6話 即席チーム
「はぁー」
起きて早々、深いため息が出た。
カバンから時計を出して見る。眠りについたのが22時で今が1時だから...3時間も寝たのか。疲れがあったからとはいえ少し緩んでいるな。
チラリと右に目をやる。オレと少し距離を取った場所で少女改めルナが大きく口を開けて寝息を立てている。
その姿を見て再びため息が出た。
端的に言うと彼女は記憶喪失だった。それも重症。ダンジョンどころかモンスターや魔術のことまですっかり。記憶喪失ってそんなことまで忘れるの⁉︎って感じのことまで。
恐らくはあの結晶に埋まっていた影響だろう。
魔術かアーティファクトか知らないが長いことアレの中で眠っている内に記憶が失われたというのがオレの推測だ。
ルナという名前はバッジの裏に掘られていたものだ。オレの知らない文字だったがルナは読めたらしい。バッジの裏に書いてんだから名前なんじゃねーのってな感じでルナという事になっている。まあ名前がないと不便だしな。
で、記憶喪失のルナにダンジョンや魔術、それとオレが置かれている状況とかを説明した後流石に疲労が限界だったので一旦寝て休憩することにしたのだ。寝込みを襲われても(こんな書き方するとなんだか卑猥に聞こえる)即座に起きて対処できる自信はあったしな。
そして起床、今に至るという訳だ。
しかしルナも寝ていたのか。ずっと結晶の中で寝てただろうに。
そのあどけない寝顔には少し愛嬌を感じた。
...オレは冷たい人間だ。基本的には他人よりも自分の安全を優先する。しかし目の前の死を平気で見過ごせるほど冷酷な人間でもない。
だから正直なことを言うと寝ている間にルナがどっか行ってくれていれば良かった。それなら余計な面倒ごとを背負わずに済んだのだ。
だが、こうなった以上腹を括るしかないだろう。
「おい、悪いが起きてくれ」
気持ちよさそうに寝ているルナの肩を揺らす。
「ふぁ、おはようございます...」
「はいおはよう」
おはようございますって...ルナは結構肝が据わっているのかも知れない。
「寝起きで悪いが話がある」
「はい、」
ルナは自分を包んでいた毛布(オレが持ってたやつ。一枚しかなかったが流石にいい歳した男の自分だけが毛布を使うのは忍びなかった)を端に寄せて正座をし、オレの方を真っ直ぐ向いた。
「寝る前にした話は覚えてるか」
「ここはダンジョンってとこでクロウドさんも私も脱出するのが難しいって話ですよね」
「ああ、転送石がないからな」
うんうんとルナがうなづく。
「それでオレは今からダンジョンを出るために上の階層に向かうわけだが...お前も一緒に来ないか」
「えっ、私?」
「そうだ、ここに残って助けを待ってももいいがそうなると食料がない。水だけなら用意できるがそれでももって3週間ぐらい」
「なるほど、助けがくるよりも餓死する方が先と...」
案外理解が早い。ちょっとアホっぽいかなと思っていたが早計だったかもな。
「救助が来るってのもまずオレが生還出来る前提だからな。それにここも絶対安全ってわけじゃない」
入り口はツタとかで分かりづらくなっていたが結界の効果は無くなっていたしいつモンスターに見つかってもおかしくない。
「それならオレと一緒に来れば多少は生還出来る確率も上がるだろうし食料もアテがある。それでも生還は難しいとは思うが」
「じゃ、じゃあ...」
「だがな」
返事をしようとするルナに待ったをかける様に言葉を被せた。
「脱出を目指すなら必ずモンスターと遭遇することになる。モンスターに殺されるのは悲惨だ。即死出来れば上出来。失血死で上々。酷いと寄生されたり生きたまま食われたりすることもある。その覚悟があるか?」
ルナの顔は恐怖で青ずんでいた。こんな話を聞いたら当然だろう。
酷い言い方だと自分でも思う。だがこれはダンジョンを歩くのならば必要な覚悟なのだ。場合によってはただの死では済まない、そんな覚悟が。
だが、そんな覚悟をこんな年端も行かぬ少女にさせるのは酷い話だ。
最悪、ここでゆっくりと死を待つのだって一つの選択肢になり得るかもしれない。そうすれば悲惨な末路は避けれるしオレが急げば死ぬまでに助けにこれる可能性だってもしかしたら...。
だがオレのそんな暗い思考とは違い、ルナの答えは勇敢なものだった。
「それでも、一緒に行かせてくれませんか」
ルナはオレの目を真っ直ぐ見て言った。
「...良いんだな?想像してる数倍は酷い死に方をするかも知れない。それに正直オレと来ても生還出来る可能性は僅かだぞ。」
オレがそう言い終えるとルナはスッと立ち上がってゆっくりと口を開いた。
「それでも、です。私はそれでも生きる可能性に賭けたい。どうせ死ぬにしても何もせずに死ぬよりも精一杯抗って死にたい」
「それに...自分が何者かも分からないまま死にたくないから!」
そう言って彼女はオレにニコッと微笑んだ。その顔を見て思わずフッと表情筋が緩む。
「謝るよ。君はオレが思っていたよりもずっと賢かったようだ」
そう言ってルナの方へ手を差し出す。ルナはその手をすかさずとり、2人で握手した。
「じゃあ行くか!」
「ハイ!」
こうしてオレたちは2人で建物を出た。
「...ん?ちょっと待って下さい。想像よりもずっと賢かったって...」
「もしかして私のことバカだと思ってました⁉︎」
限界ギリギリの冒険の仲間が増えた。
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