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56話 閑話-6

 カナン達は6層の湖を渡り切り、7層への階段へと辿り着いた。


「はあ、はあ、なんとかね」


 背後の湖のふちではトビピラニア達が跳ねてガチガチと歯を鳴らしている。


「二人とも怪我はない?ある程度なら治療できるけど」


 ユークがカナンとダルトに向かって聞く。ユークは初歩的な治癒魔法を使えるのでこのパーティの回復薬も兼任しているのだ。


「俺は大丈夫や」

「私も。それよりクロウドは近くに居そう?」


「今調べるよ」

 カナンの質問に答えるため、ユークは魔法の準備をする。クロウドが長年使用している財布をカバンから取り出し、それに魔力を込め呪文を唱える。


「白きツクモの精よ。己が主の鼓動を示したまえ」


 魔法「尋ね人の鼓動」


 魔法が発動する。この魔法は人が長く使った所有物を使ってその持ち主を探す初歩魔法。持ち主の魔力が魔法の範囲内にあれば反応する。


「うん。少なくとも6層には居ないね」


 魔法の結果反応は無し。魔法の効果範囲からユークはこの層には居ないと判断したのだ。


「てことは7層よりも下か。途中ですれ違ったのだとしてもクロウドなら6層の入り口で私達を待つはずだからこれよりも上に行くはずはないし」


「どうする?ここでクロウド待つってのも一つの手だとは思うが」

「いや、先の進んで迎えに行きましょう。定期的に魔法使ってればすれ違うこともないでしょ」


「「了解」」


 そうしてカナン達は階段を降りて7層の探索を始めたわけだが、それは一瞬にして見つかった。


「ふたりとも!今魔法を使ってみたんだけどクロウドの魔力が近くにある!」


「何⁉︎居るのか?クロウドが」


「いや、崩壊地帯の近くに魔力が残っているだけだ。本人は別の場所にいると思う」


「崩壊地帯?なんでそんなとこ行くことになるのよ」


「分からない。だがそこに行けば本人はいなくとも手がかりは見つかるかも知れないぞ」


 ユークはそう言ってカナンに判断を仰ぐ。だが答えは聞く前から分かっている。カナンはユークの期待通り考えることもなく即答した。


「当然そこに行くわよ!」


 カナンはどこか遠くを指差して進み始めた。


「そう来なくっちゃ」

「やな!」


 カナン一行はクロウドの魔力が残る場所。魔法陣のある家まで進み始めた。だが出発の前にユークがずんずん進むカナンに一言叫ぶ。


「カナン!道そっちじゃないよ!」

 それを聞いたカナンはそそくさと二人の場所へ戻った。

 



「ここが魔力が残ってる場所だ」


 そこは魔法陣があった元家。今では瓦礫と化してしまっている。


「この瓦礫の下だ」


 3人で協力して瓦礫を除ける。瓦礫を一つ退ける度、徐々に魔法陣が顔を出してきた。


「これは......転送の魔法陣やな。それも一方通行のやつや。これにクロウドの魔力が残ってるってことは......」


「使ったってことね」


「アイツがそんなリスキーな賭けをするかな」


 ユークが首を傾げる。クロウドは一流の冒険者ゆえにかなり慎重、むしろ臆病と言えるほど奥手だ。。そんなクロウドがこんなどこに飛ぶかも分からない魔法陣を使うだろうかという当然の疑問であった。


 だが真実は単純。カナンはすでにその理由を見抜いていた。


「そんな賭けに乗らざる得ない状況だったってことでしょ。そうなる要因なんてダンジョンにはいくらでも転がってる」


 そのカナンの推理を聞いてユークとダルトは納得したようにゴクリと唾を飲んだ。


「じゃあどうする。この魔法陣を作動させれば追いかけることは出来るけど」


「だけどあまりにも危険すぎる。最悪転送した瞬間トラップにかかっても即死なんてこともあり得るわけだし」


 そんなリスクを仲間に負わせる訳にはいかない。それは隊長であるカナンの冷静な決断だった。


「なら私一人で行って......」


「待てよ!カナンだけにそんな危険背負わせる訳ないだろ」


「俺にいいアイディアがあるで」


 ダルトはそう言って召喚魔術を発動させる。出てきたのはブラックドッグとの戦闘で自爆した霊犬ハチだった。


「ワ、犬!」


 カナンは召喚されたハチの元へ駆け寄る。そしてニヤニヤしながら頭を撫で始めた。


「生きてたのね!」

「いや、死んでたで。今召喚生き返っただけや」

「......そう」


 まあそんなことはどうでもいい。ダルトはそう言ってハチを魔法陣の上に移動させる。


「何するつもりなんだ?」

「まあ見とけや」


 ダルトは魔法陣に魔力を込めて転送魔術を発動させる。


「え」


 ハチの姿は瞬時に消え、転送された。カナンとユークは唖然として魔法陣の上の空を見つめる。


「お、おいお前!安全かどうかも分からん場所にあの犬送ったのか⁉︎」


 ユークはダルトにつかみ掛かって言う。だがダルトは一切悪びれた様子もなく「そうやで」とうなづいた。


「だって召喚獣ってそう言うもんやろ?人間送るより安全や」


「ええ......」


「でもなんでそんなことを......」


 その問いにダルトはふっふっふとニヤけながら答える。


「なんと俺は自分の出した召喚獣の状態が遠くからでも分かるんや!そしてハチは今怪我一つない」


 カナンとユークは一瞬呆気に取られ、それから間も無く理解した。


「そうか!ハチが無事だからとりあえずの安全性は担保されるってことね!」


「そういうことー!少なくとも即死するってことはないはずや」


「なるほど!」


 そう、転送されたハチの状態から転送先の危険性を判断するという今考えたダルトの策である。そしてそれは見事にハマり転送先の安全性はとりあえず担保された。


「やるじゃないダルト!下がってた好感度が持ち直したわよ!」

「俺なんか嫌われるようなことしたか?」


 ダルトには一切心当たりがなかった。彼の感性は少し普通のそれとはズレている。厄介なのは本人がそれを自覚していないことだ。まあそんなことはどうでもいい。


「とりあえずこれで魔法陣を使える。クロウドを追いかけることができる!」


 だが魔法陣の先はとりあえず即死しないというだけで何が待ち受けているかは分からない。もちろんそんなことは3人とも理解している。だが迷いはない。覚悟など必要ない。


「じゃあ行きましょ!」


「ああ、そうやな」


「クロウドにはなんか奢ってもらわないとな」


 3人が魔法陣の上に乗る。それが続く先はクロウド達がいる第13層。人類未到の未知の領域。敵も味方も何が待ち受けるかは一切不明。


 だがそれでもカナン達は怯まないだろう。道の先の暗闇が未知であるほど冒険者という人種は燃えるのだから。


 そして魔力は込められ、魔法陣は発動した。

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