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52話 深淵へ

 そして時はクロウドが倒れたルナとイバンを目にしたその時に戻る。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 な、何があったんだ......!ルナとドラゴンは倒れ、周囲には焼けたマジックデッドの死体が散らばっている。何が起こればこんな状況になるのだろうか。


「いや!今はそんなことを気にしてる場合じゃないな!」


 オレは急いで二人の元へ駆け寄る。辿り着いたらしゃがんで脈を確認する。どうやら二人共生きているようだ。呼吸もしているしな。


「おい!大丈夫か!何があったんだ!」


 ルナを起こそうと肩を揺さぶる。だが反応はない。ルナは「力」の影響で体が丈夫になっているはず。外傷もない。恐らく気絶の魔術あたりに当たって意識を失っているのだろう。


 なんとか起こそうとしているとルナの手の中に瓶があるのが目についた。


「これは......特効薬⁉︎」


 瓶の端には掠れかけではあるが確かに薬の名前が書かれてある。確かにリビングデッド化を防ぐ薬、特効薬だ。間違いない。見つけてくれていたのか。


「ありがとう......」


 ルナに感謝を述べ瓶を開け、中の液体を口から喉へと流し込む。この薬の良いところはその効能が効く早さだ。1分もすれば体の中に入ったクイーンスパイダーの魔力は消え去るだろう。


 しかしそれはいいがルナは相変わらず起きない。魔術の影響で意識がないのだとしたらこれ以上起こそうとしても今は無駄かもしれないな。


 ならこっちだ。

「オイ!起きて色々説明しろ!」


 眠るドラゴンにまず声をかける。それで起きなかったので頬を引っ叩いてみたり尻尾を掴んで振り回してみたりする。だが起きない。コイツも外傷はないのだが魔術でやられたのだろうか。


 どうするか。ここではいつモンスターが来るか分からないのでとりあえず安全な場所に移動させるか。


 オレはそう考えてルナを担ごうとしたその時。今までにない悪寒が体の内側を走った。ゾッと冷や汗が噴き出す。


 理解したわけではない。確証があるわけでもない。ただオレの無意識が微小な振動だとか空気の震えだとかを感じとって警戒のアラートを出したのだ。生命の危機が近づいてきていると。


 生命の危機を無意識に感じる存在。そんなものこの層にはクイーンスパイダーしかいない。ヤツが近づいているのだ。


 オレはそのカンを信じて行動に移す。昔から悪いカンだけは当たるのだ。ルナを素早く担ぎ、ドラゴンを見る。


 正直言ってルナだけでもそれなりには重い。ここにドラゴンまで背負ったら逃げるスピードが遅くなるだろう。なに、コイツは所詮モンスターだ。見捨てたって......


『じゃあ二人共和解の握手ね!』


 途端にルナの言葉が鮮明に蘇り脳を刺激する。ああもう、仕方ない!オレはドラゴンも次いで背負った。


「ぐ......やはり重いな」


 オレだって意識があるだけで割と重症なのだ。脇腹とか斬られてるからな!もう少し傷が深ければ内臓出てたからな!そんなオレが一人と1匹担ぐって結構ヤバイからな!


 なんて文句を言ってもしょうがない。オレはオレにできることをやらないと。とりわけ今の目標はクイーンスパイダーに見つからない場所まで移動することだ。


 だがそれはかなり厳しいミッションになりそうだ。オレは振動が強くなっているのを感じ後ろを振り向く。


 そこにはこちらに迫るクイーンスパイダーの姿が既に目視で確認できる位置にあった。


 思ったより早かったな。ていうか迫るスピード速くないか?心なしか怒っているような......


 そうこうしている間にクイーンスパイダーはこちらを補足したようだ。明らかに目があった。


 目があったってヤバくね?


 クイーンスパイダーはさらにスピードを上げこちらに迫ってくる。これマジでヤバイ!今針攻撃とかされたら避けられないぞ。それにまだ魔力が回復していないからろくに魔術も使えない。


 とにかく今は全力で走って街の方へ脱げることしかできない!オレは懸命に疲労した足を動かす。地面を踏み締めるたびに脇腹の傷が酷く痛む。イッテーけど今は我慢だ。


 これで2度目のクイーンスパイダーとの追いかけっこ。今度こそ逃げ切ってみせる。もちろんクイーンスパイダーの方がスピードは圧倒的に速いが距離はかなり開いている。このまま街へ逃げ切り隠れれば勝算はある。


