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75話 VS第一席

 カナンは感じとったウルファンの魔力の性質と今までの体験、そしてルナから聞いた話から推測を立てていた。


 (おそらくあのケモ耳男の使う魔術は「転送魔術」の一種。さっきマネキン達を出した「光」もあの男の魔術だろう。魔力の性質が同じだ。転送魔術にも色々あるがその本質はどれも同じ。名の通り転送させる魔術。おそらくあの男はルナちゃんをどこか遠くへ転送させるつもりだ!)


 カナンの推測は当たっている。


 ウルファンの使う魔術は転送魔術「テレポート」。物質や生物を好きにテレポートさせる魔術だ。トランやサロイが使っていた装置(テレポーター)は独自の技術によりウルファンの魔力を抽出して作ったものだ。


 そんな「テレポート」であるが魔術を行使するのにいくつか条件がある。


 まず物質をテレポートさせる場合。テレポートさせる物質のことを過去に一度でもいいので認識しておく必要がある。その認識した時の状態から大差がなければその物質の質量と魔力量に応じた魔力消費で自分が知っている好きな位置へテレポートさせることができるのだ。


 もう一つ、生物をテレポートさせる場合。三つパターンがあり一つは「自分をテレポートさせる場合」。この場合は特に制限はなく相応の魔力を消費してテレポートすることができる。


 二つ目は「自分が魔力の性質を知っている他者をテレポートさせる場合」。この場合は対象者が自分の半径10メートル以内にいる必要がある。


 最後は「自分が魔力の性質を知らない他者をテレポートさせる場合」。この場合は直接触れなければいけない。


 逆に言えば魔力の性質を知らない敵でも触れさえすれば好きな場所に飛ばせるというわけだ。


 つまり事前に閉じ込める用の部屋などを用意しておけば触れて飛ばすだけで勝利できる戦闘において最強の魔術だった。


 そして今、ウルファンの手がルナに迫る。ウルファンの動きは熟練の戦士の如く洗練されており、また練度やレベルこそカナンやクロウドのそれには及ばないが、強化魔術も使っており身体能力が上がっている。戦闘の技術面においては素人同然のルナには避けられない。


「あ......!」


 その手は最も容易くルナの腕を掴んだ。


「ルナちゃん!」


 カナンが叫びウルファンに斬りかかるが遅い。ウルファンはすでに魔術を発動させていた。


 転送魔術「テレポート」


 ウルファンはルナに触れたままテレポートさせる場所をイメージした。必要分の魔力はある。これで魔術発動の条件は全て満たされ、ルナはなすすべもなくウルファンがイメージした場所へ飛ばされる......はずだった。


「......なぜだ?」


 ルナはテレポートなど一切されず、そのまま今いる場所に留まっていた。ウルファンは理外の状況に困惑して一瞬フリーズする。


 その隙を逃すルナとカナンではなかった。


 ルナは自分の腕を掴んできたウルファンの手を逆に掴み返し、拘束する。


「カナンちゃん!」


「ナイス!」


 捕らわれたウルファンの背にカナンが迫る。そのまま剣を振り下ろし、ウルファンの背中を切り裂こうとしたその時、その姿は消え、カナンの剣は空を切った。


「——っ!」


 カナンは後ろ、サロイのいる方向へ振り向く。そこにはテレポートで逃れたウルファンが立っていた。


「どうしたの一体。本調子じゃないとはいえあなたが苦戦するなんて」


「......あの黒髪の女、トランが話していた「ログの人間」だ」


「......!じゃああの子が例の」


「......俺の魔術が干渉できるのはこの世界のものだけだ。対策すれば通じるようにもなるだろうが今は直接テレポートさせることはできないな」


「あら、天敵じゃない」


「まあそれならそれでやりようはある」


「お喋りとは余裕ね!」


 カナンが剣を構えて高速でウルファンの元へ突っ込み、ルナもそれに続く。そのまま剣をウルファンの首を刎ねようと振るうが、再び空を切る。ウルファンは切られる寸前にサロイとカナン達の少し後ろにテレポートしていた。


「プレゼントだ。受けとれ」


 ウルファンが魔術を発動させ、ルナとカナンの周囲にとあるものがいくつもバラバラに転送されてきた。


 それは爆弾。詳しく言うならば「手榴弾」。爆風で破片を飛ばしてターゲットを攻撃する爆弾である。現代科学のそれに及ぶものではないが人間の1人や2人充分に殺せる代物だ。それらはすでにピンが抜かれており、すぐに爆発する状態になっていた。


 そして爆発。爆風がふきあれ、白と黒の爆煙が周囲を包む。


「やったわね」


「いや、まだだ」


 爆煙の中からカナンとルナが飛び出してくる。その姿に多少の傷はあれどいずれも軽傷。いくつもの手榴弾の爆発に巻き込まれたとはとても思えないものであった。


 なぜ2人は軽傷で済んでいるのか。その理由が、その光景がウルファンの目には見えていた。


 まずカナンがルナをそばにより、間に合う限り手榴弾を剣や足で飛ばし、間に合わなかった分は爆発した瞬間飛んでくる破片を一つ一つ切り裂き、それと同時に剣の振りのよって爆風の流れを分断して最小限の被害で済ませたのだ。


「人間技じゃないな」


 ウルファンは呆れ気味でテレポートを駆使しながら2人を迎撃する。剣を出し、爆弾を出し、自分自身がテレポートし、カナンとルナ2人の攻撃を回避しつつ自身も攻撃していく。


 本来ウルファンの強さはもっと広い空間で発揮される。今戦っている狭い廊下ではテレポートの有用性を活かしきれない。その上相手は強敵と天敵。ウルファンの攻撃を技術とゴリ押しで押し退けて攻撃してくる。魔術も本調子ではない。


 (2......いや、3割で負けるな)


 ウルファンはふうっとため息を吐いて一旦2人から距離をとった。


「逃げるぞ」


「あなたも人のこと言えないわね」


「ふん、まあここで勝ちにこだわる必要はない」


 ウルファンはそう言って魔術を発動させた。


「待て!」


 カナンはウルファンの動きを察して一気に詰め寄る。だが刃は届かない。


「また会うことがあればその時相手してやる」


 その言葉だけを残してウルファンとサロイはテレポートした。




 暗い会議室。そこにウルファンとサロイはテレポートしていた。


「それにしても良かったの?地上人を放置してきて。なにやらかすか分からないわよ?」


「13層にいる内はなにも問題はないだろう。14層に来るならそれはそれでいい」


「12層に行ったらどうするのよ。あそこには一般市民が大勢いるわけだけど」


「それが一番都合がいいんじゃないか?どうせすぐに向かうわけだしな」


「そういやそういう計画だったわね。そこで改めて駆除すればいいってわけね」


「ああ......そういえば、お前が言っていた侵入者を見つけたぞ。推測通り12層の住民が悪戯で入っていただけだったようだ。まあ子供の悪戯だ。放っておけばいい」

 

 ウルファンはサロイの元にテレポートする前に知った事実を報告する。この時、13層で他にも地上人と遭遇したことを思い出したが、報告はまだいいだろうと後回しにした。

 

読んでいただきありがとうございます。

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