58話 マネキン
石造りの廊下を歩く。ここ13層は廊下や部屋が入り組み迷路のようになっていた。廊下が色々なところに分岐してその側面の壁に扉があり、その先に部屋があったり新たに廊下が現れたりすることがある。
まあ要するにこの階層は......
「めんどくせぇ!」
クロウド君が叫ぶ。いや、叫ぶと言ってもモンスターにバレてはいけないので大した声量ではないのだが。
「どんだけ入り組んでんだよこの階層は⁉︎いつまで経ってもこんなん脱出できんぞ!」
そう言ってクロウド君は手に持ったペンを床に投げつけようとしてやっぱりやめた。はたから見てるとヒステリックだ。だけど気持ちも分かる。ここは道が色んな方向に入り組んでて進んでも進んでも進展してる気がしない。マップを作りながら歩いているクロウド君は特に苦痛に感じるだろう。
だけど悪いことばかりでもない。
「でもここは全然モンスターいないし気長にやればいいんじゃない?」
私達はこの層に来てから1時間以上歩いているが一度も接敵していない。イバンは魔力感知を使えないが、それでもこの層はモンスターが極端に少ないのが容易に推測できた。
「そう言った油断は危ないからやめとけっていうのと......むしろモンスターいない方がマズイかもしれないぞ」
「?」
どういうことだろう。モンスターがいなければ殺される危険もないだろう。いないに越したことはないはずだ。
「オレ達は今食料がない」
「あ!そういえば!」
いろいろとあって失念していた。残していたフットフィッシュの肉は7層をふらついている時にすでに食べてしまったのだ。
「いざとなればいけそうなモンスター食えばいいと思っていたがいないものは食えない。おまけにこの層は今んとこ全部石造りだから自然もない。このままだと餓死コースだぞ」
「ど、どうしよう!」
言われてみれば確かにここには食べれそうなものが全くない!せっかく頑張って戦ってきて餓死で終わるなんて嫌すぎる!途端に緊張感が出てきた。さっきまで実は「モンスターいないし案外余裕あるなw」なんて考えてたのに今では必死に生き残る方法を考えている。
「まあどうしようもなくなったら一つだけ方法がある」
「何その方法って⁉︎」
私は間髪入れずに聞く。なんだクロウド君はすでにどうにかする方法を考えていたのだ。さすがと言ったところ。頼りになる。
「ルナ。ドラゴン肉って興味あるか」
「おい!」
イバンが咄嗟に声を上げる。前言撤回だ。死にそうになったから友達食うのはエキセントリックすぎる。
その時ふと壁についた扉が目に入った。
「ちょくちょくある扉の先の部屋を探索すればなんか見つかるんじゃない?」
クロウド君はうーんと首を傾げて少し唸ったあとうなづいて言った。
「そうだな。トラップがある可能性もあるから余計な場所に入らないようにしていたが、そうも言ってられる状況じゃないか」
「じゃあ早速開けて中に入ろう!」
私は早々に扉を開く。中は部屋になっていた。扉の先も廊下って可能性だってあったわけだから良かった。だけど暗くて中がよく見えない。
「下がってろ」
クロウド君が私の肩を持って前に出る。そうして手のひらを暗闇にかざし、そこからライトのように光を出した。魔術の一種だろう。少しシュールだ。
「これは......!」
「なんだ?」
イバンとクロウド君が光の先を見て驚愕を覚えている。なんだろうか。私もその光の先、暗闇の正体を見ようとクロウド君の後ろから顔を出した。
「なにこれ!」
そこには真っ白な人形。マネキンが所狭しと並んでいたのだ。その無機質さは不気味さを際立たせる。軽くホラーだ。
マネキン達に目はない。だがなぜかジロジロと見られているような感覚に陥る。ゾッと背筋を寒気が縦断する。
「い、一回出るぞ......!」
クロウド君のその言葉を受けて一番後ろの私を筆頭に部屋から出る。私が出て、次にイバンが出て、最後にクロウド君が扉を潜る。その時だった。
ウィーーーーという警報音のような機械的なサイレンが辺りに鳴り響く。その爆音は思わず反射的に耳を塞いでしまうほどの音量と不快さを誇っていた。
「なになに⁉︎」
一同は困惑に包まれる。だけどとにかく危険が迫っている。そのことだけは私もイバンもクロウド君も直感的に分かっていたと思う。
「と、とりあえず来た道を戻って......」
そのクロウド君の言葉に促され後ろを振り向く。その瞬間周囲の扉が一斉にバンと音を立てて開いた。
そしてソイツらは出てきた。真っ白な表面。無機質な体。白紙の顔面。さっき部屋にいたマネキン達と全く同じ姿だ。
「なんだこいつら......」
マネキン達が動いている。その不気味な光景に思わず後退りする。そこにイバンの声がかかった。
「おい!こっちもマズイぞ!」
声の方を振り向くとさっき覗いた部屋からもマネキン達がゾロゾロと出てきていた。
大量のマネキン達が不器用で無機質で不気味な動きをしてこちらに迫る。なにが起こっているのかは分からない。だけど一つだけ分かることがある。
「......一旦逃げるぞ!」
私達は今、正体不明の敵と接触してしまったのだ!
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