73話 VS人形使い
冥芒星第6席にして三つ目の美魔女の異名を持つ女、サロイ。彼女はルナとカナンと相対するやいなや、とある「装置」を使用して大量のマネキンを自分の周囲に転送した。その装置はあらかじめ用意しておいたものをじぶんの近くに転送できるというもの。トランがスカイアリゲターを出したものと同じものである。名を「テレポーター」という。
装置は先ほども使用していた。先程カナンとルナの周囲に現れ襲撃したマネキン達はサロンが装置によって転送してきたものだ。
その装置を再度使用。再び大量のマネキンを転送する。しかし今度は2人の周囲ではなく自分の周囲に。自分をマネキン達で守るように転送した。
そしてそのマネキン達にある魔術をかける。
傀儡魔術「マリオネット」
魔術をかけられたマネキン達は今までとは一線を画す統率のとれた動きで2人に襲いかかる。
「な、なんだこいつら!」
ルナは襲いかかるマネキン達と会敵して驚愕した。今まで戦ってきたマネキンと明らかに動きの質が違うのだ。
一体一体のマネキンが他のマネキンと連携して動く。それらを迎撃するが一筋縄ではいかない。ルナのレベルでは苦戦は必至だった。
「どうしてさっきまでと動きが違うの!?」
ルナが叫ぶ。その叫びをサロイはマネキン達の後方で心地良さそうに聞いていた。
「あの三つ目女の魔術でしょうね。人形だかを操る魔術。ギルドにも使う人間はいくらかいるわ。それをさっきまでよりも高い出力でマネキンにかけた。この層にいたマネキン達はあの女が用意して遠隔で操っていたのでしょう」
カナンの言葉を聞いたサロイは笑って首を傾げた。
「少しだけ当たりで他はハズレ。私の魔術に関する考察は当たっているわ。でもこの層に元々あったマネキンは私が用意したものじゃない。それと——」
サロイは魔力を高めてマネキン達にかけた魔術を強化する。
「あなた達が使うような貧弱な魔術と一緒にされたくはないわ」
強化されたマネキン達は勢いを増し、更なる力をつけて襲いかかる。一体のマネキンがルナの前に飛び出す。それをルナは拳で砕こうと胴体を殴った。
通常ならばこれでマネキンは砕け散っているだろう。だが——
「なあ!?」
砕けていない。ただ少しヒビが入っただけである。サロイの魔術によって強度が上昇したのだ。
ルナは一撃でマネキンを倒せず、一撃で倒せないのならば処理が追いつかずあっという間に大量のマネキンに殺される。
これがサロイの魔術。傀儡魔術の一種、「マリオネット」だ。通常、人形を操る魔術である「傀儡魔術」は同時に操れるのは最大で5体ほど。しかしサロイは30体程度なら余裕で操り、さらに操っている人形の強度や力の強化までしてしまう。
それらは全てサロイの圧倒的な才能により成せる技。サロイは史上最高の才能を持った傀儡魔術の使い手なのである。
(師匠仕込みの傀儡魔術でお人形を操り、自分は後ろで優雅にティータイム。これが私の戦い方......!私は優雅に勝者になるの)
カナンは状況を見る。マネキンの数は丁度30。今ルナちゃんが一体倒したから29。三つ目女との距離は50メートルもない。
状況を整理し終え、カナンは自分に近づいていたマネキンを一体斬った。
「ルナちゃん、ちょっと下がってていいよ」
「え!?でも......」
「大丈夫だから。信じて」
ルナは少し迷ってから自分に群がっていたマネキンを一時的に弾き飛ばして後ろへ下がった。
これによりルナとカナンに二分していたマネキン達が全てカナンに襲いかかることとなる。
その光景を見てサロイは考える。
(さっき転送したマネキンは全て蹴散らされたけど今回のはものが違う。私特製のマネキンで私の魔術を最大出力でかけてある。それを30体。あの赤髪の子は相当なやり手みたいだけど流石に殺せるでしょう。本当は生け捕りが良いのだけどそれは後ろに黒髪の子だけでいいわ)
サロイは本当は2人とも13層へ入った方法を知るために生け捕りにするつもりだった。だが今、気は変わりカナンを迷うなく殺そうとしている。
その理由をサロイは説明できない。ただ何となくだと本人は思っているだろう。
サロイは無意識に感じとったのだ。カナンという女の危険性を。今すぐ殺さねばならないと。
そしてその無意識の理解はすぐに意識的なものに変わる。
カナンは迫るマネキン達を前に、体に魔力を流す。胴体、頭、腕、足。全身に満遍なく。そしてカナンは魔術を発動させた。
強化魔術「ライジン」
自身の肉体を魔力で大幅に強化して通常ありえない身体能力を実現できるクロウドも使っていた技(9話参照)だがその強さはクロウドの使うそれとは一線を画す。
話は少し逸れるが、魔術には「適性」というものがある。適性のある魔術は人によって違い、自身の適性にあった魔術は人一倍のパフォーマンスを発揮でき、逆に適性が全くない魔術を無理に使えば反動がくる。クロウドが「ライジン」を使った時に反動を受けるのはこのせいだ。クロウドには自身を強化する強化魔術の適性がないのだ。
そんな適性の数は人によって違うが基本的には10以上ある人間が殆どだ。殆どの人間がその適性のある魔術の中から覚える魔術を選択して鍛錬に励む。
だがカナンには選択の余地がなかった。適性が強化魔術しかなかったのだ。なので必然強化魔術だけで戦うしかなかった(強化魔術を覚えているクロウドのように適性がない魔術を覚えることもやろうと思えばできるがカナンは強い反動を嫌った)
しかしそれをカナンは不運だとも不幸だとも思ったことはなかった。その理由は単純明快。強化魔術だけで強いからだ。
適性は強化魔術しかない。だがその分強化魔術の才能だけは研ぎ澄まされ、それ一つで戦える。いや、圧倒できるほどの強さをカナンは誇っていたのだ。
「——はあ!?」
サロイはその光景に驚愕する。
強化されたマネキン達が最も容易く切り刻まれる。1体2体3体、次々に再起不能に陥るマネキン達。それらが先ほど戦ったマネキン達よりも大幅に強化されたものだったが、それでも結果は変わらなかった。
そして1分とたたず全滅。マネキン達は全てバラバラの破片となって地に伏していた。
「すごい!」
「化け物か!?」
サロイは動揺した後、装置を作動させようとボタンに指をかける。装置はリモコンのような形になっており、ボタンを押すことで作動するのだ。押せばもう一度マネキンが転送されてくる。
だが——
「動くな喋るな何もするな」
「——っ!」
カナンは瞬時にサロイの後ろに回り込み、ルナにやった時と同じように首に剣の刀身を突きつけた。
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