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41話 機転と強敵

「た、助かった......」


 瓦礫の中から安堵の息を漏らす。正直本気で逃げ切れるとは思っていなかった。クイーンスパイダーの気を引いてくれたあの声の主には感謝感謝だ。

 

 オレが実行した作戦は単純、クイーンスパイダーの気が逸れた時に咄嗟に思いついた。


 まずオレは「ライジン」の反動でまともに動けない。なので気が逸れている内に逃げるなんてことは出来ないのだ。だが這うことくらいなら出来る。そこでオレは近くの瓦礫が積まれていた場所へなんとか身を隠した訳だ。


 本来ならクイーンスパイダーはこの辺の建物を全て壊してでも俺のことを探しかねないが既にオレは針に刺されている。すぐにリビングデッドに変異する身だ。なのでクイーンスパイダーも深追いはしないだろうという読みだった。もちろんそれでもクイーンスパイダーはオレのことを探し始める可能性だってあった。まあそこは賭けだったな。

 

 そしてじゃあ何故オレはリビングデッドに変異しないのかという話だがこれも賭けだった。それもかなり分の悪いな。

 

 まずリビングデッドに変異する仕組みはクイーンスパイダーの魔力が体内に侵入して自分の魔力に感染する。そしてその魔力が体に影響を及ぼしリビングデッドに変異するという仕組みだ。


 この変異の第一の条件は前述の通り「クイーンスパイダーの魔力が体内に侵入する」ことだがこれには2種類ある。「クイーンスパイダーの針で刺される」か「リビングデッドの攻撃が体内に到達するか」の2種類だ。前者なら数秒、運が良ければ数分、それぐらいの短期間で魔力が感染して変異する。後者なら1日から長くても4日。オレの場合は前者の「クイーンスパイダーの針で刺される」が該当するのでオレはとっくに変異していないとおかしいのだ。


 だがオレは針が刺さった直後に咄嗟の対策を講じた。ここで目をつけたのが第二の条件。「クイーンスパイダーの魔力が体内に侵入して自分の魔力に感染する」ことだ。この条件の肝があくまで自分の魔力が感染することによって変異が引き起こされるという点だ。侵入してくるクイーンスパイダーの魔力自体は微々たるものなのでそれだけで変異することはない。あくまで自分の魔力が感染する必要がある。

 

 そこでオレは自分の魔力を全て発炎刀に流して一旦体の中の魔力をゼロにした。そう、変異に自分の魔力が感染する必要があるということは、裏を返せば自分の魔力がなければ感染も変異もしないということだ。

 

 この魔力を全て発炎刀に流し込むという作戦が上手くいくかはその時点では分からなかった。魔力を流し込む前に魔力のコントロールが効かなくなる可能性もあったし、そもそも自身の魔力がゼロなら感染しないなんて机上論でしかなかったのだから問答無用で変異していた可能性もあった。

 

 だが結果は上手くいった!オレの魔力がゼロな限り変異しないのだ。

 

 しかし一時的に変異しないで済んでいるだけで問題点がいくつかある。まず感染していないだけでクイーンスパイダーの魔力は体の中に残っている。これが自然に消えることはないだろう。なので魔力が時間で自然回復するそばから発炎刀に流す必要がある。つまりオレはクイーンスパイダーの魔力が残る限り魔術を使うことが出来ない。またそれに伴い四六時中発炎刀を握っていないといけないし眠ることもできない。眠りながら魔力を流し続けるなんて器用なことは出来ない。眠らずに行動できるのはせいぜい1週間半が限界だろう。そこがタイムリミット。もちろん時間を重ねるごとに疲労も溜まりパフォーマンスも低下するだろう。


 だが救いはある。クイーンスパイダーの魔力と感染した魔力を体内から排除する特効薬が存在する。残念ながらそれはダルトが持っていたのでオレは持っていないがこの層に恐らく、いや間違いなくある。しかも場所も分かっている。場所はかつてギルドが結成したダンジョン攻略連合がクイーンスパイダーと決戦をした場所。あそこなら死体やリビングデッドが確実に特効薬を持っているはずだ。


 だがあそこには近年報告にあった魔術を使うリビングデッド、「マジックデッド」がいるはずだ。今の魔術を使えないオレが簡単に勝てる相手ではない。特効薬を探そうと思ったら全ての戦闘を避けるわけにはいかない。


 まずはルナと合流することにしよう。ルナと合流すればだいぶ戦闘は楽になる。クイーンスパイダーに追いかけられたのはオレなのだからどうせ生きているだろう。ていうか生きていてくれないとオレが追いかけられ損だ。

 

 ちなみにマジックデッドのことはルナに話していない。他のことを覚えることで精一杯だったようだし無駄な戦闘はせずすぐに逃げるように言ってある。それに普通に6層への階段まで最短で向かえばマジックデッドと遭遇することもないだろうし、そもそもマジックデッドは高度な魔術は使えない。まあ遭遇しても普通に逃げていれば怪我をしたりすることもないだろう。心配はない。

 

 そう考えている間に動けるようになってきた。反動が少ないと回復する時間も早くなる。


 さて、マップは頭の中に入っている。とりあえず合流するには6層へ向かうのが手っ取り早いな。そういえばルナに渡した地図は結構古いやつだが......まあ大丈夫か。どうせあの地図と違うのは決戦の跡地の崩壊地帯だけだし、あんなとこよっぽど迷った末じゃないと通らんだろ。


 そうして、オレは6層へ向かって歩き始めた......


