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幕間ーメインキャラとの出会い~sideシャルル殿下①

「俺のヴィオレッドちゃん。殿下に失礼だよ?」


「良い子だからお部屋からでておいでなさい、お菓子もたっぷり用意しておりますわ」


「嫌ですわぁ!」


 ドア越しに聞こえるお父様とお母様の声に耳を塞ぐ。

 我が家にシャルル殿下がやってきて数時間。

 わたしは部屋に引きこもっていた。


 ドアの向こう側から申し訳なさそうな少年の柔らかい声が聞こえてくる。


「ヴィオレッド嬢、ドアを開けて貰えないでしょうか?」


「ひぃぃぃ!」


 メインキャラ・シャルル殿下の生CV(キャラボイス)!!!

 記憶よりも遥かに幼く可愛らしいお声は、前世のわたしならちょっと興奮したかもしれないけど、いまでは悪魔のささやきのよう。


「僕は貴方になにかをしてしまったのでしょうか?もし、不手際があったのなら謝らせてください」


「け、結構ですわ!シャルル殿下にお会いしたくありません!」


 男の人ってだけで怖いのに、シャルル殿下と会ったら卒倒するって。


「……そうですか、無理を言って申し訳ございません」


 ようやく扉の前から人の気配が消えて、ほっと息をつく。


「はあ、はあ、うぅ緊張したぁ」


 少しでも気分を紛らわせたくて、わたしはベッドにダイブした。そして、枕元に置いてある本を手に取る。

 本のタイトルは『ハロルドと高貴な姫』。

 娯楽の少ないこの世界では貴重な恋愛小説だが……


「うぅ、全然頭に入ってこないよぉ」


 シャルル殿下が頭から離れない。

 彼は主人公ヒロインと一緒に行動をするハーレムの中心人物。直接エッチなことをしてこないけど、主人公ちゃんと結託して、あらゆるルートでヴィオレッドを凌辱エンドに導いていく。


 ゲームのヴィオレッドは殿下に片想いをしている。

 それで彼と仲の良い主人公ちゃんに嫉妬して、お邪魔虫になるのだ。


「恋なんてわたしにはわかんないもん」


 前世で誰かを好きになることはなかった。

 だから、この世界でも彼に自分から関わらなければ、一生会話をすることはないと思っていたのに。

 まさかこんな幼い時から接点があったなんて。


 そこでわたしはハッと気が付く。


「って、わたしったら王族になんて口を!」


 シナリオが始まったら影の薄いモブとして振舞うつもりなのに、ここで目立っちゃ本末転倒にもほどがある。


「はやくごめんなさいをして、イメージの回復を図らないと。でもどうやって?」


 きらりんと、わたしの脳内で黄金の煌めきが灯った!


「そうよっ、こういう時のために原作知識があるんじゃない!」


 原作の殿下は学園でヒロインに出会うまで、とある悩みを抱えていた。

 ヒロインとの会話でそのストレスを和らげるのだが……ずばり、それをわたしが真似ればいい!

 落ち込んでいる時に、励まされると心を許してしまうのが人間さ。


「おいおい、天才かよわたし」


 純粋無垢で超絶可愛いヒロインがやれば好感度は爆上がりだろうけど、わたし程度なら効果はたかが知れてるだろうし、マイナスがゼロ付近になるだけ。


「うふふ、さっそく謝罪にいきましょう! 元JKの大人の余裕ってやつを見せつけてやりますわ!」



 ……で、でも直接会うのは怖いから声を掛けるのはドア越しにしておきましょうか。



 ◇sideシャルル殿下


「手痛く袖にされてしまったな、はあ」


 僕——シャルル・エティエンヌ・ド・ヴェルサイムは、ヴェルサイム王国の第二王子だ。

 ロシュフォール侯爵家との繋がりを強めるために、一人娘のヴィオレッド嬢と同年齢の僕が遣わされたのだが……


「どうやらお気に召さなかったらしい。僕はなにをしてしまったのだろう?」


 彼女との会話を思い出して、自嘲じみた息がこぼれてしまう。


「シャルル殿下には会いたくないか……彼女に遠慮がないだけで、本当は皆そう思っているのだろうな。そういう意味では彼女くらいか。僕を王族として扱わなかったのは」


 コン……コン……コン。


「ん?」

 

 客室のドアから遠慮がちなノックが鳴る。


「どうぞ」


 しかし、扉が開くことはなかった。

 仕方なく僕がドアに近づくと震えた彼女の声が耳に届く。


「シ、シャルル殿下……わたしです。ヴィオレッドです」


「ヴィオレッド嬢、どうしたんだい?」


「さきほどは申し訳ございませんでした。きちんと謝りたくて……初対面の人に会うのが恥ずかしかったのです」


「なるほど、そういうことでしたか。僕は気にしてませんよ。さあ、部屋に入ってゆっくりお話ししましょう」


「いえっこのままドア越しでお願いいたしますわ!」


「どうして扉を開けてはいけないんですか?」


「それは……わたしみたいなのが殿下の視界を汚さないための配慮でございます!」


「そんな配慮聞いたことがないよ……」


 埒が明けなそうなので、強引に扉を開けようとして、思いとどまる。

 そういえば、ヴィオレッド嬢は不摂生でぶくぶくと太った子豚令嬢などと揶揄(やゆ)されている。

 言い方は悪いけれど、自分の容姿に自信がなくて会うのが恥ずかしいのかもしれない。

 心のない陰口に彼女は傷ついているのだろう。


 (そんな無神経な奴らのことなんて気にしなくていいのに……でも、そういうことなら無理矢理顔を合わせるのは遠慮するべきか)


