69話 冥芒星定例会議
薄暗い部屋。そこには凝った装飾の施された円卓のような丸い机が堂々と置かれている。その机を取り囲むように椅子が八つ。その内の4席は埋まっていた。
ボサボサの翼を携えた少年。背の高い三つ目の美女。狼の耳を生やした落ち着いた雰囲気の男。そして赤髪でツノを生やした男トラン。その四人が四つの席を埋めていた。
「定例会議だってのに集まったのはこんだけか?どいつもこいつもやる気ねえな」
トランは半分しか来ていないという集まりの悪さに苦言を呈す。それを聞いた三つ目の美女がニヤつきながら揶揄うように口を開いた。
「みんな優秀だから忙しいのよ。7層をお散歩してたら地上人にボコされちゃったあなたと違ってね」
その言葉を聞いたトランはギロリと美女を睨む。
「ああ!?じゃあ毎回出席してるテメエはどうなんだよ!さぞ暇を持て余してんじゃねえのか!?」
「はあ、すぐに吠えて怖い怖い。人形軍の管理を担当してる私が暇なわけないでしょ?それでも律儀に時間を作って出席してるだけよ。頭の足りない野良犬にはそんなことも考えつかないのかしら」
「てめえ野良犬ってオレのことか......?」
「だってそうでしょ?大した名家の生まれでも無いくせに威勢と一発芸だけで冥芒星まで昇ってきた野良犬。それがあなたよ。ダユ一もそう思うでしょ?」
ダユーと呼ばれた翼の少年が少し考えて問いに答える。
「あー自分もそう思います」
そう言ったダユーの顔はどこか気だるげだった。その光景を見たトランがすかさず突っ込む。
「てめえさてはまた話聞いてなかったな」
ダユーは図星を突かれたようにボサボサと頭を掻く。
「だってお二人、会う度に喧嘩してますもん。いちいち聞いてられませんわ。しかも喧嘩の理由もしょうもないし」
「ダユーてめえ」
トランはダユーのことも睨む。対して睨まれたダユーはやはり気怠げだ。そのを美女は楽しそうに見ていた。
その時、同じく机を囲っていた狼耳の男が閉じていた口を開いた。
「その辺にしろトラン。喧嘩っ早いのはお前の悪癖だぞ」
「おいおいそりゃねえぜリーダーさんよぉ。先に喧嘩吹っかけて来たのはこの女だぜ!?」
「あら、私は事実を述べたまでよ?」
二人は再び口喧嘩を始めそうになる。その光景を見た狼耳の男、「リーダー」はため息をついて二人を宥めた。
「はあ、やめろ二人とも。......とにかく、今日の本題、定例会議を始めよう」
リーダーがそう言った瞬間、空気がピシャリと引き締まる。トランと美女は喧嘩をやめ、ダユーは少しやる気を出した。3人とも仕事に関しては真面目な方だった。
「じゃあそれぞれ報告していこう。まずは俺から」
リーダーは用意していた紙の資料を3人に渡す。それは全て手書きで書かれていた。
「まず「セージの叡智」の暴走に関してだが、研究が進んだ結果99%以上の精度で抑えることができるようになった。これ以上余計なものを持ってくることはないだろう」
「そりゃよかった。あれが持ってくるもの次第じゃあ世界ごと滅びかねんかったからな」
「ああ。続いてセージの叡智の前回の試運転の結果だが......こちらは一言で言ってしまえば成功だ。こちらが指定した生物と世界への干渉及び転送はおおよそ成功した。現に一から八層までは送ったモンスターの存在が確認されている。トランも見ただろう。7層に送ったドラゴンとスカイアリゲターの存在を」
それを聞いてダユーが反応を見せる。
「じゃあいよいよ実行ですかい?」
「いや、成功はしたが完璧では無い。若干の転送位置のズレ、タイムラグ、また一部異世界への干渉の失敗。本格的に計画を実行するには改善点がそれなりに残っている」
「でもそれくらいならすぐの改善できるんじゃないの?あなたの仕事ぶりを見ているとそう思えるのだけど」
「そうだな。このまま実験をあと何度か繰り返せば全ての欠点を克服できるだろう。だがその前に一つ重大な問題点がある」
「そういや前言ってたな。魔力不足か」
「セージセイバーの運用には多大な魔力を消費する。今回の試運転はセージセイバーの残っていた魔力で補えたがそれも0になった。新たに魔力を補充する必要がある」
「そこで例の計画をいよいよ実行に移すってわけね」
「そうだ。20日後の大会の日。我々は地上へ続く転送石の大元、晴天石を奪取する」
これで俺からの報告は以上だ、とリーダーは話を締めた。
「じゃあ次は俺だが......特に異常はない。見た感じ9層以降へ侵入した地上人はいなかった。7層にはいたが......一つ報告しておきたいことがある」
「どうした」
「覚えてるか。大昔のログにあった人間がいた」
リーダー共々トラン以外の3人は少し頭を悩ませ、思い出してうなづいた。
「セージセイバーの暴走で飛ばされてきた唯一の人間よね。でもそれって大昔のことでしょう?そんなやつがどうして今?」
「知らねえが......間違いなく本人だ。「旅人への祝福」の存在も確認できた」
その話を聞いてリーダーが首を傾げる。
「ふむ......何故今頃になって、まあこちらに敵意を向けない限りは向けないかぎりは放っておいていいだろう」
「そうか。それならいい。これで俺から連絡は以上」
トランが話し終えたのを察したダユーが手を挙げる。
「はいはい。自分からの報告は特にありませーん」
「......そうか。では最後にサロイ、何か報告はないか」
リーダーはまだ報告をしていない美女、サロイに話を振る。
「私も特にないのだけれど......一度13層まで転送してもらってもいいかしら」
「何故だ」
「どうやらお人形達が前々から起動しているようで、誰かが侵入しているようなの。十中八九12層の住民がイタズラで入ってるのだとは思うのだけれど一応見回りはしておこうと思ってね」
それを聞いたトランがここぞとばかりにサロイを肘でこづきながら煽る。
「お前そんなことする暇があんならやっぱ忙しくねえんじゃねーか」
「うるさいわね。出来る女は時間の捻出が得意なのよ。ねえいいでしょリーダーさん」
リーダーは顎に手を当てて少し悩んだ後、結論を出した。
「分かった。転送はするが俺もついて行かせてもらおう」
「あら、13層に何か用事でもあるの?」
「気になることが少しな」
「そう、まあ私は一向に構わないわ。とりあえず私からの報告は以上ね」
サロイが報告を終えたのをリーダーは確認すると、立ち上がって宣言した。
「ではこれで定例会議を終了する。今回出席していなかった席次には俺から連絡を入れておく。それでは解散」
その合図でリーダー以外の3人はたちあがり、次々とその部屋を後にしていった。そして薄暗く、静寂に包まれたリーダーは自分の席に立てられている小さな肖像画を見て呟いた。
「あと少しだ」
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