「っと!油断ならねえな」


 オレは背後から飛んできた爆発の魔術を避ける。さっきまで隠れていた瓦礫達が粉々に砕け散った。

 

 魔術が飛んできた方を確認する。そこにいたのは一体のリビングデッド、いや、魔術を使ったのだからマジックデッドか。


「崩壊地帯以外で遭遇するとはな」

 

 別に不思議な話ではない。マジックデッドは魔術が使える魔術師がリビングデッドに変異したものだ。沢山の魔術師が変異した影響で放火地帯に多いだけで他の場所に居たっておかしくはない。


 だがこれは僥倖だ。このマジックデッドが生前特効薬を持ったまま変異したのであれば今も持っているはずだ。ここで仕留めてしまおう。


 オレは発炎刀を抜いて構える。魔力を流しながら戦闘しなければいけないのは少し大変そうだが行けるだろうか。


 リビングデッドがボール状の爆発魔術を飛ばしてくる。形や速度からして爆発魔術の基礎「爆撃」だろうか。断定するのは危険だがある程度の予測は立てる。


 オレはその魔術を避けてマジックデッドの方へ距離を詰める。マジックデッドはそんなオレに対して間髪入れずにいくつも同じ爆発魔術を飛ばしてきた。


 オレはそれを余裕をもって避ける。威力は強力だが弾速が遅いのが爆発魔術の特徴だ。それもマジックデッドが使える程度の低級魔術。落ち着いて対処すれば対して怖くはないんだが......


「上手いな」

 

 オレはマジックデッドの戦い方に関心する。オレが爆発魔術を避ける位置に再び爆発魔術を撃ってくる。撃つ位置を工夫しているのでオレは一向に近づけずにただ消耗していく。戦い方が上手い。嫌な言い方をすればいやらしい。リビングデッド、マジックデッドの戦い方は生前に影響されるという。それならばこのマジックデッドは熟練の冒険者だったのだろう。こんなところまで来ているぐらいだしな。

 

 だが惜しむべくはやはり低級な魔術しか使えないということ。オレはこれでもプラチナランク。上から数えて一桁の冒険者だ。そんな魔術しか使わない相手に負けはしない。


 マジックデッドが一度に撃ってくる爆発魔術は四発。距離をもっと詰めて仕留めるにはそれら全てをいなさないといけない。今飛んできている魔術の精度からして外してはくれないだろう。

 

 避けれるのは一つまで、発炎刀で弾けるのは二発。後一発どうにかしないといけないが......


「お、いいのあるじゃん」

 

 オレは近くの瓦礫に目をつけた。瓦礫にはまだお世話になりそうだな。


 オレは爆発魔術を避けながら手頃なサイズの瓦礫を拾う。

 

 かつてルナに力の応用を語ったことがあったな。応用とは自分の持っているものをいかに幅広く使えるかだ。例えば武器ですらないものを己の発想と力で武器にして状況を変える。それも応用の一つのカタチだ。


 つまり......!

「これが応用だ!」


 オレは瓦礫を発炎刀を持っていない左手でマジックデッドに向かって投げつけた。瓦礫投げか、力の強いルナが使えば強力な武器になるかもな。まあ瓦礫を投げて攻撃するなんて斬新な発想ルナには出来ないだろう。いや別に斬新ではないか。まあそれはいい。

 

 マジックデッドはオレが投げた瓦礫を爆発魔術を一発撃っていとも容易く粉々に破壊してみせた。だがそれでいい。それが目的なのだから。


 見ていた限りマジックデッドが一度に撃てる魔術は四発。四発撃ったら若干のクールタイムが発生する。

 

 今一発使わせた。間髪入れずに距離を詰める。一発避けて、二発、発炎刀で弾く。これでマジックデッドは次弾を撃つまでにクールタイムが出来る。作戦通りだ。これであとは発炎刀を急所に打ち込むだけ......!

 

 だがその時、マジックデッドはオレの死角から氷が尖ったツララのようなものを飛ばしてきた。

 

 今魔術で出したのか......?いや、きっと念の為に詰められる前から用意してあったのだ。こうして詰められる状況を想定していて!

 

 その氷はオレの頭に向かって飛ぶ。発生したイレギュラー。これは避けられない。


 だがイレギュラーを想定してこそ一人前の冒険者だ。オレは左手に持っておいた瓦礫でツララを防いだ。左手ではオレはナイフを振れない。なのでオレはいざという時の盾代わりになるように薄い瓦礫を距離を詰める途中に拾っておいたのだ。そうしてそれが悟られないように瞬時に背中に隠してそのままここまで詰めてきたというわけだ。

 

 もうイレギュラーは無さそうだ。オレはツララで抉れた瓦礫を捨ててマジックデッドの首の喉元を発炎刀で突き刺す。

 

その刃先がうなじから飛び出た。

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