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46話 VS透明人間 1/3

 「俺の名はトラン=バドル。冥芒星第6席。お前を殺す男の名だ。せいぜい地獄で思い出せ......!」


 そう名乗った男、トランは再び姿を消す。これでクロウドはまたトランを認識することが出来なくなった。


 (姿は見えなくとも位置くらいは足元を見れば分かる)

 クロウドは足元を見る。そこは一面瓦礫で埋もれているのだが、そのおかげでトランが移動すれば踏まれた瓦礫が動くので位置が分かるのだ。


 (とはいえ流石にこのままだと分が悪いな)


 そう考えたクロウドはトランがいると想定される位置から距離をとりながら戦う。


 (アイツが持っていた武器は剣だ。銃や弓矢などの遠距離攻撃できる武器があるならはなからそれで攻撃して来ているはずだ。だから間合いにさえ入らなければ極論攻撃に当たることはない。こっちも攻撃できないがな)


 だがそれがあくまで架空の理論で現実はそれすらも上手くいかない。クロウドは周囲から迫るスカイアリゲターを捌きながらトランと戦闘しなければいけないのに対し、トランは透明化しているのでスカイアリゲターに襲われる心配はない。なので自由に動けるトランから距離を取ることすらもできないのだ。


 しかも万全の状態で動けるトランに対し、クロウドはそれなりに傷や疲労があり魔術を使えない。この勝負は最初から圧倒的なハンディがついているのだ。


 クロウドだけがモンスターに襲われ、クロウドだけが魔術を使えない。この二つのハンディが存在する限り状況は常にトランに有利に働く。


 (魔術が使えないのはどうしようもない。だがこのスカイアリゲター共はここを離れれば撒くことができる。そうなれば負担が減ってヤツだけに集中できる!)


 クロウドは来た道を振り返り、そちらに向かって走り始めた。


「ははは!逃げても無駄だぞ、お前はモンスターに対処しながら移動する必要があるのに対してオレはフリーだ!逃げ切ることはできん!」


 (よし!オレについて来た!)


 クロウドは安堵した。これは逃亡ではなく状況を少しでも良くするためのクロウドの策である。ただその策を実行するにあたってトランがクロウドを追ってくる必要があった。最悪トランはクロウドが逃げたと判断してルナ達の方を襲う可能性もあったわけだが、実際にはクロウドを追って来たのでクロウドは安堵したわけだ。


 (これで作戦は次のステップだ。あそこまでヤツを誘導する!)


 その瞬間、トランがクロウドに追いついた。だがそれをクロウドは察知している。トランのスピードと自分のスピードから追いつかれて攻撃されるタイミングを算出していたのだ。だがカウンターは出来ない。さっき決めたばかりなので当然トランも警戒しているとクロウドは思ったからだ。そしてその懸念はあっていてトランはクロウドの蹴りもナイフも届かない距離から剣を構えていた。


 クロウドには見えないがトランが剣を振りかぶる。上ではなく今度は横へ。横向きにクロウドの胴体を切り裂くという算段だ。単純な剣筋だが見えない斬撃に小細工は不要。流石にクロウドも透明人間の太刀筋を毎回予測できるわけではない。


 (だがそれでもこの一撃を防ぐ!)


「燃えろ!」


 クロウドはそう言ってトランが居ると推測した方向へ発炎刀を振る。ずっと魔力を流され続けていた発炎刀は宙を舞うような大きな炎を出して燃える。クロウドは今魔術を使えない。だがアーティファクトである発炎刀は魔力を流して声で起動させるだけなので使用できるのだ。


「アッツ!」


 その炎がトランの額をかすった。トランは予測だにしなかった熱

の痛みに声をあげ怯む。結果剣を振るうことも出来なかった。


「野郎......!」


 トランは怒りを露わにし血管を浮かべながらクロウドを睨む。まあ透明になっているのだから睨んだってクロウドには見えないのだが。だが声色からトランの怒りを感じ取りクロウドは再び安堵した。


「消えろ」


 炎が消える。


 (口調や聞いた話から短気な性格だろうと判断していたがあっていたようだな)


 発炎刀での攻撃はトランの攻撃を防ぐ防御だけでなくトランを怒らせる挑発の意味もあったわけだ。


 (これでヤツは冷静さを失いオレの作戦にハマるはずだ。だが念のためもう一押し)


「雑魚そうで安心したよ!」


 クロウドは逃げながら挑発する。至極単純で幼稚な挑発ではあるが、その稚拙さが既に頭にきているトランにとっては劇薬であった。


「テメエは楽には殺さねえぞ!」


 トランはヒートアップしてクロウドを再び追い始める。踏まれる瓦礫が割れる音がその怒りを表していた。


 クロウドはその怒りを察知し辿り着いた家の中へ逃げ込んだ。トランもそれに続く。いつの間にか崩壊地帯の端まできていたのだ。そしてそれはクロウドの作戦のうちである。


 家は扉を潜るとそれなりの広さの部屋になっていた。周囲の壁には扉や階段が付いている。その部屋の奥まで逃げ込んだクロウドにむかって思い切り剣を振るう。


「燃えろ!」


 クロウドは一か八か床に発炎刀を突き刺して強めに炎をだす。解放された炎は爆風を生んでクロウドを壁まで吹き飛ばした。クロウドは炎を消して剣を振るったトランの背後に回り、玄関の扉を施錠する。


「ああ、なるほど......」


 その様子を見たトランはクロウドの作戦を悟った。


「確かに家の中ならモンスター共は襲ってこねえから条件はイーブンだな。オレは誘い込まれたってわけだ。そんで......」


 トランは足元に目を向ける。そこにはうっすらと自分の足跡が浮かんでいた。


「積もった埃で足跡が見えるから瓦礫があった外と同じように、いや、外よりもハッキリと俺の場所が補足できるってことか」


 クロウドはゴクリと唾を飲み込む。


 (大丈夫だ。冷静さを取り戻されたのは残念だが今更作戦がバレたところで問題はない。作戦は成功だ)


「おまけに狭い家の中だからナイフを使うお前に対して剣を使う俺は攻撃がしづらい」


 トランはそう言ってはあとため息をついた。


「その程度の作戦でひっくり返せる実力差じゃねえが......まあいいぜ。ゴキブリを叩き潰すなら屋外じゃなくて屋内だよなあ」


 トランはニヤリと意地悪く笑みを浮かべる(例の如くクロウドには見えないけど)


「ペラペラと楽しそうだな。言葉覚えたばっかの一歳児じゃねえんだからよ」


「うむ、確かにそうだな」


 トランがクロウドの煽りをさらりと受け流す。一度激怒した分冷静になっていた。


「ではこれより本番。タイマンという名の蹂躙を始めるとしよう」


「蹂躙されるのはどっちだろうな」


 クロウドは集中の糸を張りなおして発炎刀を足跡の方へ構え直す。


「じゃあ、殺すぜ」

 その声の直後、クロウドに向かって足跡が増え、埃が舞った。

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