57話 気を取り直して
「オレ達が今いるここは深度約1200m。カナリヤ迷宮地下第13層。遥かに深く、今まで人類は辿り着いていなかったダンジョンの深淵だ」
クロウド君は私の目を見据えてそう言った。その額には暑くもないのに汗が滲んでいる。
「つまり私たちが帰るには......」
「未知の層をわたる必要があるな」
「それって......厳しいんじゃ?」
「当然そうだな。今までは既存の攻略された層だったから絶望的と言ってもまだ希望はあった。だがここから地上を目指すっていうのは人類が攻略出来ていない13、12、11層を実質的の攻略する必要が出てくる」
えぇ......。絶句だ。今まででも厳しい冒険だったのにそれよりも難しい冒険になるというのだ。さらにそこに悪いニュースが重なる。
「あと我はしばらく魔術を使えないからな」
イバンがこちらを見ずにそう言う。それってまずいんじゃないか?
「な、なんで......⁉︎」
「強力な魔術を使ってな。その反動だ。魔力感知も治癒魔術も使えないものだと思え」
「そんな......」
イバンが魔力感知を使えないということは敵の場所が分からないということだ。ただでさえ未知の場所だというのに敵の場所が分からないのにそれではいつ接敵するかも分からない。
「そんなちっこくて魔術も使えないんじゃお前マジでいる意味ないよな」
「貴様誰のおかげで薬が手に入ったと思っているのだ」
「あ?ルナのおかげだろうが」
「そのルナは誰のおかげで助かったと......!」
「それやめてよ!」
この二人は放っておくと喧嘩する。仲間ではないらしいけど敵でもないのだからもっと仲良くすればいいのに。
「それよりもこれからどうするの?」
クロウド君は腕を組んで少し目をつむって考え始めた。
「まあ......進むしかないだろうな。地道にマップを作りながら上への階段を探すしかない」
クロウド君はそう言い終わるとため息をついた。疲れているのだろう。だがきっとそれだけが原因ではない。この絶望に絶望を重ねた状況に嫌気がさしたのだ。
私だってそうだ。記憶もなくて、そのまま何も分からずに死ぬなんて嫌だ。でも状況は希望を持てるようなものではない。7層のような場所を知識なしで何層も突破する必要がある。うーん。文字だけで絶望感が漂う。
場にしんみりとした硬い空気が流れたのち、それを飲み込んでしまうようにクロウド君が深呼吸をした。
「よし!なんかワクワクしてきたな!」
クロウド君はそう言ってガッツポーズをした。私はその感情が分からず固まってしまう。
「だってそうだろ?人類未到ってことは俺たちがここに一番乗りだ!ここから情報を持って帰れれば報奨ものだぞ」
だけど足は少しだけ震えている。疲労によるものか恐怖によるものか。きっとそのどちらもだろう。本当は怖くて、限界で、それでも弱音を吐かないように自分を奮い立たせているのだ。そして奮い立たせているのは自分だけじゃなくて、きっと私のことも思って。
私はぎゅっと胸の前で拳を握る。そんな姿を見せられては私も頑張るしかないではないか。
でももしかすると......
「そもそもオレはダンジョンの攻略がしたくて冒険者になったんだしな!ほらルナもガッツポーズだ」
「えー、分かった、ワクワクだ!」
ワクワクしてきたってのは本当のことなのかもしれないな。私もともにガッツポーズする。
「イバンも一緒にやろうよ!」
「やるわけないであろう。何やっとんだお主ら」
私がイバンを誘うが、冷たくあしらわれる。だけど一人だけ仲間外れにはさせない。楽しいけれど恥ずかしいは恥ずかしいのだ。イバンも道連れだ。
「ほら、腕こうやって」
イバンの体を抱っこするように持ち上げて腕を掴む。そうして無理矢理ガッツポーズをさせた。
「や、やめろルナ!貴様不敬だぞ!」
「へへへ、一人だけ逃れようったってそうはいかんぜ」
「ええい!いいからおろせ!」
イバンの叫びがその地下深くに響いた。
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