胸の柔らかい感覚につつまれる。あ、いい匂いする~と現実逃避しながら、想像の100倍にまで膨らんだ火球が雑木林に降り注ぐのを眺めた。


 その火球はわたしたちを巻き込んで大爆発した。






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