61話 地下室
コツコツと階段を降りる足音が鳴る。女神像の下から現れた階段。壁画の地図には描かれていなかったその先をクロウド達は食料を求め、少しでもトラップなどの危険を感じたら撤退するという条件下でクロウドを先頭に3人は探索することにした。
中は明るく、マネキンのいた部屋のように灯りを用意する必要はない。ただ警戒しながら一歩一歩慎重に進む。そこに言葉はなく、ただひたすらに冷たい足音が響く。
そうして降りていくこと2分。階段は終わり広い部屋があった。クロウドがまず入り、トラップがあるかどうかの確認をしてからルナとイバンを中に招く。
「とりあえず大丈夫そうだ」
「やたら慎重だったね」
「まあな。こんなふうに隠されている場所はトラップがありがちだ。見られたくないものがあるから隠されてたわけだしな。万が一にも侵入されたくないってのが作った人間の本音だろうよ」
実際にダンジョンにはここの他に隠し部屋がいくつも発見されているがその半分近くはトラップが仕掛けられていた。ゆえにクロウドがいつも以上にトラップの警戒をするのは当然のことだと言える。
「マネキン達がいる可能性だってあったわけだし......まあ入り口付近になかった以上この部屋にはもうないと思っていいいだろう。少なくとも即死級のやつはな」
「じゃあここは危険だったわけだね......じゃあなんでここに入りだしたの?」
「確かにな。そんな危険があるのであれば他の部屋を探索した方が良かったのではないか?」
「......あーまああれだ」
隠し階段を見つけたのはルナだが探索しようと言い出したのはクロウドだ。食料を探すのならば地図はあるのだから他の部屋を探索した方が、少なくとも怪しさ満点の隠し部屋を探索した方が危険は少なかったはずである。そのことをクロウドは分かっていた。
「隠し部屋ってのは大抵何かしら残されてるからな。食料にしろアーティファクトにしろこの状況を打破できる物がある可能性は高かったんだ。トラップだってオレの技術があれば全て看破できる」
「なるほど!よく考えてるんだね!」
「ああうん......」
クロウドは「隠し部屋が単純のめちゃくちゃ気になったから」というもう一つの探索した理由は話さなかった。
「それはいいとして......肝心の中身だな」
クロウドは部屋を見渡す。そこは机と椅子がいくつか並べられており、奥は箱がいくつもあるリビング兼倉庫といった構造になっていた。壁の右脇には古びた扉が付いている。
まずクロウドは扉を開けて確認する。その先には巨大な生簀のような穴があり、そこ脇には蛇口が付いている。まるでそれは......
「お風呂だ!」
ルナがクロウドの後ろから顔を出す。その表情はにこやかで明らかにテンションが上がっていた。
「風呂か......まああってもおかしくはないが」
クロウドはその四角い穴の元へ歩き蛇口を捻る。するとそこから湯気を立てる水、お湯が勢いよく流れ出てきた。
「やっぱりお風呂だ!」
ルナはその光景を見て即座に駆け寄る。そんなルナを尻目にクロウドは流れるお湯に手をつけてその性質を確認した。
「......普通のお湯だな。まあここはスルーでいいか」
「え“浸からないの!?」
ルナはクロウドの顔を見る。目が合い、クロウドは困ったように目を逸らした。
「だってそんな呑気なことしてる場合じゃないだろ?」
クロウドはこの状況で風呂に入る意味が分からなかった。仮にも自分達は生死がかかった極限状態なのだから余計なことはすべきではないとクロウドは考えていたのだ。それゆえの言葉である。だがその言葉がルナの導線に火をつけた。
「な、何も呑気なことないよ!いい?衛生状態って大事だからね?どれだけ強くてもこんな場所で不衛生にしてたらいつ病気なるか分かったもんじゃない。だからその予防のために衛生的にしておくことは大事だと思うな!」
ルナが今風呂に入る重要性を熱弁する。クロウドは熱気に少し押され気味、というか引き気味だった。
一応クロウドは定期的にルナと自身に浄化魔術をかけているので外的要因で病気になるということはない。なので別に風呂に入る必要はないのだが、クロウドには新たな考えが浮かんでいた。
(まあここまでずっと気を張り詰めてきたし、リラックスになって疲労もとれるなら入る意味はあるか)
「分かった。ただ入ってる時危険があればすぐオレを呼べよ?こんな場所じゃ何があるか分かったもんじゃないからな」
「やったー!ありがとうクロウドくん!」
ルナはクロウドに顔を近づけて笑顔で礼を言う。その行動は距離が近すぎる気がしないでもない。事実クロウドは照れて目を逸らしてしまっている。だがルナにとって風呂に入れるという事実はそんな大胆な行動をしてしまうほどに嬉しかったのだ。
実は今までルナはずっと自分の匂いを気にしていた。7層でクロウドと合流した時もこの13層に飛ばされた時もずっと自分の匂いを気にしていた。ずっと体を洗えていない状況だったので年頃の少女としてはそれも当然かもしれない。
そんなわけなので石鹸もないとはいえ風呂に入れるのはかなりの吉報だったのだ。
「一応浄化はしとくか」
クロウドはお湯に手を入れて魔術で浄化する。一応念を入れておいたのだ。
とそこにイバンが扉を開けて入ってきた。
「おいお主ら。食料があったのだが......」
「ほんと!?でかした!」
「なんだと!?」
二人は腹を鳴らし、イバンに詰め寄る。ここしばらく食事をとっていなかったので二人は限界だった。
「食料は見つけたのがな......まあ着いてこい」
イバンはどこか歯切れが悪い。その歯切れの悪さをクロウドとルナは不可解に思った。しかしその理由はイバンについていくとすぐに分かった。
「これだ......」
部屋の奥。箱が並ぶ倉庫のような場所。そこの箱の一つをイバンが開け、その中身を露わにする。その中身には確かに食料が入っていた。果物、野菜、肉、パン、小麦。イバンは二人が風呂を探索してる間一人でこの箱を探っていた。そしてこれらを見つけたのだ。
だがその食料達はただ箱に入っていたわけだがなかった。
「え、何これ?氷?水晶?」
その食料達は箱の中で透明な水晶に包まれていたのだ。
「こ、これは......」
クロウドが恐る恐る水晶をなぞる。クロウドはそのそれに見覚えがあった。その記憶にあるものと一致しているのであれば指で触れればその水晶は砕ける。
そして水晶は砕けた。クロウドの見覚え通り、予測通りになったのだ。
クロウドは確信する。オレはこれを知っていると。あの時の——
「この水晶は......ルナを閉じ込めてたものと同じやつだ」
砕けて散らばった水晶片が小さく輝いた。
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