76話 兎
「逃げた......か」
ウルファンとサロイが消えたのを確認したカナンは一息ついて剣を収めた。
「もう大丈夫ってことかな......」
「どうだろ。あのケモ耳男は転送魔術を使える。またいつ現れて襲われるかは分からないから出来れば仕留めておきたかったんだけど」
「......そっか。クロウドくんが入れば倒せたのかな」
ルナがふとポツリと呟く。その呟きは無意識に出たもので誰に聞かせようというものではなかったものだが、カナンはそれを聞き逃さなかった。
「ルナちゃん今なんて!?」
やべっ!とルナは口を閉じて一回考える。
(ついクロウドくんの名前出しちゃったけど......多分信用できる人だし別にいいかな。少なくとも透明男やさっきの奴らの仲間では無さそうだし)
そんなルナの思考を遮るようにカナンが言葉を続ける。
「はぐれたルナちゃんの仲間ってクロウドのなの!?」
カナンが驚愕したように聞き、ルナもその発言に驚愕する。
「クロウドくんのこと知ってるの!?」
「知ってるも何もないわよ。私たちが探しに来たのはそのクロウドなのよ!」
「えー!」
2人は各々クロウドの特徴を確かめあう。金髪、ナイフを2本持っている、煙出せる。あらゆる特徴が一致する。これで2人は自分達は同じクロウドを探していたのだと確信した。
「じゃあ私の仲間とクロウドを探し出せたら持ってる転送石で帰ることができるわね」
「転送石あるの!?」
その言葉を聞いてルナは感激した。あれほどまでの絶望的だった生還が突然現実的なものとして手を伸ばせば届くところに出現したからだ。
「でもどうやって探そう。この層たださえ入り組んでるのに定期的に地形が変わるみたいだから見つかる気がしないよ」
「それは、もうそろそろだと思うんだけど」
カナンはそう言って周囲を見回す。その姿は何かを待っているようだ。
そしてそれは来た。
廊下の先、曲がり角から1匹の兎が顔を出す。それを見たルナがパッと笑顔になる。
「カワイイ!モンスター?」
ルナはその兎に駆け寄るのを堪えて臨戦態勢をとる。そんなルナを横目にカナンが兎に寄ってその頭を撫でた。
「大丈夫よ。この子は召喚獣の一種。私の仲間が捜索のために出したものでしょう」
ダンジョンの攻略をしていると索敵やアイテムの捜索をする必要がある時がある。そういう時はいつもダルトがこのウサギの召喚獣を大量に出して捜索をしているのだ。見慣れた光景だったのでカナンは今回もダルトは兎を出して捜索するだろうと確信していた。
兎はカナンの姿を確認するとUターンしてついていけるぐらいのスピードで移動は始める。
「どっか行っちゃうよ?」
「仲間のところに案内してくれてるの。ついていきましょ」
この兎は主であるダルトの元へ向かう。それに着いていけば無事合流できるというわけだ。
「ルナちゃん休憩しなくて大丈夫?」
「全然いけるよ」
こうして2人は兎の後を追うことにしたのだ。
その頃、クロウドはというと......気絶していた。クロウドだけではない。周りではイバン、ダルト、ユークがまとめて気絶している。そしてそこに一つの影が迫る。何が起こったのか。時を遡って1時間前——
「どけやクロウド。俺はもう我慢できんのや」
「前々から思ってたが......お前って結構クレイジーだよな」
「や、やめろよ2人共......せっかく合流できたっていうのに」
一触即発。偶然合流できたクロウド、ダルト、ユーク、それとイバンだったが何故かクロウドとダルトがあわや戦闘になるという事態になっていた。
「こんな状況だってのに仲間内で争ってる場合じゃないだろ!」
ユークが仲裁に入る。2人が争っている理由それは1匹の生物。イバンの存在を巡ってだった。
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