55話 閑話-5
カナン達が迷宮に潜ってから2週間がたった......!
「やっと6層までこれたな」
カナン達はその2週間で一層から5層を踏破し、今ようやく6層に辿り着いたのだ。
「流石にクロウドなしでここまで来るのは骨が折れたな......」
3人は、特にユークとダルトはかなりボロボロになっていた。カナン達はこれでも現状ギルド内で最強のパーティ。道中のモンスターには負けはしない。だがダンジョンの攻略というのは腕っぷしが強ければ楽というわけではない。
トラップに引っかかったり、集団のモンスターに襲われたりすればそれなりに消耗するのである。
「クロウドがいればもっと余裕持てたんだけどね。まあ言っても仕方ない。それより今は目の前のことでしょ」
カナンは眼前に広がる巨大な湖を見据える。これが6層の正体。6層は巨大な湖とそれに浮かぶ浮島だけで構成されているのだ。それゆえに6層を踏破しようと思えば、クロウドを含む一部の魔術師が使える高度魔術「水上歩行」が必要だったのである。
だが今はクロウドはいなく、「水上歩行」を使える魔術師も全員出払っている。なので渡るためには別のアプローチが必要なのだが、それはユークが用意していた。
「なあ二人とも、本当にやるんか?」
ダルトは心配そうに二人に聞く。だが二人は既に覚悟をきめていた。
「ここまで来たんだ。やるしかない。お前も腹を括れ」
「そうよ。文句はクロウドに言って」
二人はじっとダルトの顔を見る。ダルトはぐっと悩んだのち、その視線に根負けした。
「分かった。俺もいい加減腹括るわ」
そうしてダルトはお手上げのポーズをした。
「作戦の内容は分かってるな。じゃあやるよ」
ユークはブツブツと呪文を唱え始める。魔法を発動させるのだ。
「それは全ての生命を支える概念。豊かなる大地を生み出し、自然の輪廻を廻すもの。我が命により一時その法を我が支配下におこう。我に従え!大地の力よ!」
魔法「冷厳なる大地の力」
魔法が発動し、ユークの足元の湖が凍り始め、氷の道ができる。ユークは今熱を操っている。水から熱を取り出すことによって水が凍るというわけだ。
「よし、これで氷の道を作り出しながら進むから着いてきてくれ」
ユークはそう言って道を作りながら湖の上を進む。ダルトとカナンはそれに続く。
そう、ユークの作戦とは魔法で氷の道を作ってそこを渡るというシンプルな力押しである。6層は他の層に比べて特別狭く、7層への階段まで5kmしかない。なのでこういったゴリ押しの作戦が可能なのだ。だが道を作るにもユークの魔力には限度があり、必然魔力を持たせるために道はそれなりの細くなってしまうが難点。もしも道から落ちたりモンスターに襲われたりしたら呆気なく死にかねない危険な作戦なのだ。
「うわっけっこう滑るな」
「まあ氷の道だからね。落ちて襲われたら助からないだろうから気をつけてね」
「......ああ」
この湖には凶悪な水中モンスターが生息しており、落ちれば一瞬で引きづり込まれない。
そうしてユークを筆頭にゆっくりと移動し続け一つの浮島に辿り着いた。
3人はそこに上陸して一休みする。
「ふう、これで一段落。無理のある作戦かと思ったけど案外楽勝だね」
「ああ。モンスターに襲われたらひとたまりもないが案外襲われねえしな。なあカナン」
お気楽な二人だが、それとは対照的にカナンは顔をしかめていた。その手には地図が広げられている。
「ねえ、こんな浮島地図にも記憶にもないんだけど......」
「え?」
「ほらみて?ここには何もないはずなのに......」
「ほんとやな。確かにこんな島前はなかった気がするわ」
しんと空気が固まる。カナンは恐る恐る島の地表に手をかざす。そして納得したように立ち上がった。
