なんか好感度が爆上がりしてる!?
翌日のフォドン流剣術道場には異様な空気が流れていた。
わたしが剣を振ると、栗頭のエノキさんはうんうんとうなずく。
「良い素振りだよ。でも、もうちょっと踏み込みを深くした方がいいかな?」
「こ、こうですか?」
言われた通りにすると隣に控えていたサビローさんがパチパチと手を叩く。
「指摘されてすぐに修正できるなんてヴィオレッドは偉いなぁ」
「はぁ」
生ぬるい誉め言葉にあいまいな返事をする。
やっぱり変だ。
これまで直接指導なんて一度もしてこなかったくせに、気でも触れたのだろうか?
わたしたちを他の兄弟子達がギリギリと睨みつけてくる。
「ちくしょうアイツらうらやましいぜ……」
「当番の日が待ち遠しい」
なにを言ってるか聞き取れないが、妙に熱の籠った眼差し。
舐めるような視線で、背筋にゾクッとおぞ気が走る。
こんな時はウィン先生の背中が恋しくなるけれど、彼女はわたしだけ精霊の声が聞けるのズルイと拗ねて、送り迎えの時間以外は一人で精霊魔術の修行をしている。
ま、まあ、最初の敵意剥き出しです、みたいな態度よりはやり易いけどさ。
あんなに怖かった彼等が、もう近所の気の良いオジサンにしかみえなくなってきちゃった。
すると、眉間にシワを寄せて激怒している師範のガリル・ロンさんが吠えた。
「テメエら、ヴィオレッドばかり構うんじゃねえ、もっと真剣にやらんかっ!」
叱られて慌てて木刀を握り直す兄弟子たち。
呆れたガリル師匠が不機嫌そうに鼻をならす。
「もういいっ、一対一の模擬戦だ。ペアをつくって全力で打ち込めっ! ぬるいことしたら許さねえぞ!」
模擬戦が始まった。
試合の最中だというのに兄弟子たちはわたしのことをチラチラみてくる。
なんだか全員、動きがダイナミックだ。
一歩引けば避けれそうな攻撃を「ハアッ!」とバク転で避けたり、「隙ありっ!」と言いながらカッコよく飛び上がって剣を振るう姿はまるで忍者。
これが……フォドン流剣術!
「おまえらぁぁ無駄な動きしてねえで真剣にやれぇぇぇ!」
ガリルさんが木刀でバク転した人の鼻っ面を木刀で殴って、ずべしゃーっと床に転がした。
いや、ふざけてたんかい!
「この腑抜けどもがぁ、外を走って頭を冷やしてこい、ヴィオレッド以外全員だ!」
「「「……はい」」」
ドタドタと慌ただしく外に駆け出していく厳つい体躯の兄弟子たち。
なにがなんだかわからなくてガリル師範に質問した。
「あ、あの皆さんどうしたのでしょう? 様子がおかしいですわ!」
彼は大きな溜息をついて疲れた声で呟く。
「はぁ……わだかまりが解けたらとは思っていたが……まさかこうなるとは想像できんだろ……」
◇ sideアザール
「ふざけやがって!」
息を切らして、全力で走る。
あの女が来てから道場はおかしくなってしまった。
昨夜の話し合いで、仲間が革命から降りると言った時は耳を疑った。
(俺達が行動に移さなければ、被害者が生まれるんだぞ!?)
お前達の気持ちはその程度だったのかと怒りが湧いてくる。
俺の母親はロシュフォールのせいで死んだ。
盗賊に襲われて、あっけなくだ。
ヴィオレッドだって、どうせ中身はどす黒い貴族。腹の内では俺達を馬鹿にしてるに決まってる。
俺は認めない。
必ず、母さんの仇を討つ。
(それだけじゃねえ、あの子のためにも変えなきゃいけないんだ……)
俺には大切な妹がいる。
だれよりも優しくて、目に入れても痛くない可愛い自慢の妹。
彼女を救うために……俺は革命をやり遂げなければならない。
すると、数名の同門が俺に並走してきた。
入門して日の浅い新人のエノーが口を開く。
「安心しろ。俺達はアザールの味方だ。計画は予定通りに」
「……ああ絶対に革命を成功させるぞ!」
◇side ヴィオレッド
皆が道場の外を走らされてる頃、わたしはガリル師範の直接指導で素振りをしていた。
「お前は筋がいい。強くなるには数年を要するだろうが、地道に鍛錬を積めばものになるだろう」
「はいっですわぁ!」
ただひたすらに、剣の型をこなしていく。
剣術に近道はない。
魔術は半ばズルをして一足飛びで強くなったけれど、剣術はそうもいかない。
特殊な修行を積めば一瞬で強くなるみたいなシステムはゲームにはなかった。
だから、地道に訓練あるのみ。
一応、精霊魔術を使えば強くみせることはできなくもない。たとえば、打ち込み時に風魔術を応用して剣速をあげてみたり、斬撃を魔術で飛ばすことも可能かもしれない。気配察知を活用すれば、目を瞑っても背後からの攻撃にカウンターを放てる。
でも、それじゃ剣の技術が上達したとはいえないよね。
基礎がしっかりしてるからこそ、応用した時に力を発揮する。
だから真剣に学ぶ。
待ち受けるバッドエンドを回避するには対策に対策を重ねて損はない。
剣術の訓練で魔術は禁止。
気配察知も使わない。
関係ない力で勝っても、真剣に剣術を練習する皆に失礼だ。
こうしてみると剣は奥が深いなと思う。
振り方ひとつにも、腰の動き、踏み込みの距離、体の動かし方に色んな技術がいる。
動作確認で同じ行動を繰り返す。
地味な練習だ。
でも、ふとした瞬間に体がバッチリ動きにあって、鋭い一撃を出せることがある。
そうすると、僅かな進歩が感じられて楽しくなってしまう。
100回に1度のペースで同じ動きが出来たら、次は50回に1度、10回に1度というふうに精度をあげる。
頭の中で理想の剣を振る自分を想像して、体を使って体現する。
型の訓練をこなすことで、理想と現実の隙間を埋めていく。
うふふ、こういうのもいいじゃないか。
魔術と違って、見栄えに欠ける地味な努力。
うんうん、大変結構だ。
わかりやすい成果が中々出ないからこそ、それを実感した時の喜びが増すというもの。それにゲームのヴィオレッドはゴリゴリの近接職だから身体能力は高い。
でも、一つだけ文句がある。
それは美少女成分が足りてないこと。
ウィン先生ったら、わたしをそっちのけで修行に打ち込んでいるので、毎日むさ苦しい男に囲まれて息が詰まっちゃいそう。
(今度ご褒美に一緒にお風呂はいって遊ぶかな!)
先生もよろこんでくれるよね。
そんなことを考えていた時だった。
道場の入り口に、ピョコンと顔だけを出す小さな黒髪美少女が!
彼女はその真ん丸な黒真珠の瞳をわたしに向けて、猫なで声で言った。
「キャッーーーー!! お、おとうさま! そちらの可憐なお天使様はどなたですかぁ!?」
なにこの子きゃわいいいいいい!?




