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63話 お風呂決戦

 ルナはスライムと距離をとって考える。


 一旦状況を整理しよう。ルナの勝利条件はスライムを倒すことだけではない。服を着れればクロウドを呼べるのでそれでもいいのだ。


 だがスライムは服の前に陣取っていてやすやると取ることはできない。結局スライムはどうにかするしかないのだ。


 しかしあのスライムの倒し方がルナは分からない。打撃は効かないならできることがないのだ。困ったルナはスライムを観察してあることに気がついた。


 (あの体の中にある球体は何だろう)


 スライムの半透明の体の中に球体が浮んでいる。体の中にあるのならば何か意味がある機関のはずだとルナは考察した。

 

 ルナはあれと似たようなものを見たことがある。ウッタクルのコアだ。ウッタクルの急所で一発で殺せるあれとスライムの中の球体はよく似ている。


 (もしかするとあれはスライムのコアなんではなかろうか。クロウド君は以前コアがあるモンスターはかなり多いって話していた。もしスライムもそうであの球体がコアならあれさえ壊せば倒すことができる......!)


 早速ルナはその球体を壊すため行動を起こす。直接手を突っ込んで破壊しに行くのはリスクが高いのでまず飛び道具を用意しようとルナは壁を殴って少し砕いた。ドガンと鈍い音が響く。


「今度は何の音だ!?」


 その音を聞きつけたクロウドが心配して扉の前から声をかける。風呂場から壁が抉れるほどの打撃の音が聞こえてくれば誰だって心配する。だがルナとしてはクロウドに真実を伝えるわけにはいかない。


「えっと、体洗ってたの!」

「体洗ってあんな音出るか!?洗い方乱雑すぎるだろ!?」


 咄嗟に考えた言い訳だったが違和感ありまくりだった。焦ったルナはどうにか誤魔化そうと喋る。


「お、女の子は大変なんだよ!デリカシーなさすぎ!」


 無論体を洗ってる途中に爆音を響かせる女の子などいない。これは誤魔化すための苦しい言い逃れだ。だがその言い逃れは思いの外深くクロウドに突き刺さった。

 

 (——女の子ってそうなのか!?今の発言はデリカシーがなかったのか!?)


 クロウドの今までの人生にはまともに女性との関係がない。精々カナンとサンディぐらいだ。その二人のことも女性だと思って接したことはない。つまり異性に対する知識は0に等しいのだ。ゆえに若い女子であるルナにデリカシーがないと言われてしまえばその言葉を疑いはしない。


「そ、そうか。悪かったな」


 クロウドはそう言って少し反省しながら扉の前から姿を消した。


 (よし、ごまかせた!でもあんまり長引かせると怪しまれるな。すぐに決めなきゃ)


 ルナは野球ボールほどの大きさの壁の破片をスライムに向かって思い切り投げつける。狙いはよく、それはこのままいけばスライムのコア(仮)に直撃するだろう。


 だがそれはスライムの体に食い込んだ後、コア(仮)に到達することなく溶けてなくなった。


 (全力で投げたんだけどな......どうすればいいんだろう)


 ルナは考える。


 (コア(仮)を破壊する方法は思いつかないや。他に弱点があればいいのだけれど......ていうか何でスライムは私のことを攻撃して来ないんだ?)


 スライムは最初にルナを攻撃した後、ルナが引き下がって距離をとってからは一向に攻撃していなかった。そのことにルナは気がついたのだ。


 (攻撃が届かないのは分かるけどそれなら移動して攻撃すればいいだけのはず。何か原因があるのか?)


 ルナは改めてスライムやその周辺を観察する。そうするとスライムがいる場所だけ濡れていないことに気がついた。


 (部屋はパイプや湯船から漏れたお湯で床全体が濡れているのにあの場所だけ濡れていない!)


 もっともルナは濡れていない場所に服を置き、そのすぐ近くにスライムがいるのだからそこが濡れていないのは当たり前なのだが、ルナはそこに攻略のポイントがあると踏んだ。


 ルナは試しに風呂からお湯を手で掬ってスライムにかけてみた。するとお湯がかかった場所がシューと音を立てて萎んだ。


 (ビンゴ!あのスライムはお湯か水に弱いんだ!だから濡れてない場所から移動できずあの場所に止まり続けていた。このままかけ続ければ倒せる!)


 だがそう上手くはいかない。スライムの体のお湯がかかった部分は一瞬萎んだがすぐさま元に戻った。


 (すぐに戻るなら少しずつかけても意味ないかも......もっと沢山かけたいけどバケツもないし......そうだ!)


 ルナは再び近くの壁の破片を掴んで投げた。それはスライムから大きく外れて空を舞う。だがそれでいいのだ。ルナが狙ったのは——


 (スライムの真上、天井のパイプだ!)


 部屋のあらゆる箇所に通っているパイプ。節々から湯が漏れているので中に湯が流れているのは分かっていた。


 壁の破片は見事パイプに当たり、パイプには穴が空いた。穴が開けば当然中のお湯が噴き出し、真下にいるスライムにかかる。スライムは無言でみるみる萎んでいく。


 放っておいてもスライムは死ぬかもしれない。だがルナは念を入れてコア(仮)を砕いた。


「完全勝利だ——!」


 こうしてルナは突如現れたスライムに対して勝利を収めた。


 だがしかし、無傷の勝利とはいかなかったことをルナはすぐに悟った。


「服も濡れてる......」


 ルナはびしょ濡れの服を前にただ立ち尽くした。

 

 

 


「じゃあオレもせっかくだし入っておくかな」


 風呂に入ってサッパリしたルナを見たクロウドは羨ましくなって自分も入ることにしたのだ。


「しかし何でアイツはびしょ濡れで出てきたんだろうか......タオル代わりの毛布持ってたよな」


 服も毛布もびしょ濡れになったルナは当然ビショビショのまま風呂を出ることなった。その姿をクロウドは不思議に思っていたのだがまたデリカシーがないとか言われたら傷つくのでスルーしていたのだ。


「まあいいか。それよりもオレも......って、何だこれ!」


 クロウドはそう言いながら扉を開いた。その瞬間、悲惨な情景が視界に入る。


 壁には窪みができ、天井のパイプは穴があき、地面には瓦礫が散らばっている。


 何があったのか。どうすればこんな惨状になるのか。不可解なことはいくらでもあったがクロウドはそれらの疑問を全てまとめて無理矢理結論づけた。


「女の子って色々あるんだな......」

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