68話 変動
「と、こうしてオレは冒険者を志したと言うわけだ」
クロウドは自身の過去を語り終え、ルナの方を見る。そこにはクロウドが想像もしなかった情景があった。
「ううううう」
ルナが大粒の涙を流していたのだ。クロウドは予想外の出来事に動揺する。
「なんで泣いてんだよ......」
「だって......クロウド君苦労してきたんだなって......!」
涙の理由を聞いてクロウドはため息をついた。確かに多少の同情は寄せられるような過去かもしれないがその反応は大袈裟だろうと感じたのだ。
「まあ今なら父さんの気持ちも少し分かるんだ。結局オレもダンジョンに夢中になっちまってる。血は争えないってことなのかもな」
そういえばここしばらくメイサさんに手紙も出していなかったな。無事生還できたら久しぶりに帰郷するのもいいかもしれない。そうクロウドは思った。
「そうなんだね。これからも頑張ろうねクロウド君、私応援してるから」
ルナは涙を拭いてクロウドの肩にポンと手を置いた。
「なんだよそれ。どういう目線だ」
そんな二人の横でイバンがフンとつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「なんというか......期待外れだったな。人間特有のジメジメとした話は嫌いだのう。もう少し明るい話はないのか」
「お前マジで殺すぞ」
クロウドとイバンが少し睨み合った後、クロウドは呆れたように肩の力を緩めた。
「とにかく、結構時間も経ったしそろそろ行こう」「うん、疲れもとれた!」
「いいだろう」
(体力はかなり戻った。この体は消耗が激しい代わりに回復も早いのだろうな)
3人が休憩を始めてからはや1時間近く。すでに3人の体力は冒険を続けられる程度には戻っていた。
なので早速移動を始めようと3人が立ち上がったその時だった。
「なんだ!?」
「おい!なんの揺れだこれは!」
振動。巨大な揺れが13層を包む。轟音を鳴らす揺れは常人であれば立っているのもままならないほどであった。
「うわわわわ!」
ルナが揺れで足元がおぼつかなくなってフラつく。鍛えているクロウドやそもそも四足歩行であるイバンと違いルナは「力」があるだけの一般人である。こういった事態への対応はまるっきりできない。
「いいからしゃがむんだ!」
クロウドが叫ぶ。クロウドはこの揺れを地震だと解釈していた。迷宮都市カナリヤでは滅多に起きないが地震がないわけではない。なのでとりあえずしゃがんで頭を隠していれば安全だと判断したのだ。
だが端的に言うとその判断は間違っていた。
この揺れは地震などという理由なき自然現象ではなく、人の手によって作られた人工の現象である。
だがその判断ミスでクロウドを責められる者はどこにもいないだろう。誰にも分からないからだ。
「ねえ、なんか床動いてない......?」
「な!?壁も動いておるぞ!」
「これはまさか......このダンジョン自体が......!」
そう、初見では誰にも分からないだろう。
まさかこの13層自体が揺れ動き、姿を変えているなど。
「これやばいよクロウド君!」
床は動き壁は変動し地響きは鳴る。ルナはその変動に飲み込まれどんどんとクロウド達から離れていく。だが揺れのせいでまともに身動きがとれず抵抗ができない。
「ルナ!手を伸ばせ!」
「......!」
ルナは精一杯助けを求めるように手を伸ばし、クロウドとイバンはルナの方へ駆け寄る。
壁が動き、ルナと二人の間を断とうと迫る。
「クソっ!」
走る。駆ける。手を伸ばす。精一杯。だが——
ゴウっ、と音がして揺れがおさまり、同時に13層の変動も終わる。クロウドとイバンに怪我はない。だがそこにルナの姿はなかった。
「おいルナ!聞こえるか!」
「返事をするのだ!」
二人は閉じた壁を叩いて叫ぶ。だがその奥から返事はない。そうしてしばらく叫んだ後、クロウドは膝を最後に一言叫んだ。
「またかよー!」
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