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7話 戦闘開始

「わあ、これがダンジョン...」


 洞窟の入り口、ツタをかき分けた先には巨大な木がそこかしこに生えたダンジョンの姿が広がっていた。


「電気もないのに明るい...。なんか聞いてた感じと違いますね。もっと家とかいっぱいあるイメージだったんですけど」


「ダンジョンは層によって光景がガラッと変わる。ここ八層は巨大な木で覆われた森みたいになってるが他の層は街があったり城があったりするよ」


「なるほど、お城まであるなんてやっぱり人が住んでたってことなんですかね」


「それが通説だな」


 小声で説明しながら歩く。気分はガイドだ。

 そんなふうに歩いていると一際大きな木がある場所に辿り着いた。


「7層に行くならここを右に曲がるんだが、左にある沼まで行こう」


「え、どうしてですか?」


「そこに食料があるんだ」

 

 そう言うとルナの腹が鳴った音が聞こえた。


「...あはは、それなら良かったです。実はお腹すごい減っちゃてて」


 ルナはそう言って腹をさする。その顔はにっこりと笑って本当に嬉しそうだ。


「それでそこにどんな食べ物があるんですか?沼にある食べ物って想像つかないんですけど」


「...うん。まあ行けば分かる」


 ルナは心底楽しみにしているのだろう。そりゃそうだ。目が覚めてから何も食べていないのだから。

 だからこそ気の毒で曖昧な返事しか出来なかった。

 



「こんなに歩いてて方向とか分からなくならないんですか」


 ずっと歩いているとルナが口を開いた。沼を目指すと言って以来しばらく会話がなかったからな。静寂と気まずさに耐えられなかったのかも知れない。


「ああ、この辺は一回歩いてるからーーー」


 そう言い終える前に聞こえた。虫の羽音。触手で這いずる音。一瞬で察する。


「右だ!」


 叫ぶのと同時にルナにタックルする様に飛びかかる。


「痛っ!な、なにを、」


 間一髪。丁度ルナに飛びかかって地面と激突したのと同じタイミングで右から触手が伸びてきた。


 その触手を追うようにして触手の主人が出てくる。それは3メートルはゆうに超える葉が生い茂った木のような体で、下半身の部分からは何本もの触手を伸ばしている。植物型モンスター「ウッタクル」だ。


「とりあえずそこでじっとしてろよ...」


 立ち上がりルナに背を向け腰のナイフを抜く。ウッタクルに対して臨戦態勢をとった。後ろのルナは状況を理解したのかすっかり怯えている。

 

 そう言えばルナはモンスター見るの初めてだったな(記憶失う前は見たことあると思うが)


 そんな俺達に向かってウッタクルは触手を一本、鞭のように振ってきた。


 避ければルナに当たる。かといってあの触手も結構でかいし力も強いのでまともに受ければ腕の骨が砕ける。


 ...難しいが、腕の見せ所だな。


 迫ってくる触手の下から持ち上げるようにナイフを当て力を加える。そのまま受け流すように後ろに下がりながら触手の軌道を上にずらした。


 2本目3本目と後続がくるが同じように受け流し、軌道を変える。受け流しという技術だ。

 

 しかしこのまま受け流すだけではジリ貧だしそんな悠長なことをこのモンスターは許さないだろう。触手を振り回すだけでは殺せないと察したらおそらくその巨体で突っ込んでくる。そうなるとルナを庇いながら戦う余裕はなくなる。


 元々長く戦うことは出来ない。悠長にしていれば他のモンスターが寄ってくるからだ。それに虫を使った高い索敵能力を持つウッタクルから逃げるのは難しい。


 ならば速攻で倒す...!


 再び迫ってきた触手を受け流しながらナイフを突き立てる。そのナイフは深く突き刺さった。わざわざ引き抜かない限りは抜けないだろう。

 

 次は...!


「ルナ!走れるか⁉︎」


 ウッタクルが刺さったナイフに動揺した隙にルナの手を取り無理矢理立たせる。


「頑張って走ってあそこの木の裏に隠れてくれ」

 

 オレ達が歩いてきた方向の木を指差す。ルナは唐突に出てきたモンスターにすっかり怯えているがここから離れてくれない。


 しかし離れてくれないことには満足に戦えない。あの木の場所ならウッタクルの攻撃は届かないしさっき見たからモンスターもいないだろう。


「頼む!」


「...は、はい、わかりましたぁ」


 情けない声だったがフラフラとルナは走り出した。

 よし、これで...


「後はお前を倒すだけだな...」


 再びウッタクルの方を向く。

 ウッタクルは落ち着いたのか激昂したのか触手を振り回し始めた。


 しかしその速度は遅い。庇うものがないなら受け流すまでもなくスラスラと避けられる。


 一連の攻撃を躱したら次はこっちの番だ。


 極東魔術「煙幕の術」


 一瞬で辺り一面に煙が広がる。昔極東の国から来たという本に書いてあったその名の通り煙幕をはる魔術だ。ウッタクルは木の体の幹の部分に目がついており視覚に頼っているのでこういった目眩しは有効だ。


 と言っても目眩しはオレにも有効でかなり視界が遮られのだがウッタクルの巨体は捉えやすい。煙の向こう側にその影が見える。


 ウッタクルは煙を払おうとしているのだろうか、それとも煙から出てくるオレを警戒しているのだろうか。その巨体ごと触手を無造作に振り回していた。


 実際その行動は厄介だ。煙を払われたら意味がない上、ああも体ごと触手を振り回されたら軌道も読めないし避けきれないので近づけない。


 なので止まってもらおうか。


「燃えろ!」


 触手に刺さったままのナイフに呼びかける。


 すると、ナイフの刃の部分が発火して触手ごと燃え始めた。木のような材質のその触手に火が伝播する。


 ウッタクルはその炎に動揺したのだろう。必死に燃える触手を地面に叩きつけて消火をしようとしている。消化に気を取られて他の触手の動きが鈍くなっていた。


 勿論、わざわざ作ったその隙を逃す理由はない。


 瞬時にウッタクルの後ろに回り込み、飛びかかった。その際に2本目のナイフを腰から抜く。


 ウッタクルの背中に足をかけその巨体を駈けるように登る。


 狙うはただ一つ、生い茂った葉に隠された心臓、コアだ。それは球体で樹冠の中心に隠されている。


 そのコア目掛けて頭の茂みに手ごとナイフを突っ込む。潜んでいた虫に噛まれるが致命傷になるわけでも毒があるわけでもない。痛いだけだ。


 そして煙幕を張ってから十数秒、突き出したナイフはウッタクルのコアを貫いた。自身の最大の弱点であるコアを貫かれたウッタクルは少し経ってから動きピタッを止め、そのままばさっと音を立て倒れた。その倒れた衝撃で葉がいくらか散った。

読んでいただきありがとうございます

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