59話 マネキン-2
「一旦逃げるぞ......!」
大量の動くマネキン達を前にクロウドは叫ぶ。クロウド達がいる廊下は一本道。マネキン達は後ろにいるので必然逃げるならば前に行くしかない。クロウドの中では戦闘するという選択肢のないわけではなかったが、相手が未知の存在である以上ここは撤退するべきと判断したのだ。
だが......
「前からも来ているぞ!」
イバンが叫ぶこと同時に前方から迫るマネキンの群れがクロウドの視界に入る。廊下は一本道で前後から敵が来ている。それすなわち逃げ道はないと言うことだ。こうなっては戦闘は避けられない。
(なら戦闘を少しでもスムーズにする!)
クロウドはポケットから植物の種を取り出しそれに魔力を込めて後ろに放り投げる。その種は後ろから追ってくるマネキン達の目の前に散らばり、魔術が発動した。
促進魔術「森の贄」
魔術が発動した瞬間、即座に種は芽を出し蔓が伸び葉をつけ茂みとなりマネキン達に絡みつく。絡みつかれた最前列のマネキン達は拘束され走れなくなってその場に倒れ、それに続くように後方のマネキン達もつまづいて倒れていく。
その倒れたマネキン達が壁となりさらに後ろのマネキン達は進めなくなった。即席のバリケードの完成である。
「ルナ!今のうちに前の奴らを倒して突破する!」
「分かった!」
前方のマネキン達もそれなりに数はいるが後ろの集団よりかは少ない。邪魔になるマネキンだけ倒して最低限の戦闘でこの場を逃れることが出来るというのがクロウドの作戦であった。
不安要素はマネキン達の戦闘能力であったが、あの程度の蔓で拘束できるならば大した力はないだろうとクロウドは踏んでいた。
そしてその推測はおおむね正解だった。マネキン達はクロウドやルナとの戦闘になってもただその体で殴りかかるだけの単調な動きしか見せない。その上パワーがあるわけでもないので被弾したとしても少なくとも重症にはならない。これならば8層で遭遇したウッタクルの方が何倍も強かっただろう。
ゆえにこの戦闘で起こるのは蹂躙。ルナは「力」で蹴散らし、クロウドは培った堅実かつ圧倒的な実力で魔術を使うまでもなく一体一体丁寧に倒していく。イバンはとにかく逃げ回る。
そうする内に前に立ち塞がっていたマネキンは随分と減り、なんとか突破できるぐらいの数になっていた。
「結構倒したけど!」
「そうだな!そろそろ突破して......」
そう言いかけたクロウドの足を何かが掴んだ。
「......!」
クロウドは反射的に足を掴んだ手を振り払い、そこにいる存在を目視で確認する。
「なぁ.....!?」
そこにいたのは、クロウドの足を掴んだのは、先程倒したはずのマネキンの一体だった。その頭はクロウドのナイフで突き刺され穴が空いている。常識的に考えれば絶命しているはずだった。
だがそんな薄っぺらい常識はダンジョンに通用しない。
「な......!倒したはずのマネキン達が......再び動き出している.....!」
頭が砕けたマネキンも、胸に穴が空いたマネキンも、それでも等しく動き出す。そして己の体に入った傷など関係ないという調子で再びクロウド達に襲いかかる。
ここでクロウドは自身が思い違いをしていたことを理解し、痛感した。
クロウドはこのマネキン達のことを「人形に擬態したモンスター」であると推測していた。なのでマネキンの姿をしていようと急所はありそこを破壊すれば絶命すると思い違いをしていたのだ。
(だが実際は真逆......!急所もなければモンスターでもなく、そもそも生物じゃない!おそらくコイツらは目的を持って動く自律人形なのだ......!)
マネキン達は生物ではない。ゆえに命はなく死もない。四肢が動く限りはどれだけ傷つけても標的に襲いかかるだろう。
マネキン達は弱い。例え数を揃えても実力者相手であれば一蹴されるだろう。だが弱いことと厄介だということは矛盾しない。
このマネキン達は強さこそないが動ける限り動き続け標的を追い詰める殺人人形なのだ。
(コイツらの正体はアーティファクトか......?だとしたらなんの目的でこんなに大量に?いや、そんな考察は後でいいな。今はこの現状を打開する!)
マネキン達の動きを止めようと思えば動けないレベルまでバラバラにするしかない。しかしこの狭い廊下で大量の数、また後ろのバリケードもいつ破られるか分からない状況で悠長にはしていられない。そこでクロウドは一計を案じた。
「ルナ!こっちに来てくれ!あとドラゴンも凍りたくなければ来い」
ルナとイバンがマネキン達の間を縫ってクロウドの側へ集まる。
「凍るとは何の話だ」
「まあ見てろ」
襲いかかるマネキンを迎撃しながらクロウドは魔術を発動させる。
自然魔術「氷の霧」
あたりの温度が下がり、白い霧が舞う。それらに晒されたマネキンは表面から凍りつき、だんだんと動きが鈍くなって最終的には静止した。
「凍ってる凍ってる!」
「大丈夫だから」
ルナが叫ぶ。この「氷の霧」は周辺をまとめて凍らせる。ルナやイバン、術者であるクロウドだって例外ではない。皮膚がすこしずつ凍りつき、いずれ凍死するだろう。
だがそんな弱点はクロウドは把握済み。対策は用意していた。
「燃えろ!」
クロウドは発炎刀に魔力を込め起動させる。そうすると炎が上がり熱がクロウド達の体を温めた。
「今のうちの逃げるぞ!」
その瞬間後ろのバリケードが崩れ、後方のマネキン達が再びクロウド達の迫り始めた。
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