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74話 乱入

「動くな喋るななにもするな」


 カナンはサロイの首に刀身を突きつけて脅す。もはや勝負はついた。ここからサロイが指一つでも許可なく動かせばカナンは容赦なくその華奢な首を裂くだろう。気は乗らないが躊躇いはない。カナンは割り切っていた。


「お前は何者だ。まずそれだけ答えろ」


「......」


 サロイは恐怖する。今自分に剣を突きつけている女は生かしておく価値がないと判断すれば躊躇なく自分を殺すだろう。そう思えるほどの凄みがカナンにはあった。


 ただ純然に迫っている死。少し足を滑らせれば命は手を離れる。その恐怖は現実感を伴ってサロイの精神を冷やした。


 だがその恐怖から、迫る死から逃れる方法はある。簡単なことだ。カナンの指示に従い自分の持っている情報を全て話せばいい。そうすればカナンはサロイを生け捕りにする価値があると判断することで少なくとも今この場で殺されることはないだろう。


 「組織(・・)」の幹部集団である「冥芒星」。その席次に着いているサロイの情報は本来「地上人(・・・)」であるカナンの手に渡っていいものではない。サロイが話せば「地上」と「ダンジョン」の関係が激変し、凄惨な争いの火蓋が切られる可能性だってある。


 だがサロイにとってそんなことは関係ない。冥芒星の席にはついているがそこに責任感なんてものはなく、命を賭けるような大義もない。故に——


「ふう......」


 サロイはふっとため息をついて、後ろにいるカナンに話しかけた。


「ごめんなさいね。貴方みたいな芋娘に名乗れる安い名前じゃないの」


「......あっそ!」


 サロイには命を賭ける責任も大義もない。だがそれでも、それでも守りたいものはある。


 それはプライド。いや、自尊心。サロイは自分のことが好きだ。何ならナルシストだ。それは自他共に認めている。


 故に——あってはならないのだ。自分が何処の骨かも分からない人間に負け、その上服従して命令を聞くなどあってはならないのだ。


 そんなことをすれば自尊心は打ち砕かれ、自分のことが嫌いになってしまう。それがサロイにとって死よりも恐ろしいことだった。


「美しいまま死ねるのなら......それも悪くないわね」


「じゃあお望み通り......!」


 カナンは剣に力を入れ、サロイを殺しにいく。だがそこに僅かなラグ、躊躇いが生まれた。


 カナンは躊躇うつもりなどなかった。相手は人間に近い形はしているが人間ではない。さらに魔術を使うことができる。このまま拘束したとしてもなにをするか分からない。こちらの利にならないのならば殺しておくに越したことはないはずだ。


 いつもと同じように、モンスターを斬り殺す感覚で殺せばいいのだ。カナンはそう思っていた。


 だが実際には1秒ほどの躊躇いが生まれた。無理はない。差異はあるとはいえ、人間の姿をした知性体を殺人などしたことのないうら若き少女が躊躇いなく殺せるはずなどないのだから。


 その一瞬が致命的だった。


 ——一瞬、一瞬躊躇った隙にサロイはカナンの目の前から姿を消した。


「な、——!」


 カナンは驚愕する。サロイが姿を消したことにではない。突如現れた、その強大な魔力に、だ。


 通常魔力を感じるにはイバンの使う「魔力感知」などの魔術的な技術が必要になる。だが例外はある。


 肌で感じ取れる程の強力な魔力ならば、魔術に精通したものならば誰でも感じることができるのだ。その例外に当てはまる程にはその魔力は強大だった。


 カナンはその魔力の発生源の方を向く。後ろだ。


 一本道の廊下の後ろにはルナ。そのさらに10メートルほど後ろに2人、立っていた。1人はサロイ。その隣にもう1人。狼の耳を生やした男が立っていた。


 ダンジョンの内部に存在する、とある「組織」の幹部集団「冥芒星」。その第一席、名前をウルファン。冥芒星のリーダーである。


「助けるのが遅いんじゃないの?もしかして私を試していたのかしら」


 サロイは隣に立つウルファンに悪態をつく。


「そんなことができる器ではないよ俺は。それよりももうトランにでかい口は聞けないな」


 ウルファンは意地悪く言う。それにサロイはムキになった。


「ふん、まだよ。今から汚名返上させてもらうわ」


「いや、お前はもう下がっていろ」


 ウルファンは再びカナンに立ち向かおうとするサロイを止める。


「無理をするな。もう魔力が残ってないだろう」


「......まあいいわ。熱くなりすぎるのもスマートじゃないしね」


 それよりも、とサロイはウルファンを見る。


「あなた魔術はもう大丈夫なの?装置(テレポーター)を作ってから不調だったんでしょう?」


「まだ完璧とはいかないがな。先ほどウォーミングアップもできた。問題はない」


「なら頑張って」


 その瞬間、赤い剣戟がウルファンに襲いかかる。


 先手必勝。いかに強大な魔力があろうと使われる前に殺せばいい。それがカナンの考え方だった。


 だがその斬撃がウルファンの体に当たることはなかった。


「な......!」


 ウルファンは何処からともなく剣を出してカナンの剣を受け止めていたのだ。


(私の初撃受け止められるやつなんてギルド内に3人いるかどうかなんだけどな。それにあの剣持ってなかったわよね。あの魔力......おそらくは)


 刹那の思考。カナンは斬撃が受け止められて一旦距離をとった。


「ふむ......かなりの強者だな。流石に骨が折れそうだ」

 

 ウルファンはそう言って構えるだけ構えていたルナの方を見た。悪寒がカナンの背筋を伝う。


「集中するため邪魔は消しておこうか」


「逃げてルナちゃん!」


 カナンの叫びと同時に、ウルファンの手がルナに迫った。

 

読んでいただきありがとうございます。

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