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いざ、剣の道へ!

 シャルル殿下がようやく帰った!

 滞在すること数日、何度もわたしとの面会を求めてきたけど、当然拒絶。

 

 ドア越しに会話をしてた時は、この子ちょろいわ! 

 と、油断していたせいで、気絶した。

 ぐぬぬっ……わたしとしたことがなんたる不覚!

 彼の顔を見たら、走馬灯のようにエッチなバッドエンドの数々が流星のごとき速さで脳裏に流れてしまった。


 改めて思う、やはり男は百害あって一利なし。

 わたしには女(友達)さえいればいい!


「ねっ、ウィン先生?」

「何が「ね」かは分かりませんが……」


 ベッドの上でもたれかかると、目を泳がす彼女。

 ずっと孤独に精霊魔術の研究に明け暮れていたせいなのか、ウィン先生はスキンシップがすこし恥ずかしいらしい。

 ぐふふ、恥じらうその顔もまた、なんと可愛らしいことか!

 

「先生はどこかの男にほいほい付いていって、わたしの前からいなくなりませんわよね?」

「……っ、ヴィオレッド。あのですね、この際言っておきますが、私は貴方と違って女の子同士では……まあ、そういう人もいるのは理解してますけど……」

「うん?」

「いえ、やっぱり何でもないです。忘れてください」

「はぁ」


 何を言おうとしたんだろう?

 まぁ、ウィン先生がゲームでは彼氏つくらないのは知っているし、そうそういなくなることはないよね。


 さて、それはそうとして。

 転んだらただでは起きないと定評のあるわたしだが、今回のことで学びを得た。

 それは…… わたし、男の人苦手すぎぃぃぃぃぃ!

 こんなんじゃ、いざ異性と対峙したら、惨敗確定じゃん。

 

 それはいけない、あくまでわたしが目指すのは自分の貞操を守れる強い女。

 ということで、わたしはギヨームお父様に領内の剣術道場に通えないか交渉してみた。


「剣術か……もちろんあるぞ! フォドン流剣術道場というのがあってだな、小さな道場だが腕は悪くないと聞く」


「是非通いたいですわ!」


「いいだろう。俺の方から通達しておくよ」


「ありがとうですわー!」


 接近戦の訓練ついでに、モブ男達で異性への耐性をつけようっていう一石二鳥の寸算よ。

 冴えわたる自分の頭脳が怖すぎる。

 

 そういえば、なんだか最近はお父様がわたしの修行に寛容になった気がするけど、どういう風の吹き回しなのかな?

 

 (都合が良いし、どうでもいっか!)


 どうせ汚職とわたしを愛でることしか考えてないダンディーな愚か者だし。

 いざとなったら助けてあげるためにも、わたしが強くならなくちゃ!

 それにしてもフォドン流剣術道場か……なんか聞いたことがある気がするんだけど……うーん、気のせいよね?



 ◇



「革命だ」


 ロシュフォール領に拠点を置くフォドン流剣術道場にて、物騒な言葉が飛び交っていた。数十人の男達がぎゅうぎゅうと身を寄せる道場を独特の熱気が支配する。

 

 黒髪短髪の男が革命と口にしただけで、フォドン流剣術の門下生達が覚悟の決まった眼差しで頷く。


 その様子を眺めていた初老の剣士、剣術師範——ガリル・ロンが首を振った。


「ならぬ、まだその時ではない」


 どうしてだ親父! ロシュフォールの奴らは俺たち平民のことを、どうとも思っちゃいない! 母さんが盗賊に殺されたのもアイツらが血税を治安維持にまわさねぇで私腹をこやしたせいだ!」


 ガリル・ロンに噛みついたのは、革命と叫んだガリルの息子アザール・ロン。


「革命を最初に言い出したのは親父じゃねーか! 道場の奴等は全員覚悟が出来ている。なあ、そうだろお前達!」

 

 アザールが拳を振り上げると、「おお!」と男達の野太い声があがる。


 (はあ、どうしたものか)

 

 ガリルは重いため息を吐いた。

 誰もが息子のようにかわいがってきた子供たちだ。

 無駄死になんてさせられない。


 (それだけ、ロシュフォール家の政策に不満を抱えているってことだ)


 ロシュフォール家を潰す。

 それに賛成しているのはこの場にいる者だけではない。

 大勢の領民が息を潜めながら弟子達に協力し、虎視眈々と期を見計らっている。


 革命を最初に掲げたのはガリルだ。

 ただ予想外だったのは弟子達の熱意がガリルの手を離れて、燃えあがってしまったこと。


 (もう俺には止められそうにもない)


 いまは勝ち目がでてくるまで力を蓄えるべきだ。

 しかし、若い彼らの怒りの限界はすぐそこまで迫っている。

 そして、ガリルが革命に反対するのに、もうひとつ理由があった。


「落ち着け、お前達。最近のロシュフォール家は変わり始めている。以前よりも食料や薬が手に入りやすくなっているのは、お前らも知るところであろう」


「どうせ一時の貴族共の戯れだ。これまでの行動を考えれば信用に値しない」


 冷たくアザールがそう言い捨てる。


 (……やはりそうなるか。ならば、一か八かの賭けに出るほかあるまい。ロシュフォールのケツはテメエらで拭かせる)


 ガリルは弟子達に伝える。


「ギヨーム・ロシュフォール侯爵から俺に手紙が届いた。娘のヴィオレッドに剣術を教えてやってほしいのだとさ。俺はこれを引き受けることにした」


 その発言に全員が驚愕する。


「親父、なぜそんな馬鹿なことを引き受けた!」


「ウチは剣術道場だ。お偉いさんが頭を下げて剣を学びたいなら拒みはしねえ。いいかテメエ達、女子供に手をだすようなクズは俺が許さねえ。妹弟子として迎えてやれ」


 不服そうな視線の集中砲火を浴びて、ガリルは『そりゃそうだろうな』とうなずく。


 だが、和解の道が残されているとすれば、これからやってくるヴィオレッドという少女と彼らが歩み寄れる、そんな関係を築くしかないだろう。


 すると、門弟の一人がニヤニヤと笑う。


「おい、女だからってほだされるんじゃねーぞ」


 その瞬間、どかっと笑い声が上がった。


「ば、馬鹿お前。ヴィオレッドつったら、性格最悪の子豚令嬢っていうじゃねーか」

「そんな奴にどうやったら気を許すってんだよ、勘弁してくれ。仮に奇跡が起きて絶世の美女だったとしても、根性なしのボンボンなんざ興味ねーぜ」


 腹を抱えて笑う弟子たちに、ガリルはヴィオレッドに期待するだけ無駄かもなと思うのだった。


 一方、騒がしい道場の外側の壁に張り付いて、聞き耳をたてる小さな女の子がいた。

 彼女はぷっくらとした唇の隙間から小声でささやく。


「……ヴィオレッド・ロシュフォール、貴族の悪い人」


 話し合いは終わったのか、道場からは帰り支度をする音が聞こえてくる。

 少女は急いで身を翻して、その場から逃げだした。





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