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47話 VS透明人間 2/3

 床に積もった埃の上に足跡が増え、トランが自分に向かってきているのをクロウドは確信した。


 モンスターの攻撃がこない家の中に入りとりあえず不利が一つなくなった。いや、トランは剣を使いにくいので戦場の有利は若干クロウドに傾いていると言っても過言ではない。


 しかしそのアドバンテージを吹き飛ばして余りある圧倒的な不利要素、「魔術の使用不可」がクロウドを苦しめていた。


 埃の足跡がクロウドの1メートル先までくる。


 (来る......!)


 クロウドは攻撃を予期して左へと転がり避けた。その直後、クロウドがいた床に斬撃の跡がくっきりとついた。


「避けてばっかじゃいつまでも勝てないぜ〜」


 トランは自分の攻撃から逃げ回るクロウドを挑発する。会敵してから攻撃を受けているのトランだけだがそれも大したダメージではない。ほぼ一方的に攻撃できるトランの有利は周囲のモンスターがいなくなっても揺るがない。むしろ屋内に入ったことで逃げる場所が狭くなったとも考えられる。


 だがクロウドにとって幸運だったのはトランの正面戦闘の技術、経験の拙さだ。透明化を利用した先手必勝の暗殺が主な戦闘方法だったトランにとって、自分の存在を知覚した相手との正面戦闘は数える程しかしたことがない。それゆえに動きは素人と大差はない。クロウドの勝ち筋があるとすればそこを突くことだけだ。


 そしてそのことをクロウドは認識し、理解していた。太刀筋の単純さや誘導に簡単に乗ったことからトランの正面戦闘能力の低さに気づいていたのだ。


 モンスターは周りにいない。クロウドとトランの完全なる一対一。それならばクロウドはトランだけに集中できる。集中すれば一撃叩き込めるかもしれない。それがクロウドの目論見だった。


 だがその目論見は自分の置かれている状況を楽観視しすぎたものだったかもしれない。

 トランの初撃をクロウドが避けて、そこから本格的な戦闘が開始する。トランは透明のアドバンテージを活かして剣の太刀筋を変えながら攻撃する。クロウドは足跡でトランの位置をなんとか把握しながら攻撃を捌いて隙を探す。


 しかしクロウドは透明な攻撃を全て捌けているわけではない。トランの戦闘能力の低さゆえにある程度の太刀筋を予測出来てはいるが、流石に全てが予測通りとはいかない。致命傷だけはなんとか避けているが予測困難な太刀筋は少しずつクロウドにかすって皮膚を裂く。だがクロウドは防御に必死でトランに一撃も攻撃を当てることは出来ていない。


 (戦闘技術は明らかにオレのほうが上......!だから先程やったように攻撃を誘導すればなんとか隙を作れるかと思っていたが......)


 だが現実はその思惑とは逆。クロウドの攻撃を既に2回も受けたうえ、まんまと屋内へ誘い込まれたトランの警戒度は最大まで上がっている。再びカウンターをくらうことのないように、クロウドが攻勢に回れないように、攻撃の手を一切緩めずにクロウドを追い詰めていた。こうなってはクロウドがやり返す隙も誘導する余裕もない。ただ圧倒的なアドバンテージで斬り殺されるだけだ。


 (この状況をひっくり返して攻勢にでないことには待っている結末は敗北のみか。魔術が使えれば簡単だったんだがな)


 クロウドは魔術を使えればいくつか勝つ手段は思いついていた。だが魔術は使えない。ない袖は振れない。現在ある武器で戦うしかないのだ。


 (オレにある武器は発炎刀とナイフ、それとヤツよりも深い戦闘能力。これでなにが出来る......)


 クロウドは頭の半分を策の考案に回し、残りの半分を攻撃を避けるために回す。トランの攻撃は止まらない。体中にできた切り傷から血が流れる。攻撃を耐える意味でも失血死が迫っている意味でもあまり悠長のはしていられない。


 だがそこで足跡は止まった。つまりトランが立ち止まった。クロウドは一瞬動揺する。


「少し疲れたな。休憩しようぜ」


 その言葉を無視してクロウドは速攻で詰める。慢心か挑発か、それはクロウドにとってどうでもいい。ただチャンスが来たから攻めるだけだ。クロウドは足跡の手前まで詰めたあと、一瞬で後ろに回り込む。前と見えかけて後ろから攻撃。だがそれすらもフェイントだ。さらに横に回り込み一撃をそこにいるはずのトランに当てようと発炎刀を振るう。


 だがそれは無様にも空を舞っただけだった。手応えはない。確実に空を切った。


「な———!」


 クロウドは混乱する。足跡は動いても増えてもいない。トランはそこから動いていないはずなのだ。それならばジャンプをして避けたのか。否、ジャンプをして避ければそれ相応に周囲の埃が舞う。クロウドであればその些細な変化を読み取ることが出来る。


 だがこれはそんなに難しい話ではない。普段のクロウドなら気がつけていたであろう。普段のクロウドならもっと慎重に動いていたであろう。


 クロウドはここまでの旅で疲れていたのだ。だからここで怪しみながらも攻撃をしてしまった。クロウドはハッと気がついて上を向く。


 天井には剣を突き刺したような傷跡があった。

 先程出てきたトランがジャンプして避けたという考察はあながち的外れではない。ただ問題はジャンプをしたタイミングだ。


 トランは立ち止まるのとほぼ同時にジャンプをした。そして天井に剣を突き刺してそこに留まっていたのだ。これならば唐突にストップしたトランの足跡にクロウドは気を取られてジャンプをしたことに気がつくことができない。音もトランの魔術の影響で消える。こうしてトランは床で立ち止まったように見せて、実際は天井に差した剣にしがみついているという状況を作ることに成功したのだ。


 そして疲労から判断力の低下しているクロウドはまんまとそれに引っかかり、床にトランが立ち止まっていると思い込んで空振りをしたというわけだ。


「ま、マズイ!」


 クロウドは気がついたが少し遅い。トランは剣を天井から抜き、真下にいるクロウドに向かって落下しながらその剣を振るった。空振って隙だらけのクロウドは避けることができない。


「死ねやァァァ!」

 トランの叫びが部屋に響き、クロウドの脇腹が斬撃で裂けた。かろうじて急所を斬られることは避けれたが......


「ぐうう!」

 クロウドは思わず脇腹を抑える。痛みを酷いがそれは我慢すればいい。それよりも出血量が酷い。数分で止血しなければ死に至るだろう。


「大ピンチだなぁ。今謝れば楽に殺してやるぜ?」


 トランはそう言ってゲヒャヒャと笑う。その邪悪な笑い方は声だけで悪趣味な笑い顔が想像できた。


 と、ここでクロウドはあることに気がついた。

 クロウドを切った時についたのであろう。トランの透明な剣についた血がみるみると床に落ちていって、血が全て落ちた剣は完全な透明になった。


 クロウドはそれを見て納得する。


 (剣に血がついてしまってはそれで位置や攻撃が分かってしまう。なので魔術か何かで血を全て落とすようにしているんだろうな。あ、そうだ......!)


 瞬間、クロウドに電流走る......!


 (そうか!あの方法なら位置どころか姿まるまる把握できるようになる!)

 クロウドはニヤリと笑う。


「どうやら謝るのはお前の方になりそうだぞ」

「ああ?」

 

 トランは笑うのをやめて凄む。


「お前を倒すエレガントな作戦を思いついちまった」

 クロウドはそう言ってトランに指を差した。

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