「ユーク。今すぐ魔法の準備を」
「......何か分かったのか?」
カナンがコクリとうなづく。
「この島、モンスターだ」
「!?」
その瞬間、島が、いや、モンスターが動き始める。その揺れで乗っていた背中から振り落とされた。
「うわああああ!」
ユークが高速で呪文を唱える。魔法が発動して氷の床ができ、そこに3人とも落下した。
3人は立ち上がり、それを見つめる。
その巨体はクジラ。普通のクジラと違うところは大きな牙が生えており目が血走っているところだろうか。少なくとも人間と仲良くできるタイプのモンスターではないだろう。
「ええとカナン、ダルト。アイツ倒せそう?」
「無理。足場悪すぎ」
「右に同じや」
「つまりは......」
3人は顔を見合わせて、うんとうなづいた。
「逃げろー!!!」
そうしてユークを先頭に、全速力で駆け出したのだ。クジラはユーク達を追う。水上なので当たり前だが水中生物であるクジラの方がユーク達よりも速い。
「どうする⁉︎このままじゃ追いつかれて美味しく頂かれるけど⁉︎」
「魔法でなんとかできないの⁉︎」
「無理だ!ボクは道を作るので精一杯!」
「なんとか隙を作り出せたら私が仕留めれるかもしれない!」
「よっしゃ!俺に任せい!来い!霊雀シタキリ!」
ダルトがそう言って魔獣の毛を投げると、それが小さな雀に変わる。
「あのクジラの目に特攻や!」
シタキリはダルトの命を受けると無言でクジラの目に特攻した。そのままシタキリのクチバシがクジラの右目に刺さる。クジラはそれに悶え、動きを止めた。
「よし!これで充分!」
カナンはそう言ってクジラの上に飛び乗る。
「デカすぎて分かりにくいけど......脳斬られたら死ぬでしょ!」
カナンは腰に刺した剣を抜き、目にも止まらぬ速さクジラの頭を切り刻み始めた。
「ぎャアアアオオオ」
クジラの悲痛な叫び声が周囲に響き渡る。だがカナンは剣撃を止めない。
そして数秒も経たない内にクジラは絶命し、その巨体はグッタリと動かなくなった。
「危なかったな」
「そう?わりと余裕だったけど?」
カナンは腰に手を当てて得意げに笑った。一向は祝勝ムードになっていた。しかしそんなカナン達に新手が忍び寄る。
水中から魚が飛び出してカナンに噛みかかったのだ。カナンはそれが噛み付く前に反射神経で真っ二つに斬った。
「え?何こいつ」
「そいつはトビピラニア。この湖に住む一般的な魚モンスターや。集団で狩りをするのが特徴やな」
ダルトがここぞとばかりに自分の知識で魚について解説する。その説明でユークがあることに気がついた。
「待てよ?集団で狩りをするってことは......」
ユークが周りを見る。その目には細い氷の道の外の脇に無数の魚の影が浮かんでいるのが見えた。
「あ、さっきのクジラの叫びで集まってきたんだ」
ユークがそう結論づけた瞬間、トビピラニア達が一斉に水中から飛びだし、そのまま空を切って3人の元へ飛びかかる。トビピラニアが集団で狩りに来たのだ。
「に、逃げろぉぉ!全部を撃退するのは無理がある」
ユークの言葉は正しい。ここは湖の上。トビピラニア達のホームにして陸の生物には戦いづらい場所。いくら熟練の冒険者であるカナン達でも戦っていればその内食い殺される。ここは逃げるしかない。だが水中のハンターであるトビピラニア達は獲物を簡単には逃がさない。カナン達とトビピラニアによる氷上のデッドレースが今始まる......!
「わあアアアアアアアアア!」
そうしてカナン一行はトビピラニアが水中から飛びあうなか氷の道を走り続け、ボロボロになりながらも7層の階段へと辿り着くのであった。
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