70話 剣士
ダンジョンの13層の構造が変動し、クロウドとイバンの2人とルナははぐれてしまった。
「ど、どうしよう!」
ルナは叫んだり壁を殴ったりしてみるが効果はない。壁は魔力が通っていて強靭なので破れない。また防音効果もあるため声もいくら叫ぼうが届くことはない。
「はぐれちゃったよぉ〜!?」
こうしてルナはダンジョンという危険な地で7層の時のように再び1人となってしまったのだ!
それから10日たった!その間ルナはクロウドともイバンとも合流することはできず、ただ1人13層を彷徨っていた。
「ここどこだろう......」
少女ルナ、2度目の迷子である。その手にはクロウドに持たされていた地図が握られている。だが今回は地図があったところで迷子になるのは仕方ないかもしれない。13層の構造が自体が揺れと同時に変動してしまっているのだから。だがそんなことはルナには分からないので何度も手書きの地図と睨めっこしてはため息をつくのだった。
「揺れはあれから何回かあったけど危機的状況って感じじゃないな」
ダンジョンで仲間とはぐれ1人になる。それも人類未到の深度で。本来ならばそれはかなりの重度の危機である。だがしかしクロウド達とはぐれての10日間、ルナは何一つピンチになどならなかった。
「食料は元から持ってたし探してみれば色んなところにあるんだよね」
ルナは隠し部屋にあった食料を持っていたのに加え、ダンジョン内の部屋に食料が残されているのを度々見つけた。なので食料に困ることはなかったのだ。
おまけにほとんど接敵することはなかった。一度マネキンの集団と遭遇したことはあったがその時も容易く逃げ切ることができた。
「パンとか水ばっかで味気ないけどね」
ルナは腰を下ろしてこれからのことを考える。
「一旦あの隠し部屋のところまで戻れればいいんだけど......あそこに戻れればなんとか道も分かるかもしれないし。まあそこまでの道が分からないから、適当にうろつくしかないか」
ルナは油断していた。現状に対して危機感を持っていなかったのだ。食料もあるし危険も少ない。それならばクロウド達も無事だろう。
なのでそこまで迫っていたその存在に気がつかなかったのだ。もっとも気付いたところでルナに対処する術はなかったであろうが。
それは風の如くゆらりと動き、音の速さでルナに迫り背後から喉元に剣を突きつけた。
「声は出すな」
「......!」
そのささやきにルナは動揺しながらも従う。突然の状況を把握できてはいなかったがそれでも従わないとやばいということだけは瞬時に理解したのだ。
「あなたは今1人?YESかNOで答えて」
「......YES」
真実。クロウド達と離れているのだからルナは現在1人だ。そしてこの質問の声色や口調からルナは背後を取っている人物が女だと理解した。
「じゃああなたは人間?」
「YES」
「冒険者?」
「YES」
ルナが返答を終えると背後の人物は少し黙ってから質問を続けた。
「ここからは普通に喋っていい。どうしてこんな場所にいるの?何故1人なの?」
ルナは真実を言ってしまってもいいのかと考える。しかし悩む時間はない。
「ここにいるのは7層にあった。魔法陣を使ったから。1人なのは仲間とはぐれたから」
真実。
「仲間は何人」
「1人」
真実。というより嘘ではない。正確には1人と1匹だが、「何人?」と聞かれたのだからイバンのことまで答える必要はないとルナは判断した。
「その仲間の名前は」
「......」
ルナはおしだまる。背後の人物が何者かわからない以上むやみにこれ以上個人情報を答えるべきではない。背後の人物が以前出会った透明人間、トランの仲間かもしれないのだから。そんな懸念がルナにはあったのだ。
「早く答えて」
背後の人物は剣を当てる力を強くする。剣はルナの首の肉へ少し食い込んでいる。もう少しで皮膚が裂けそうだ。だがそれでもルナは無言を貫いた。
(私とクロウド君は共に信頼している仲間だ。それなのに我が身惜しさにいるような真似はできない......!)
それはこれまでの冒険で強固になっていったルナの冒険者としての覚悟だった。その精神はすでに年相応の少女のものではなく視線を掻い潜ってきた戦士のもの。命懸けの冒険がルナを成長させていたのだ。
(と言ってもただで死ぬつもりは毛頭ない。一か八か剣で斬られる前に反撃してやる!)
ルナはグッと拳に力を入れる。そして脳内で先頭のイメージをする。その光景を見た背後の人物はふうっ、と息を吐いて剣を下ろした。
「え!?」
ルナは思わず後ろを振り返る。そこには可憐な姿をした赤髪の剣士の姿があった。
「ダメね、私こういうの向いてないみたい」
剣士はふっと自重気味に笑った。そこに先程までの殺気はない。ルナは状況が飲み込めず混乱する。
「突然ごめんね。こんな場所にいるんだから敵かもしれなかったし仕方なかったの」
剣士はそう言って手をルナの方へ差し出す。
「私もあなたと大体同じ状況。魔法陣でここに来たんだけど仲間とはぐれちゃったの。仲良く出来ると嬉しい」
「は、はい」
ルナは困惑しながらも剣士の手をとる。状況は飲み込めていないが、敵意はないと感じ取り、協力したいという剣士の考えを汲み取ったのだ。
手を取られた剣士ははにかんで自己紹介を始めた。
「私は冒険者のカナン。よければ互いに協力したいな」
剣士は赤い髪を揺らしてみせた。
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