 そしてその思惑通り順調に街の中へ逃げ切り家の中へ隠れることができた。


「これで一息だな......」


 傷と疲労の影響でこれ以上動くのは無理だ。二人を背負っていくなんて尚更のこと。これで見つかれば終わるな。


「もし見つかればこの二人を囮にして逃げるか」


 なんてもちろん冗談だ。ドラゴンはともかく仲間を見捨てて逃げるなんて良心が痛む。それで地上へ戻れても碌なことにならないだろうしな。そもそも動けない。


 見つかればここで命を散らす覚悟。まあそんな覚悟は遭難した時点でしていたので問題はない。


 その時、巨大な振動が鳴り響き、家の壁が崩れた。その穴から巨大な死神の目がこちらを覗き込む。


 どうやら偶々ではなくピンポイントで見つかったようだ。まるでオレ達の場所が分かっていたかのようだ。


「ははは......探知魔術でも使えるようになったか?」


 恐らく使えるようになっただろう。クイーンスパイダーは無意識でシールドを常に使っている。それと同じ原理でドラゴンの使う探知魔術(イバン流に言うと感知魔術)を参考に、それと似たような、魔術とも言えない原始的な技を超動物的な本能で覚えたのだろう。


 別に驚くようなことではない。この怪物はそのくらいやるんじゃないか。オレは半ば投げやりにそう結論づけた。


「もう逃げ道もねえし......」


 オレが諦めてそう言った瞬間、ドラゴンが口を開いた。

「あるではないか。逃げ道は」


 意識を取り戻したのか。だが逃げ道とはなんのことだろう。


「なんだよ逃げ道って」


「状況はある程度理解できるが......アレのためにここに逃げ込んだのではないのか?」


「あ......?」


 ドラゴンが指を指したその先には、魔法陣があった。それ見て記憶が蘇る。


「ここあの時の!」


 そう、ドラゴンの案内で崩壊地帯へ行く前に寄り道した転送魔術の魔法陣のある家だ。


「そうか!それなら!」


 家は半壊しているが魔法陣は無事だ。ここに魔力を流せばどこかは分からないが確実にここではない場所へワープできる!


「ヨシ!やるぞ!」


 魔力は逃げる途中に少しだけ回復した。早速魔法陣に魔力を流す。ドラゴンもルナを引っ張って魔法陣の中へ来た。


 これであと数秒でここから逃げられる。


 だがクイーンスパイダーがそれを見逃すはずがない。今まではただこちらを見ていたがオレが何かをし始めたのを察したのだろう。針を射出してきた。


 そしてそれは「クロウド」を貫く。だが「オレ」ではない。貫かれた魔法陣の外の「クロウド」はフッと消える。そう、貫かれた「クロウド」はオレが出した幻影だ。実はオレは魔法時に魔力を流す前、多少回復した魔力で何体も自分の幻影を出して突っ立たせていたのだ。所詮はクイーンスパイダーも動物。簡単に騙されてくれた。幻影魔術「蜃気楼」初めて役に立ったな。


 そして時は満ちた。クイーンスパイダーは家を完全に潰し、崩壊した瓦礫が頭上から降り注ぐ。だがそれらがオレ達じぶつかる直前。魔法陣は発動した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

「うーん」


 気怠げに目が覚めた。よく寝た気がする。


 私は確かイバンを庇って魔術に当たって......そうだイバンとクロウド君は!


 バッと周囲を見渡す。すぐ近くにクロウド君もイバンもいた。


「よかった。無事だったんだ......」

「まあなんとかな」

「うむ」


 しかしここはどこだろう。7層とは様子が違うような気が......。そもそも戦いはどうなったの?


 それらを声に出して聞く。二人はすでにその答えを持っているようだった。クロウド君が口を開く。


「良いニュースが二つ。悪いニュースが一つがあるがどれから聞きたい?」

「じゃ、じゃあ良いニュースから......」


 クロウドはコクリとうなづいてニュースの説明を始めた。


「まず一つ。オレ達は勝った。あの透明ヤンキーにもマジックデッド達にもな。そしてルナ達のおかげでオレの魔力は元に戻った」


「やった!」

 めちゃくちゃ吉報じゃないか。思わず笑みが溢れる。


「もう一つは、オレ達は今カナリヤ史に残る結構な偉業を成し遂げた。いや、成し遂げている、かな。なにしろ現在進行形だから」


「え、なんの話です......?」

「最後に悪いニュース。オレ達の生還はより絶望的なものになった」


 そう言うクロウド君は冷や汗をかいている。私は恐る恐る聞く。


「それってなんのこと......?」


 ふうっとクロウド君は息を吸う。その様子はまるで試合前に緊張の糸を張るスポーツマンのようだった。


 そして、クロウド君はその絶望を語り始めた。


「オレ達が今いるここは深度約1200m。カナリヤ迷宮地下第13層。遥かに深く、今まで人類は辿り着いていなかったダンジョンの深淵だ」


 そして現時点でオレ達は人類で最もダンジョンの深くまで来た人間となる。クロウド君はそう言った。


 私達の限界ギリギリの冒険はここからが本番だったのだ。

これにて第二章は完結となります!


読んでいただきありがとうございます。もしよければブックマークしていただけると嬉しいです

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