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72話 赤い風

 突如として光と共に現れたマネキンの軍団。そのマネキン達は以前ルナが遭遇したものと同じもの。蠢き、外敵を排除せんと迫る。


「——!」


 ルナは驚愕を瞬時に飲み込み、沸いた様々な疑問を片隅において迎撃する。例に漏れずそのマネキン達は弱い。一時的に撃退するだけならば容易い。しかし問題はこのマネキン達が死なないということだ。頭を砕こうが胸を貫こうがその四肢がある限り立ち上がる


 だがそのことはすでに折り込み済み。ルナは前回の戦いからクロウドと共にマネキン達に対する対策を立てていた。


(こいつらは死なないけど再生するわけじゃない!実質的に動けないようにすれば死んだも同然。それならば戦いようはいくらでもある!)


 ルナは拳でマネキンを胴体を粉砕する。胴体を粉砕されたマネキンはバラバラに吹き飛ぶ。これではいくら死んでなかろうが動きようがない。その工程を一体一体こなしていく。これならば負担はかかるが確実に仕留めることができる。


 だがそれでも、勝ち目が濃厚なわけではなかった。このやり方でマネキン達を仕留めていくにはマネキンの数があまりにも——


(あまりにも多すぎる!)


 ルナが迫るマネキンを撃破するたびに新手が迫り、余裕はなくなる。マネキン達の数は膨大。このままではジリ貧だった。


(そういえばカナンさんは大丈夫かな。正直自分を守るので必死で考えてなかった!)


 カナンの実力をルナは知らない。2人は知り合って間もないのでそれは当然。そこへの大量のマネキン達による急襲。ルナが心配するのは至極当たり前のことだ。


 だがそれは杞憂だったとルナは直後に思い知った。


 ——駆ける。風のように、音のように、閃光のように、マネキン達の間を器用に縫う赤い剣戟。それは目で追えないほどの速度を誇り、周囲のマネキンをあっという間もなく切り刻む。


「な、なにが起こって......!」


 ルナは次々と刻まれバラバラになるマネキンを見て動揺する。今目の前で起こっていることが現実ではないかのように思える。それほどまでにその技は人間離れしていた。


 達人なんて言葉ではとても届かない。まさに神業。先程まで狭い廊下でぎゅうぎゅうに蠢いていたマネキン達は全てすでに細切れと化していた。


「ふう、こんなもんか」


 カナンは自身にかけていた魔術を解いて動きを止める。なにを隠そう、先程までマネキン達の間を駆けて切り刻んでいたのはカナンその人であった。


「こ、これあなたがやったんですか......?」


 ルナの質問にカナンは余裕の笑みで答えた。


「うん。私ちょっと強いでしょ?」


 ちょっとなんてレベルではない。カナンの冒険者ランクはクロウドと同じ最高のプラチナ。だが「戦闘の強さ」だけでいえばクロウドを大きく上回る。6層でのクジラのようなモンスターと戦った時のように状況が悪ければ実力を発揮できないこともあるが、基本的に地上での戦闘でカナンを上回る生物はそういない。


 カナンのその実力は最強の人間の称号を冠するにふさわしいと言える。というわけで死なないだけのマネキンなど数を揃えようがカナンの敵とはならないのだ。


 だがそんなことはカナンに今はどうでもよかった。それよりもどうしても気になったことがあった。


 カナンはルナの手をとってはしゃぎ始める。


「あなたすごく強いのね!」


「え?え?」

 

 困惑を隠せないルナ。当然だ。先程あのような神業を見せた明らかに圧倒的な実力差がある相手に「強いのね!」なんて言われても煽っているようにしか聞こえない。だがカナンはあまりの喜びにそんなことを考慮する間もなくルナを賞賛してしまったのだ。


「私感動しちゃった!女の冒険者でここまで強い人ってほんとにいないんだもん!」


 それは期待。冒険者は現時点でギルドに在籍している数だけでいえば1000人以上。その中での女性の割合は1割。100人程度だ。ほとんどいない。さらにそのほとんどが回復や探知などのサポート職なのでバリバリの戦闘職であり強大な強さを誇るカナンと同じ目線で話せる同性はいなかったのだ。それにカナンは言いようのない淋しさを感じていた。


 そこへ現れた強靭な少女。カナンはテンションが上がっていた。


「びっくりしちゃった。助けたほうがいいかと思ったら次々吹っ飛ばしてるんだもん」


「あ、ありがとうございます」


「敬語なんか使わないでよ。私たちきっと歳近いでしょ?」


 カナンがルナに対してグッと距離を詰める。


「ねえ、ルナちゃんって呼んでいい?」


 カナンが聞く。カナンには前述の通り同じ目線で話せる同性がいない。なので気軽にちゃんづけで呼び合えるような仲の友人はいなかった。


 カナンは冒険者をしている自分には縁のなかった年頃の女子のようなキラキラした関係性に密かに憧れていたのだ。


 対してルナは、初対面の人間には人見知りになってしまう癖があるが社交的で人と関わるのが好きな性格。なので当然——


「じゃあ......!私もカナンちゃんって呼ぶね!」


 2人の思惑の一致。女子2人はキャーと盛り上がる。その時だけは2人の異常な強さなど微塵も感じさせなかった。

 

 しかしカナンは一通り盛り上がるとすぐに冷静さを取り戻した。


「と、まだ終わってなかったわね」


 カナンは笑顔を崩すとキッと廊下の先を睨む。その視線の先には1人の女が立っていた。


「こんな場所まで入り込んでるなんて......前代未聞じゃない?大事件よ」


 カナンは構え、ルナもそれに続く。身の危険を即座に感じ取ったのだ。


「まあいいわ。とりあえず2人だけみたいだし生け捕りにしちゃいましょうか」


 三つ目の美魔女の異名を持つ冥芒星第6席、サロイはそう言って舌なめずりをした。

読んでいただきありがとうございます。

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