「わかりましたこのまま話を続けましょう」


 ドア越しにほっと息を漏らす音が聞こえた。


「寛大なお心に感謝いたしますわ。それでお詫びと言ってはなんですが、お悩み相談などはいかがでしょう?」


「……悩みですか?」


「ずいぶんお顔色が悪いようでしたので心配になりまして」


「まだ僕達は顔も合わせてないのにいつ気がついたんだい?」


「!? ぐ、偶然シャルル殿下が家にいらっしゃる時に窓から覗かせていただきました」


「そうですか」


 人前では笑顔をつくることを意識していたけれど、顔に出てしまっていたのだろうか?

 

「僕は王族だ。人に弱みなんてみせられないよ」


「誰かに心の毒を吐き出すと、楽になることもあると思います」


 ……誰かに本音をぶつける。

 そんなこと考えたこともなかった。だって、僕が抱えてるものは卑しいものだから。

 扉の前で彼女が優しく告げる。


「こういうのはいかがでしょう。いまから3分だけ、わたしはロシュフォールの名を捨ててただのヴィオレッドになりますわ。だから殿下も王族ではなくただのシャルル君として接してくださいまし」


「……そんなのいいのかな?」


「はい、他に人はおりませんから」


「ふふっ、つまり僕達はたった3分だけの友達になるということですね?」


 ……おかしなことを言う子だ、思わずクスっと笑ってしまう。


「そうですね、友にならば……僕の悩みを打ち明けても問題ないのかもしれません。僕には優秀な兄がいるんです。誰からも慕われる凄い人で、いずれ王位を継承するでしょう。周囲は僕に敬意を払う振りをしますが、その裏で兄に比べて弟は……と皆が僕を嘲笑っているのを知っているんです」


「それは大変ですわねぇ~」 


「はい、兄と比べられることが怖いんです。そして僕は情けなく誰かに認められたいと思っている……本当の僕はこんな意地汚い男なのです。どうです幻滅しましたか?」


「いいえ、わたしはむしろシャルル君のことが好きになりましたわ」


「……えっ……ど、どうして」


「その感情はきっと、貴方が必死にもがき、努力してきたからこそ生まれた葛藤じゃないでしょうか?偉大な兄と比べられて努力を辞めましたか?もしそうであったならそこまで強い感情は芽生えないはずです」


「……」


「強い悔しさは努力の裏返し。これだけは忘れないでください。これまで感じた苦しみ、悩み、もがいた時間こそがあなたを強くするのです……これはバレー部の顧問の受け売りですけどゴニョゴニョ」


 後半は何を言ってるか聞き取れなかったけれど、その言葉は熱い鉄を金床で打ち据えるように、僕の心を高鳴らせた。


「……ヴィオレッド」


「わたしはですね。王太子殿下ではなく、シャルル殿下こそがいずれこの国を救う英雄になると期待しているんですよ?」


「……あなたの期待に応えられる人になれるのでしょうか」


「努力を続けていればきっと」


 ひだまりのような彼女の優しさに、僕は泣きそうになった。

 彼女の期待に応えられる人でありたいと思った。


「ありがとうございます。目が覚めました。ヴィオレッドのおかげです」


「いえいえ……シャッ!」


 人生で感じたことのない感情が熱を伴って溢れてくる。

 これが友情というやつなのか。


「あの、3分と言わず僕と友達になってくれないだろうか?」


「ぐぇっ!?あ、あの延長は受け付けてませんわ!」


「ここまで本音で語り合った仲じゃないか!」


 ふと、僕は彼女の姿を見たいと思った。

 初めての友達だもの。顔も知らないというのは寂しすぎる。

 彼女は油断してたのか、ドアノブに手を掛けるとあっさりと回った。


「いけません殿下、わたしに姿を見せてはっ!」


「ふふ、悪いけどそういうわけにはいかないぞ、ヴィオレッド」


 安心してくれ。友人の容姿がどうであれ、僕は態度を変えたりはしないから。

 そして、扉をあけるとそこには……



 ——天使がいた。


「「……」」


 静寂が訪れる。

 虚ろだった僕の灰色な世界に桃色の花弁が舞う。

 白くてなめらかな彼女の肌が、僕の心みたいにじわじわと赤く染まっていく。

 ピンクブロンドの瞳がぐるぐる回り……


「ピギャ」


 彼女は気絶してしまった。

 慌てて倒れる前に咄嗟に抱きかかえる。

 彼女の髪がふさぁと天使の羽のように広がった。


「……」


 友人の容姿がどうであれ、僕は態度を変えたりはしない?

 前言撤回。

 やっぱり難しいかもしれない。






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